まあ、オチは分かっているだろう?


「では小野寺マモル、あなたには新しく召喚獣を呼び出し、この学園で再び学ぶ資格を与えます」


「はい」


 俺だけの、もう一度の召喚儀式。


 そこにはサラ先生のほかに、学園長も同席していた。


 荘厳で巨大な召喚装置。


 この召喚儀式では、おこなった者のステータスが反映される。何かが得意だったら、その長所を生かしてくれる召喚獣が現われたり、欠点があればそれを補ってくれる召喚獣だったり、何か強い思い入れがあれば、それを体現したかのような召喚獣が現われる。


 と言う設定だったような気がする。


「ねえ、サラ先生」

「なにかしら?」

「この儀式では俺の素養が反映されるんですよね」

「そうよ。忘れてたの?」

「いえ、例えば素養として、『絆』とかがあったらそれも反映されるのかな? って」


 サラ先生が、ふっと笑った。笑われてしまった。


「さあ? どうかしら? 二回も召喚儀式をおこなう生徒なんて、私の中ではあなたが初めてよ。はい、さっさと回しなさい」


「はーい」


 どー見てもこれ、ガチャにしか見えないんだよな……。

 円の中に、一本の棒状のノブがあって、それを回す。

 うん、これどう見てもガチャのアレだ。


 俺はノブを掴んで、


「……ふうううう」


 緊張の息を吐いた。

 胸に手を置く。そして俺は覚えた手のつたない呪文を小さく呟く。

 そして、ガチャリと回した。

 すると――

 

 バン! バン! ババン! 

 パーパラパパー パッパパーラパパー

 爆発音と紙ふぶきが頭上から振ってきて、どこからともなく調子の良いラッパ音が鳴り響いた。


 あーあ。やっぱりな。

 こんなに都合よく、うまく行くなんてさ。

 俺は緊張の心の疲れと一緒に、安堵のため息をつく。

 強い光が頭上で発生した。


 そして――


「ハハハハハハハハハ! フハハハハハハハ!」


 光の中から快活な笑い声が聞こえる。


 そして光が収束し召喚獣の姿があらわになった。


 それは全身が健康的な小麦色の皮膚で、眩いばかりの純白の歯を見せながら、それはとてもとても素晴らしい笑顔で、スキンヘッドでティーバックのブーメランパンツに岩石のような筋肉がモリモリの。


 ――ゴリゴリマッチョのおっさんだった。


「ガオン……」


「ハハハハハハ! 筋肉降臨! 私を引き当てた強者よ! 筋肉の私がやってきた!」


「…………」


「どうした? そんな呆けた顔をして。私の自慢のボディーにさっそく見惚れたか?」


「馬鹿言ってんじゃねえよ」


「久しぶりだな! マモル!」


「ああ、四日? 五日ぶりかな?」


「よくまあ私を、また引き当てる事ができたな!」


 俺はこの数日間、何をしていたのだろうと、落胆する。


「ちょっと、裏技があったんだよ。あまり自身はなかったけど、触媒になるかもしれないってな」


「何?」


 俺は、つけていたネクタイを解いた。


「ほらよ、忘れ物」


 それは、ガオンから預かりっぱなしだった、ガオンのネクタイだった。


「これを身につけていれば、自身のステータス以外に、お前を呼び出すきっかけになるだろうと、博打気分で身につけていたんだ。図書館で探したんだ。大昔にやっていた召喚術で、自分に魔力が無くても。召喚したい生物に縁ある物を触媒にして呼び出す方式を使ったさ。召喚するための場はここに出来上がっているから、このお前のネクタイを触媒にして呪文を唱えるだけだった」


