エピローグ 絆。

三日後

 三日後。


 ざあざあざあ――


 今日は雨だった。

「…………」


 俺は教室で頬杖を突いて、窓の外を見ていた。


 俺の手元には、召喚獣はいない。


 それでも俺が未だここに残っているのは、審議中だからだ。


 俺は召喚獣、ガオンを殺してしまった。


 校則で、召喚獣を死なせたら即退学処分になる。はずだった。


 あの大騒ぎの後、ガオンはたった一人で大魔王帝国の兵団へ立ち向かい、そして果てたという……聞くに、ガオンは半数まで魔族たちを倒したのだと言う。そして残った半数は、撤退していった。


 ガオンの犠牲によって、この学園は守られた。

 最悪の状況をたった一人で防いだんだ。


 その両者の失態と功績が天秤にかけられ、三日たっても上層部で審議が行われている。


「…………」

「今日も相変わらず辛気臭いアホ面ね」

「あん?」


 マリーロンが腰に手を当てて、俺の隣にいた。


「私たちは学園に危機を救った英雄よ。もっと胸を張りなさいよ」

「……はっ」


 お前が本当は何をしていたのかを知っているのは、俺たちだけ。

 鼻で笑ってやった。


「なによ、文句でもあるの?」

「別に」


 俺は窓の外に向き直った。


「まーだあの筋肉の事を引きずってるの?」

「…………」

「ちょっと、何とか言ったらどう?」

「うるせえよ」

「あーあー、本当につまらない男ね」

「…………」


 俺がマリーロンを無視していると、何も言わず、そのまま去っていった。

 そのときの彼女の表情は、見ていない。


 〈昼休み〉


「マモル、今日もカツ丼か?」

「ああ……」


 しっかり手を合わせて、いただきますとつぶやいて食べた。

 今日も淡々と、みんなが集まって静かに昼休みを過ごす。


 ガオンのことは、遠慮しているのか誰も聞いてこないし話題にもならない。


 俺はがつがつとカツ丼をかっこんだ。


 確実にカロリーオーバーのデブまっしぐら。


 それでも、食べた。



 俺の喪失感は、ずっと胸の中に残ったまま。


 毎日が暇で、つまらない。


 俺はこんな暮らし方を、すごし方を求めて、貫いて、したがっていたはずだった。


 なのに、今ではただ無性に何かが焦れている。

 だが、何をしようかと思っても、思いつかない。

 喪失感と、ただただ時間の過ぎるだけの焦燥感。


 矛盾した気持ちが、胸の中で混ざってもうわけが分からない。


 考えるのとやめようにも、この感覚が払拭できない。


 まだ入学して一ヶ月もたっていないのに、いろいろなことが起こりすぎた。


 だからかもしれない。それらから全てを開放され、俺この胸をずっと埋めていた物がなくなった。平穏、平和、平々凡々。


 俺はこの短い時間の間に。


 どうやら少しだけ、変わってしまったようだ。



「小野寺マモル、寝るんじゃない!」


 サラ・スカレット先生の一喝。


 俺は眠気でうつらうつらしていたところではっとなった。


「……すいません」

「じゃあ、授業を続ける」


 サラ先生ですら、この調子だ。


 普通ならもう一言二言、厳しい言葉を乗っけてくるはずだっただろう。


 みんな、俺に気を使いすぎ。


 これでは、自分が立ち上がるきっかけさえつかめないじゃないか。


 俺は頬杖を突いて、窓の外を見る。


 外は未だに、雨だった。

 


「ふぅ……」

 たった一人の、寮部屋。シャワーからあがって一息つく。

「…………」


 ガオンの持ち物は、学園の上層部に持っていかれた。


「おっと」


 だが、あの1トンのダンベルで空けた床は、今でも修復されずに残っている。


 ダンボールとガムテープで間単にふさいでいるが、うっかり踏んでしまうとあっさり踏み抜けてしまう。


「ったく……」


 結局補修しないままで……。

 髪を十分にバスタオルで拭いてから、ベットに寝転ぶ。

 勉強など、する気にもなれない。


 何もない。


 何か、一人で遊べる物でも買おうかな?

 今日も何十回であろうかため息をつく。


 何もかもがめんどくさい。


 だけど、何かをやりたくてうずうずする。

 矛盾しているが、本当にそんな感じだった。

 こんな気分になったのは、初めてだった。


 審議の結果。

 早く来ないかな。


 俺が元の世界に帰れるかも知れない。


 ここに来て最初に思ったことが、ようやく叶うというのに。


「…………」


 この感情を、なんと表せばいいのだろうか?

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