036 パル

「ランスロットオオオオオ!!!!!」


オレは叫びながらロンギヌスの『竜殺しの突きドラグニティ・ランス』を発動し、ランスロット目掛けて投げ飛ばす。


―ガチンッ!!


アンブローズが右手を突き出して、バリアのような物がロンギヌスを弾いた。くるくると回転しながら宙を舞うロンギヌス。


「なにっ!」


オレは驚いた。ただの人間。王の側近のアンブローズがロンギヌスの魔法攻撃を防いだ!?

魔法具を持っているとでも言うのか…!?


アンブローズはニヤリと笑うと、オレの方を向いた。


「期は熟した……」


そういうとアンブローズに禍々しい気が集まり始める。邪悪な気がヤツを中心に渦巻いていた。


―ゴゴゴゴゴゴ!!


ゆっくりとアンブローズの身体が浮いていく。そして、見る見るうちに腕から鱗のような物が現れ、けたたましい音と共に服が引き裂かれて肩や背中から角やコウモリのような翼が生えていく。その姿はまるで魔獣だった。

レシアを追っていた盗賊が使った獣化魔法とは雰囲気が違う、違いすぎる…!この変化は、いったい…!!?


「フハハハハ!!!!」


高笑いと共に手に持っているエクスカリバーにも禍々しい気が集まりだし、バギバギと鈍い音が鳴りエクスカリバーの全体が変化していく。真っ直ぐ伸びたエクスカリバーの刀身は完全に見る影もなく、歪みに歪んだ刃は完全に別物に変化した。


「ククク…これが聖剣エクスカリバー…いや、魔剣エクスカリバーと言うべきか…!フハハハハ!!」


これが、アンブローズの姿…なのか…。


「お、お前は…魔獣だったのか…!」


ガウェインが叫ぶ。


「魔獣…?ふん、そんな下等生物と一緒にするな…私は、人を越え、魔獣をも超えた『超越者』と呼ぶのに相応しい存在となったのだ!!!フハハハハ!!」


「超越…者…」


ガウェインが驚きの表情をする。


―ゴゴゴゴゴゴ!!


禍々しい邪悪な気が渦巻きながらアンブローズは手を掲げ、そこに魔法陣が出現する。


「何をする気なんだ…!!」


オレはそう呟く。

魔法陣からは何かが出てきた。アンブローズが隠していた。何か。人影の様な物だった。


邪悪な気が邪魔で上手く視認できない。


バッとその気が晴れるとアンブローズの手にあるのは。オレのよく知る。見覚えのある人物だった。


「……パ、パル……??」


アンブローズの手には眠っているパルの姿があった。

ローブを羽織っているが、その姿はあのオレがよく知るパルその者だった。それだけはすぐに分かった。


「パルゥ――――――!!!!!!」


オレは強く、そして大きく叫んだ。

しかし、パルは目覚めない。


アンブローズはニヤけながら、おもむろにランスロットが持ってきた杯を取り出し、その杯の魔法を発動した様子。

すると、杯からは黒い液体が溢れ出しそれがパルの身体を包み込んでいく。


「やめろ!!…アンブローズ!!!」


オレはアンブローズにそう叫びかけるが、奴は止まらない。

黒い液体がパルを包み込み、そしてそれがパルの身体に吸収されていく。杯は亀裂が入り、壊れる。


すると、パルは目を覚ました。


「はっ!……パ、パル!」


生きていた。パルは生きていたんだ!オレはそう思ったら駆けだした。アンブローズからパルを取り返すために。


「ふん…やれ…」


アンブローズがパルに命令する。宙に浮かんでいるパルの目には生気はない。オレを見ているはずなのに、表情に変化がない。

なぜ…、なぜなんだ…!?


パルは両手を広げると、黒いエネルギーが集まり始める。


―バシュウウウウウウ!!!!


パルの手からオレに向けて発射されて打ち出されたエネルギーの球体はオレのすぐ頭上を通り過ぎ、城の壁を突き抜けて、さらに街で暴れている魔獣や住民がいる方向に飛んで行った。

そして。巨大な大爆発が起こり、その一帯が消し飛んだ。


オレはその光景を見て、唖然とした。あんな攻撃をパルが放ったというのか。


「うむ…まだ、制御に時間がかかるようだな…」


「…!アンブローズ!!パルを離せ!!!」


アンブローズはパルを連れてそのまま飛び立とうとする。


「逃がすか!!」


オレは助走から瓦礫を踏み台にジャンプしてダーインスレイヴで鎖を飛ばす。


ーガシャン!


そこに割って入り、鎖を止めたのはアロンダイトを持つランスロットだった。


「ランスロット!邪魔をするな!!」


「邪魔は貴様の方だ!」


アロンダイトで攻撃してくるのを、幻影からサザンクロスを取り出して防ぐ。

床に降りてしまう。上空を見上げると、アンブローズはパルを連れて飛び去っていく。


「ま、待て!!!アンブローズ!!!」


「アンブローズ様はこれより崇高な目的を達成するのだ…その邪魔はさせん!」


ランスロットがオレの前に立つ。


「あんた、腐っても円卓の騎士じゃないのかよ!!あんな奴に従うのか…!!」


「ふん、円卓の騎士など、ただのお飾りの連中だ。私が真に従うのはアンブローズ様のみ!!!」


ランスロットはアロンダイトの魔法で宙を浮き、オレに突撃してくる。

オレは幻影からガラティンを取り出して防御する。


「ぐっ…!」


ガクンと全身が水平に飛び、城の壁まで飛ばされた。激しく散る瓦礫。


「がっ…ハァハァ!クソ、なんて強さだ…まるでエクスカリバーの様だ…ハァ」


オレは奴の持つ剣を見る。魔法具の中で世界で一番強いとされるエクスカリバーと対を成す武器。それがアロンダイト。ランスロットはそのアロンダイトの使い手。

その魔法で全身を強化し、さらに宙をも舞えるのか…。


オレはガラティンでガウェインがやっていたように炎の逆噴射を利用して飛び上がる。


「ほう…ガウェインの武器も使えるのか…面白い…!!」


城から上空に飛び出したオレとランスロットは超高速で空を旋回し、雲を突き破り、動きながら刃を交えていく。

ランスロットと戦いながらアンブローズが召喚したパルを思い出す。パルは、生きていた…。


でも、今はアンブローズの手に…。なぜヤツはアンブローズはパルを利用したんだ。わからない。どれだけ考えても今は何もわからない。


ガチン!ガチンと!刃が交わり火花を散らす。

戦いの場は城から空、そして街へ移行していく。


―ガアアアアアア!!!


暴れる魔獣が見境なしにランスロットに襲い掛かる。


「ふん…下等生物がっ!」


簡単な一振りでその魔獣を真っ二つに切り裂く。

その隙をついてガラティンで突っ込みランスロットに魔法を放つ。


「『業火滅却フレイム・ノヴァ』!!」」


―バァンッ!!!


激しい炎と共にランスロットを吹き飛ばす。街の建物をいくつか突き破り地面に落下する。

今は、ランスロットを止めて、話しを聞くしかない。パルとアンブローズについて…!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る