余った時間で。
「ううーむ。今日は苦戦したとはいえ、なかなか張りのある勝負が出来た」
「ガオン、それは僕たちのドラゴンやハーピィたちには苦戦もしなかったということかな?」
「おっと、これは失礼」
「まあいいさ、ガオンとマモルは、僕がもっとハーピィたちを強くして、スクロールで戦略をしっかり練って、再戦させてもらうよ」
「うむ! 楽しみにしているぞ! はっはっは!」
なんだかんだ言っても、この空気は悪いものではない。
何もしなくも、勝手に周りが騒いで盛り上がって、雰囲気を楽しくしてくれる。
別段、俺は何も特殊なことはしていない。しなくてもいい。
たとえば、俺は本の中の主人公でなくてもいいんだ。
何か大きな運命を背負ったり、重たい宿命を定められるなんて、俺はごめんだ。
本当に御免被る。
俺は何もしなくても、勝手に時間は過ぎいく。何かが通り過ぎていく。
俺はその端っこにいるだけで十分なんだ。
この空気。本当に悪くない。
やりたいヤツがやればいい。話題の主導権でも、グループのリーダーでも。
俺は、そんなことはしない。したくない。
だって、俺がやらなくても誰かがやってくれるんだから……。
この和気あいあいとした空気も、その中にちょっと入っているだけで十分なんだ。
これでいい。これだけでいい。
これが俺の処世術。生き方なのだから。
「しかし、学園長も大きな事をしましたわね」
「大きなこと? って?」
「アスカさん、学年別での召喚中の試合は厳禁とされている。そして一切の交流ができないほどに、学年別でエリアが分け隔てられていることはご存知ですよね? その自分で敷いた禁則事項も捻じ曲げてまで、一年のガオンさんと二年のゴーレムとを戦わせたのですから。これは大事でもあります」
「そっか、でもそんなに厳しくすることなのかな?」
「厳しくもなりますわ。召喚獣は、今でこそ人間と良い交流をしていますが、実際はどの召喚獣も人間よりも強いのです。もし凶暴で邪悪な召喚獣が現れたりでもしたら、死傷者がどれくらい出ることか」
「あ、そっか……私のキュアラちゃんがおとなしい子でよかった」
アスカの髪に隠れてまったく出てこない彼女の召喚獣。妖精のキュアラが顔を出した。本来はこのサイズが妖精って呼ばれるべきなんだよな。とつくづく思う。
「私たち召喚術士候補生は、自分と違う存在と、この三年間でどれだけ絆が作れるかが重要なのですわ。しかも人間である私たちよりも確実に強い大きな存在と」
「そうだね、実際のところ僕たちはこうやってパートナーシップを築いているけれども、召喚獣がその気になれば、僕たちなんて赤子の手をひねるかのように重傷を負わせることもできるんだろう。そんな相手と、臆することもなく肩を並べて同じ時間を過ごす」
「アラタさんの言うとおりですわ。私たちが一番、重要視しなければならないのは、自分よりも大きな存在と、良い関係をどれだけ築いていけるかに、かかっているんですわ」
そんな話題で、俺はつい、ポツリとこぼしてしまった。
「じゃあ、何でわざわざ召喚獣同士で戦わせたりしているんだ?」
全員が立ち止まって、頭に「?」マークをつけた。
「あ……」
しまった。言うべきじゃなかった……。こんなの俺の柄じゃないはずなのに。余計なことを言ってしまった。
みなが、俺に注目している。
俺が、言うべきことではなかった。
やってしまった……。
気まずい空気が――
「あー! あー! えっとー!」
素早く察してくれたアスカがフォローに入ってきた。
「自分たちがどれだけ成長しているのか、どれだけの絆を深められたかを、たとえば、試合で確かめることも必要なんだよきっと!」
すまないアスカ。俺が言ってしまったばかりに。
「だって、やっぱり召喚獣なだけに、召喚士と召喚獣力同士の力比べも、きっと必要な要素なんだよ!」
「そうだの。単純な力というものも、時としては必要となる。何より、殺し合いは退学処分になるからの。健全な試合程度ならば、己を、また相手を知るに手っ取り早い。言葉では交わせぬが、拳で交わせる友情もある。のう、アルフレッド殿」
あまり目立たないように、シャルティのそばにいたホーリードラゴン。の擬人化した姿のアルフレッドさんへ、ガオンな視線を向けるが。
「…………」
アルフレッドさんは、耳に入っていないのだろうかというぐらいに、ガオンをガン無視した。気配すらも感じさせないほどに、静かにシャルティの斜め後ろについてきている。……正直、何を考えているのだろうか、どんな思いをしているのかが表に一切出てなくて、ちょっと怖い。
まさか、擬人化してもしゃべれないとか、じゃないよな?
気配がものすごく希薄なのだが。自分から気配を殺してる?
心の底で(この下等生物共が)とか考えていないよね? 何を考えているのか、存在感すら薄い状態だが、ホーリードラゴンなだけに、人に危害を加えるような召喚獣でないことを祈りたい。
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