異世界観光その1 出発
「やっときた。おっそーい!」
「おはようさん」
既にアスカとアラタが校門に集まっていた。
「おうっ?」
校門の壁で見えなかった物が目に入ってびっくりした。
俺がなんだこれと言う前にアスカが説明してくれる。
「小竜車なんだって。私たちの世界で言うと馬車だよ。私も見てびっくりした」
「フ……これも異世界に来たという実感がするね」
アラタがメガネのブリッジを指で持ち上げて高揚感を抑えながら言ってきた。
たしかに、馬サイズのでかいトカゲが、四輪で出来た移動車に皮ひもで括られている。
このサイズで『小竜車』か。じゃあ、もっと荷物を運べるような『大竜車』とかもあるんだろうな……。
トカゲといっても、二本の後ろ足で立ちながら、前足? は退化している。トカゲというよりも小さい恐竜のようでもあり、クチバシもあることから鳥のようでもあった。
「異世界から来られた皆様方」
かしこまった口調で、シャルティがお嬢様らしい上品なお辞儀をした。
「不本意とはいえ、この世界に降り立ち、同じ学園の中で勉学を共にする仲であり、ご友人となっていただいたのを機に、私シャルティ・シャルレットがこの世界の一端をご紹介させていただきます」
彼女の後ろ斜めにいた白髪でメガネと燕尾服の執事さんもお辞儀をした。
「今日は是非、この世界をお楽しみくださいませ」
今さらかしこまった言葉に、俺はどう返せばいいんだろう?
「じゃあ、今回はよろしくお願いします」
「よろしく」
アスカとアラタが軽くお辞儀をした。俺も続いて会釈をする。
「では、小竜車にお乗りください。この国立シドリック学園から、この世界、ラウ・ドアカ・アースの一国、そのエルタニア王国が王都、シルバニオンへは、大体三十分ほどの移動になります」
ガオンが前に出てきて、銀髪の執事さんに手を差し出した。
「では、お言葉に甘えますかな。改めてよろしくと言おうか、ホーリードラゴン殿」
「…………」
え? この執事さん、あのガオンが倒したホーリードラゴン?
「さすがは筋肉妖精様。私のホーリードラゴンの擬人化。アルフレッドによく気がつかれましたか」
「…………」
しゃべらないどころか、ガオンと目を合わせないホーリードラゴンのアルフレッドさん。やはり生物の頂点たるドラゴンは、ガオンに一撃で倒された事を根に持っているようだ。
「アルフレッド。お客様に失礼ですよ」
「…………」
シャルティのひと声で、アルフレッドさんは無言でガオンと握手を交わした。
ギリギリギリ……。
「これは良い握力」
ニッカリと笑うガオン。
無言で目端を尖らせてガオンを睨みつけるアルフレッドさん。
この両者の溝は、きっと今後も深くなるんだろうな。と静かに思った。
ああそうだ、そうだった。
アルフレッドさんと握手をし終わったガオンへ、俺は命じる。
「ガオン、お前は今日は妖精化して小さくなれ」
「なぬ?」
「ガタイがでかすぎるんだよ。それにパンツ一丁で街中をうろうろするな」
「私のケツ筋は素晴らしいほどに際立っているぞ」
「うん、だから小さくなって目立たなくなれ。そもそも、馬車……小竜車に入れないだろ」
「ふむ……仕方なし、か……」
そしてガオンは不承不承に小さくなって三対の羽根を輝かせる妖精の状態になった。
チチチ……チチチ……
「僕のハーピィたちは、この通り、小獣化させてあるから大丈夫さ」
三羽の小鳥たちが、アラタの肩や頭に乗ってさえずっていた。
「私のキュアラちゃんは元々小さいから大丈夫」
なかなか姿を見せてくれない、アスカの召喚獣キュアラは、アスカのストレートロングの髪から顔だけを出していた。
「それでは出発いたしましょう」
ホーリードラゴンの擬人化。アルフレッドさんが小竜のたずなを握り、俺たちは小竜車に乗って、王都シルバニオンへ向かった。
余談であるが、この世界には『馬』は存在しないらしい。
移動中の小竜車の中でそれが話題になった。
この世界で四足歩行し、首と顔の長い生き物……すなわち馬は伝説上の存在らしく、『ユニコーン』や『ペガサス』などの伝説上の生物に分類されるらしい。
地方では馬という存在は神の使いなどと崇められているところもあるらしく、俺たちの世界には当たり前のように馬がいる事に、シャルティは驚きつつ、馬がどんな扱いや役目を持っていたかを、興味を持って聞いてくれた。
とまあ、早い話そんな会話で移動中はそれなりに楽しく談笑して移動できた。
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