030 ~騎士たちの嘲笑⑨パーシヴァル~
俺とガラハッド、そしてアグラヴィンの3人は森の中を進んでいた。
道中川で魚を取り、小動物を捕まえて飢えを凌いだ。
肩や背中の傷も何とか出血は止まった。こんな傷も回復魔法で治せないとは…クソっ!!
「なんだこれは?」
アグラヴィンが言った。
ガラハッドが不思議そうに何か黒い大きな塊を見つめる。
すると、それは動き出し、立ち上がった。
「うわあっ」
人の数倍はある大きな猿の魔獣だった。
猿の魔獣は俺たちをその赤い目で睨みつけていた。
「…に、にげ…」
ガラハッドがそう言おうとした時、魔獣の大きな腕がガラハッドの身体をフッとばし中に浮かした。
「…がッ!!?はッ!!…あ、ああ」
―ドスッ
鈍い音と共に地面に落ちたガラハッドは動かなくなった。気を失ったの、か…。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!!!
逃げなければ!!!逃げなければ!!!
俺は奴らを置いて駆けだした。
あんな連中どうなったって構うもんか。俺は、俺は円卓の騎士で最強になるんだ!!今、死ぬわけにはいかない!!!
「あ、お、おい!!パーシヴァル!!おまえ、何にげて…」
アグラヴィンがなにか言っていたが、聞こえなくなった。
知るか!!俺が逃げる時間稼ぎをしろ!!!クズが!!!!
そう思った瞬間、ドン!と重い何かが俺の身体にのしかかった。後ろから何かが飛んできたのだ。
体重を支えられず、俺の膝は地面を付く。
飛んできたのは、気絶しているガラハッドだった。
「ひっ…!」
猿の魔獣が俺を見てニチャアア。と笑っていた。
アグラヴィンは腰を抜かしてその場でしりもちを付いていた。
しかし、魔獣はその後動かない。黙って俺たちを見ていた。
俺はもう一度立ち上がり走り出そうとする。
が、何かが足を掴んで引っ張った。
「…ま、まて、置いていくのか、お、俺たちを…!」
気絶から目を覚ましたガラハッドが俺の足を掴んでいた。
「放せ!!このクズがああああああ!!!!」
俺はガラハッドの手を振りほどこうとするが離れない。
バランスを崩して尻餅をついてしまう。
「お、お前らよりも俺が生き残る方が重要なんだ!!!命は!!!俺の命の方が重要なんだよ!!!」
掴んで離さないガラハッドの手をもう一方の足でけりつける。それでも離さない。
頭を蹴り飛ばすが、それでも離さない。
「あッ!がッ!!…ぱ、パーシヴァルな、なんで…!」
「うるさい!!!邪魔するな!!」
―ズドンッ!!!!
と音が鳴る。猿の魔獣の方を見ると、アグラヴィンの片足をその強靭な腕で地面と一緒に潰していた。
「あああああああああああああああああああああ!!!!!!」
アグラヴィンの悲鳴が森に響きわたる。
そして、魔獣はアグラヴィンを掴み、大きく振りかぶってこっちに投げ飛ばしてきた。
「ひゃあああ!!ああああ!」
思わず情けない声を出してしまう。
俺のすぐそばに飛んできたアグラヴィンは、失禁しながら体をビクッ!ビクッ!と痙攣させていた。
「も、もう…おしまいだぁ……」
猿の魔獣は地面に落ちている小さい石を持ち出す。
そして、それを振りかぶってこちらに投げつけてきた。
―バン!!
音がすぐ横の木で鳴る。魔獣が飛ばした石がめり込んでいた。
「あ、あああ…」
情けない声が出る。
奴は、遊んでいるのだ。俺たちを。おもちゃにして。
猿の魔獣は悔しそうに、もう一度石を拾うとこちらに投げてつけてきた。
とっさに身を低くする。
―バン!!
「ぐぁああああ!!」
ガラハッドの背中をかすり、地面にめり込む。
しかし、いまだにガラハッドは俺の足を離さない。
「い、いい加減にしろ、このクズ野郎!!!」
俺はガラハッドのみぞおちをぶん殴る。
「がはっ!…や、やめろ…ぱ、パーシヴァルぅうう!」
「黙れ!!お前が手を離せば俺は逃げられるんだよ!!!」
「や、…やめろ……パーシヴァル…」
後ろを振り向くと、アグラヴィンが横たわりながらこちらを見ていた。
糞尿まき散らしながら、折れた足を引きずり体を起こそうとしていた。
「いまは、逃げることを…優先、すべきだ、仲間われ…など…」
「だから、お前らが邪魔しなければ俺は逃げれるんだよ!!バカが!!!!」
俺はアグラヴィンの顔面を殴る。
「や、やめろ…!や、やめてくれ…や…」
何度も何度もぶん殴ると、アグラヴィンは気絶した。
気が付けばガラハッドも気を失って、俺の足から手を放していた。
「やった!!これで!!逃げれ…!!」
勢いよく立ち上がって逃げようとした瞬間。猿の魔獣の石が飛んできて、俺の顔面に直撃した。
「げらべッ!!」
前歯が全部割れた音がした。
強い衝撃で俺は意識を失った。猿の魔獣が喜びながらどこかへ歩いて行ったのを意識が失われるその瞬間に感じた。
―――
目が覚めると、口に溜まった血を吐き出した。
「おえぇえええ!!ゲホッ!!お、ええええ、い、いてええ…いてえええええ」
顔面が大きく腫れているいることが分かる。
近くにはガラハッドとアグラヴィンがまだ気絶していた。
あれから随分と時間がたったのか、猿の魔獣は消えていた。
重い体を起こし、立ち上がろうとするが、力が入らない。
クソ!あの時逃げて入れれば、こんなことには…!!
すると、アグラヴィンとガラハッドが目を覚ます。
「う、うう…こ、ここは…」
「俺たちは…無事なのか…」
2人と目線が合う。
「お、おまえら、よ、良かった」
「俺たちを置いて逃げようとしたな…パーシヴァル…!」
2人が俺をにらみつけてくる。
「な、なに言ってるんだ!!あれは……そう!あれは、あの魔獣の気を引いてお前らに攻撃が当たらないようにしたんだよ!!お前らを守るために!!」
「そ、そうだったのか…?」
「あ、当たり前だろ…!!さあ、こんなところにいないで早く帝国に向かおう!」
な、なんとかごまかせた…。
アグラヴィンの折れた足を木で固定し、俺たちは帝国を目指す事にした。
顔面と全身の痛みを我慢しながら俺は森を進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます