035 あの日の真実

クラレントとエクスカリバーが激しい火花を散らしている。

両手で握り締める父さんは魔法を発動させる。


聖剣エクス・カリバー―――――!!!!」


来る!


レーザーのような伸びた刀身が天井を突き破りオレを切り裂こうとする。

エクスカリバーのこの攻撃は防げない…!まずい…!!?


―ズドガガガガッガ!!!!


「うぐっ…!?」


切り裂かれそうになった瞬間、エクスカリバーの攻撃が止まった。

胸を抑えだす父さん。その隙を突き、エクスカリバーを持つ手をクラレントで払いのける。魔法は発動途中でレーザーは消え、エクスカリバーが宙を舞い、床に突き刺さる。


クラレントで父さんの首を突き刺そうとするが。


―ビタッ!


グッと自分の足で踏みとどまり、その先の行為を行うことが出来なかった。

クラレントは父さんの首筋で留まり動かせなくなる。


「…だから、お前は弱いのだ…、メドラウト!!」


パシッ!っと手を払われてオレの持つクラレントが父さんの後ろに飛ぶ。カランと床に剣が落ちる音がする。

父さんはオレの首を掴み持ち上げる。そのチカラは強く振りほどけない。


「…うっ…ぐっ!」


「…ゴホ…はぁ…わしの身体に病を煩わせおって…!!今、ここで殺してくれよう!!」


グググと両手で首を絞められる。


「がっ…!」


息が出来ない。あの一瞬オレはためらってしまった。父親だからか。母さんの顔が過ったからか…くそ…。


「お前が呪いの子とアンブローズから聞いた時、円卓の騎士に任せず、ワシがこうやって殺すべきだったな…!!」


ごめん、パル…オレここまでの様だ…。

グググと力強く絞められる首。意識が遠のく。


次の瞬間。


―ブスッ!!!


「!!?………な、なんだ…これは!?」


オレの顔に血が数滴飛び散る。父さんの胸からクラレントの刀身が突き破って来ていた。


「…ぐふっ…うぐ……」


手から力が失われていき、オレの首は解放される。


「ゴホッ!!!う…ハァハァ…」


オレは床に座り込み、立っている父さんの胸から突き出たクラレントをただ見つめた。


何が起こったんだ…。


父さんの後ろに人影が見えた。その人物は。


「…き、貴様…な、なぜ…」


父さんは後ろを振り向き、その人物の顔を見る。


「あ、アンブローズ…!」


ドサッと床に倒れ込む父さん。胸からは血が流れていく。

アンブローズはその父さんの姿を冷たい目でただ見ていた。


「王よ……計画通りに事は進みましたよ…」


「ゴホ……あ、な、なぜだ…アンブローズ…!?」


「あなたにはわからない。私の憎しみは…」


「………お、おま……え……の…」


父さんの目から光が失われた。


「あ、王…!!王おお!!!!貴様!!!アンブローズ!!貴様ぁああ!!!」


床に倒れているガウェインが怒りに身を任せてアンブローズを見つめる。


「…なんと無様な姿か…ガウェイン…」


しかし、アンブローズは表情一つ変えずにガウェインを見る。まるで虫を見るような眼で。


父さんが死んだ……??

あの、エクスカリバーを使う世界最強の人間が…?


オレは目から光を失った父さんを見つめた。

胸から出る血が、オレの足まで広がっていた。


オレはグッと目を瞑り、胸を押さえる。

息が苦しくなる。


ゆっくりと目を開いて、アンブローズを睨みつける。


「…あんたが…黒幕ってことか…」


オレは立ち上がる。


「………ふん、メドラウト……随分としぶとい…まぁ、そういう事になるな…」


倒れている父さんを見る。反射的に目を反らす。グッと、拳を握り締める。胸が苦しい。吐きそうだ。

あの光景と重なる。


母さんと父さんとパルと…もしかしたら…一緒に…ただ、何事もなく暮らせたかもしれない。もしかしたらなんていう無理な妄想や幻想が頭に浮かんだ。


「アンブローズ……ッ!!」


アンブローズをギロッと睨みつける。


「さすが、呪いの子だ…円卓の騎士、そして王をもってしても葬れないとは……私の目に狂いはなかったということか…」


そう言いながら床に突き刺さったエクスカリバーの元へ歩いて行くアンブローズ。


「オレを呪いの子だと父さんに言い、円卓の騎士を使って処刑させたのも、あんたか…」


「…ふん…そんな分かりきっていることを今更聞くのか?…貴様はいつか私の計画の邪魔になると思っていた、早めに処理しておきたかったが、こうなってしまうとはな」


アンブローズは倒れている父さんを見ながら、エクスカリバーを手に取って抜く。


「今、外で暴れまわっている魔獣も…あんたの…仕業か…」


「生物兵器を地下に隠しておくのも、無理があってな…ふふ、いい時期に成熟したよ…」


アンブローズは穴の開いた城から見える外の景色を見る。いまだ暴れまわる魔獣と立ち込める煙は収まってなどいなかった。


「オレの……妹を…ころ…したのも…おまえか…!!!!」


「………あれは」


アンブローズが口を開いた瞬間。


―バンッ!


部屋の扉が開き、そこから人影が現れた。

それはベディヴィアだった。


「ベ、ベディヴィア!!よ、よかった!!アンブローズが、アンブローズが裏切ったんだ…!」


ガウェインがそのベディヴィアに叫び呼びかける。

しかし、ベディヴィアの様子は変だ。足がおぼつかずゆっくりと歩き、中に入ってくる。


「あ、ベディヴィ…ア?」


―ガシャン!


ベディヴィアはそのまま、前に倒れ込んだ。

その後ろにはランスロットが立っていた。


「ら、ランスロット…!?」


ガウェインが戸惑う。ランスロットは仲間の円卓の騎士が倒れたのに、その後ろにいて何も表情や態度に変化がない。


「…お前の問いには、俺が答えよう…メドラウト」


ランスロットが歩きながらオレの方に向かってくる。

ガウェインはまだ戸惑っている。


「ランスロット…」


オレはランスロットの方を見つめる。その冷たい表情はあの時、中庭で戦った時と同じだ。


「……お前の妹、パルウムを殺したのは俺だ…」





…は?





今、なんて…。





なんの前触れもなく。唐突に、表情を変えずに口を開いたランスロット。

そう言ったランスロットはアンブローズの前に行き、膝を付く。


持っていた布の袋から奇妙な杯のようなものを取り出し、アンブローズに掲げる。


「…御持ちいたしました…我が主……」


「ら、ランスロット!!何をしている!うぐ…う…な!何を!そ、そいつは王を!!」


ガウェインが床に突っ伏し、腕で前に進みながらランスロットに言う。


「おお!!ついに見つけたか!!ククク…ククク…!!!」


アンブローズはランスロットから受け取った杯を頭上に掲げて高笑いする。


「よくここまで……よくやった、ランスロット。ヒュギエイアの杯をこの手に…」


その杯を持ちながら不敵な笑みを浮かべるアンブローズ。

オレは幻影からロンギヌスを取り出し、ランスロットに向けて槍を投げる体制に入った。

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