なんでこうなったのか。
「暇だな」
邪魔で鬱陶しい筋肉が急にいなくなると、なんだか物寂しい。
いや、俺は普通に学園生活がおくれればいいんだけどね。
そういえば、この場合、家族はどう思っているんだろうか?
失踪届けとか出されているのかな? たしか、届けを出しても二年以上見つからないと死亡扱いになるんだっけ……。
三年間か……。
三年後に、この世界のこの国に属するか、元の世界に帰るかを問われるんだっけ? 三年後に元の世界に帰っても……またさらに高校生活をして就職かな? 大丈夫かな?
……なんだか不安になってきた。
いや、何か後処理的な対処があるのかもしれない。
あれ?
俺は今『暇だ』と思った?
よくよく考えてみれば、中学のときの生活と同じ状況じゃないか。これが俺のライフスタイルじゃないか。
なんで暇だなんて思ったんだ?
やっぱりこんな特殊な世界で過ごしたからか?
ガオンのやつがずっといて、筋肉ロスをしているからか?
……どうしよう?
俺、変な人間にだけはなりたくないぞ……。
ええい、考えを元に戻そう。
そうだ、平和だ。今は平和で、いつもの俺に戻ったんだ。
暇だなんてじゃなくて、この暇な状態が俺の生活なんだ。
これ以上に喜ばしいことなんてないじゃないか? これ以上に望むものなんてなかったじゃないか。
「ねえねえ、マモルマモル!」
「うん?」
またマリーロンが話しかけてきた。
「今日、一緒にお昼食べない?」
「……んー」
これは、明らかに。
「そのまえにさ」
「何?」
「ガオンがいないからといって、ここぞとばかりに俺を珍獣を見つけたような目で見るのを、やめてくれないか?」
嫌なやつ。そう思われてもかまわない。
人間同士には個別に取らなければいけない、距離というものがある。
親兄弟を相手にしても、必要な距離感、だ。
俺はこんなぐいぐい来る人間は苦手だ。
特に、新しいオモチャか珍獣を見つけたかのような興味で近づかれるのが、特に嫌なんだ。こういう人間が、たまにいる。
そういうやつは決まって。
「なんだ、つまらないのね、君」
そうやって、上から目線でものを言ってくる。
「ほっとけ」
「ナカヨクシナイトイケナイヨ! ナカヨクシナイトイケナイヨ!」
マリーロンの肩にいる木彫りの召喚獣がうるさくしゃべっている。
「好きな子とかいないの?」
「いない」
「じゃあ気になる子とかは?」
「いない」
「何でいつもそう暇な顔してるの?」
「うるせえ」
「……本当につまらないね、君」
「ちょくちょく毒を吐くな」
「そんなんで何が楽しいの?」
「楽しいとか楽しくないとか、そういう理由で動いていないから」
あー、もう。本当に鬱陶しい。
イライラしてきた。
「何か楽しいこととか、趣味とかはないの?」
「ないよ」
もう質問するものがなくなったのか、こちらを見たまま黙っているマリーロン。
「これでもう十分か? 自分の尺度で他人を測るな。あと、お前のオモチャになる気はない。いい加減にしてくれ」
「そうやって斜に構えているのがかっこいいとか思ってるの?」
「……そういうわけじゃねーよ」
ああ、もう……。
「そんなんじゃもてないよ。日陰君」
「そりゃどーも、あと変なあだ名付けるな」
マリーロンが「ちっ」と舌打ちして、去っていった。
「……ふん」
そしたら、廊下からマリーロンの大きな声が聞こえてきた。
「何あいつ! すっごいむかつくんだけど!」
むかついたのはお互い様だ。
「……はぁ」
暇だなあ。
ガオンがいないだけで、こんなことになるとは……。
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