 俺はガオンのネクタイを、本人の手に戻した。


「ほほう、私のネクタイを触媒にしたのか。持っていてくれたのだな」


「こんなの、後生大事に持っていたくなかったからな」


 ガオンが、ネクタイを握り締めた。


「そうか、また会えてうれしいぞ! マモル!」


 ガオンの笑顔に、俺は肩をすくめた。


「まったく……これが本の中の話なら、月並みなオチ過ぎてご、都合主義ヨロシクの失笑ものだぞ。ありがち過ぎて呆れられるわ」


「そうか? だが百人に一人ぐらいは、きっと笑ってくれるかもしれないぞ!」


「ほんとに、一パーセントだろうな。こんなオチで喜ぶのは」


「だが、それだけで十分だろう? ハッピーエンドで終わる。それが一番良いことだ、そうは思わないかね?」


「お前と再会するのが、はたしてハッピーなのかは分からないけどな」


「だが、お前さんはこの私が、この三年間。血湧き肉躍る、健全でマッスルな生活を再び、約束しようではないか!」


「あー、暑苦しい。そういうのはいいから」


「お前さんはブレないのう」

「お前だってブレねえじゃねえか」


 まったく、本当にコイツは……。


「ふ、ふふふ……」

 なんだかよく分からない。笑ってしまう。

「ハハハ、ハハハハハハ!」

 なんだろう? 何がおかしいんだろう?

 笑いが、笑いが止まらない。


 ガオンと一緒に、ひとしきり笑う。


「……はぁ」

「マモルよ」

「なんだ?」

「もし、召喚できたのが、再び私じゃなかったらどうしてた?」

「別に、その新しい召喚獣を連れて、のんびり過ごすよ」

「そう言うと思った!」

「思ってたのなら聞くんじゃねえよ」

「ハハハハハ!」

「しっかしまあ、本当に……」


 俺はまた月並みな言葉を吐いてしまう。


「まったく、筋肉ってのは、本当に裏切らないな」

「まったくだ! 私の筋肉は、決して裏切らない!」


「先生、学園長。これで良いですか?」


 サラ先生と学園長が頷いた。


「まあ、正直意表を突かれたって所だけど、出してしまったものは仕方が無いわね」

「じゃあ、これで。明日からもよろしくお願いします」

「うむ、精進したまえ、問題児の小野寺マモル」

「マモル、お前問題児だったのか?」

「お前のせいだよ!」

「うむ!」


「お前のせいで問題児のレッテルが貼られたんだ。少しは筋肉を自粛しろ!」


 そして俺たちは、儀式場を出た。




 外では、アラタとシャルティ、アスカが待っていた。


「マモル! ガオンさん!」


 アスカが今にも飛びそうなほど喜んでいた。


「わざわざ待っていなくてもよかったのに……」


「いいえ、あなたが再びガオンを召喚できるか、このホーリードラゴンのアルフレッドとのリベンジが控えているのですから、ガオンを召喚できたか本当に焦れてしまいましたわ」


「再召喚の儀式直前まで、古い召喚儀式が載っている本を、図書館でみんなであらかた探し回ったからね。それに僕だって、再チャレンジ候補だから。つまらない召喚獣を引き当てたとしたら、さすがの僕でも許さなかったよ」


「はいはい、どうもありがとう」


「良かったね! マモル!」


「まあ、よくよく考えたら、またコイツとの日常が始まるんだと思ったら、なんだか辟易してきたよ」


「ハハハハハ! みな、無事で良かった良かった! 大団円というやつだ! ハハハハハ!」


「声がでかい……」


「しかしまあ、僕もつくづく思うよ」


「うんうん」


「そうですわね」


 三人が口をそろえて、言ってきた。


「「「筋肉は裏切らない!」」」


「あ、それもうやったから」


「えー、せっかく成功したらそろって言おうって狙ってたのに」


「残念だったな、アスカ」


「うむ、私の筋肉は、決して裏切らない!」


 まあ、そういうことで。


 一件落着。と言うやつだ。


                   ―終わり―

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。よろしければ感想評価等よろしくお願いします。読んでくれてありがとうございました。

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異世界に来たんだが全てを筋肉で解決される話~異世界で召喚獣を出したけどゴリマッチョのおっさんで俺の変わりに俺TUEE無双してくれて魔法学園なのに筋肉で最強になってしまったんです~ 石黒陣也 @SakaneTaiga

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