027 強さとは

トリスタンは慈弓フェイルノートの弓を引きオレに向かって矢を放つ。

オレは『神槍の閃きディバイン・ストライク』で矢を弾きながらトリスタンに突っ込んでいく。


突きでトリスタンを貫こうとするが、それを弓でギリギリで弾き、かわされる。

ズサァアアアと、トリスタンの後方で止まる。


「お、おま!?ロンギヌスの魔法を使えるのか…!?」


このロンギヌスの魔法は一直線で攻撃の方向が読みやすい。この技ではトリスタンは倒せないか…。

オレはすぐに体制を立て直し、ロンギヌスを振り回し攻撃を仕掛ける。


―ガチン!ガチン!


と、弓と槍が重なり火花を散らす。


「しかし、あくまでそれもまがい物だろ!!俺に敵う訳がない!!円卓の騎士の最強の一角の俺にはなぁああ!!」


トリスタンが大きく跳躍し、上空から矢を放ってくる。


「『烈風の台風矢サイクロン・アロー』!!」


何本もの矢が雨の様に降り注ぎ、台風の様に地面を削りながら矢が刺さる。オレは身を低くし矢から逃げるが、矢は追従しオレを追いかけてくる。


「ふん!逃げる事しか能がないな!メドラウトの坊ちゃんよぉお!」


トリスタンはそういいながら矢を放つ。

さすが、フェイルノートの矢。何処までもその勢いが衰えることなく付いてくる。

オレは矢をギリギリまで引き付けて交わし、矢の棒部分をロンギヌスで叩き割っていく。


地面に着地したトリスタンはフェイルノートに魔法を集中させる。


「俺の最強魔法で串刺しにしてやるよ!『無慈悲な斬風破フルウィンドウ・ブラスト』!!!」


―ズバババババババ!!!!!!


矢が無数に分裂し、光の矢となって襲い掛かる。

オレはロンギヌスを幻影で消し、サザンクロスで防御する。

光の矢は住民の元まで届き、周りを巻き込んでいく。

エンジュが矢を防ごうとするが、刀で受けきれずに吹っ飛ばされてしまう。


「くっ!!なんていう威力だ…!」


「エンジュ!!レシアと街の住民たちを避難させてくれ!」


オレはエンジュにそう叫ぶ。それを聞いたエンジュはすぐさま体制を立て直して住民たちを避難させていく。


「オレ以外を狙うな!!トリスタン!!」


「はっ!知るかよ!どうでーもいい!!」


トリスタンの攻撃は止まない。

オレは、サザンクロスで身を隠し、幻影からビーストタクトを取り出す。


「『魔獣の召喚ビーストダンス』!」


タクトを振り、魔獣を召喚。上に放つ。


「ジャンプで逃げても、無駄だ!!」


トリスタンはその魔獣の方へ矢を打つ方向を向ける。

ドスッドスッ!と光の矢が刺さる。


「ふん!これでお終いか…まぁ、退屈しのぎにはなったか」


「と、トリスタン!!前をみろ!!」


アグラヴィンが忠告する。しかし、もう遅い。上空に飛ばしたのはコウモリの魔獣だ。

トリスタンから攻撃を受けたその魔獣はそのままシューと音と共に消える。

オレは魔獣を上に放った後すぐに、サザンクロスの後ろから飛び出し、トリスタンに突っ込んでいた。

そして手にはダーインスレイヴを取り出し、魔法を放つ。


「『漆黒の封印シャドウ・ジーゲル』!!」


鎖をトリスタンに飛ばし、その影から鎖を出現させ飛ばしていく。


「なにっ!!?」


トリスタンの身体をぐるぐると鎖が巻き付き、動きを封じた。


「くっ!!?な、なんだと!!この技は!!アグラヴィンの!!?」


そして、幻影からロンギヌスを取り出して、力いっぱい踏み込んでトリスタン目掛けて投げ込む。


「次は外さない!『竜殺しの突きドラグニティ・ランス』―――!!!」


―ズッパアアン!!!


「なっ!?ぐ、ぐああああああああ!?いでえええええ!?は、腹がぁ!腹がああああああ!?」


トリスタンの魔法障壁を壊し、鎧を砕き横腹を貫通したロンギヌスは地面に突き刺さった。


「て、てめえ、この、クソメドラウト!!!貴様、誰に向かってこんなことを!!!ふざけるなぁ!!」


鎖につながれて身動きを取れないトリスタン。そこにオレが飛び膝蹴りを顔面に喰らわす。


「ぐぁっ!!?」


その勢いのまま後ろに倒れ込む。オレは、トリスタンの手から離れたフェイルノートを持ち上げる。

オレを睨みつけながらトリスタンは言う。


「お、俺の魔法具に触れるな…クズが…!!」


「いや、あんたの武器はオレが貰う…『幻影の強奪者ファントム・オブ・ロバリー』!」


幻影にフェイルノートを消す。他の武器も幻影に消える。


「あっ…がっ…ふぅう、ふぅ!!なんだ…これ…俺の…血!!?」


トリスタンは自分に起こったことがまだ理解できていない様だった。

オレはトリスタンに馬乗りになり、胸倉をつかむ。


「さっきの話しの続きを聞かせろ、トリスタン!パルを、パルを殺したのは誰なんだ!!」


「うっっぐ…ふぅ…誰かは知らない…だが、俺じゃない…!!」


「何故殺されたんだ!!」


オレはトリスタンに怒鳴りながら聞き返す。


「フッ…お、俺たちの会合を盗み聞きした…からだろうな……!!」


「オレを追放し処刑すると決まった会合か…」


パルは、あの日、オレに逃げてという手紙を書いて握りしめていた。

つまり、オレを殺す内容の話しを聞いたから殺されたのか…。なら、それが出来るのは円卓の騎士のメンバーのみ。


「だとしたら、お前がやっていないという証明にはならない!円卓の騎士全員に可能性がある!」


「…な、なら、アルトゥル王にでも聞くんだな…王なら知っているだろう…誰がやったのか…」


「……父さんが!?」


「はなせ……いい加減手を、手を離せよ、ゴミ虫がぁ!!!」


トリスタンは無理やりオレの手を払いのけて地面を這いつくばって逃げようとする。


「うっぐ…な、なんだこれは…俺は聖杯をみつけ…うっぐ…!!くそ…!!早くランスロットの所に…!!」


その光景をアグラヴィンもガラハッドも呆然と見ていた。


「おい!アグラヴィン!ガラハッド!!貴様ら、何見てる!さっさとコイツを殺せぇえええ!!」


トリスタンが2人に向かって言う。


「お、俺たちも、魔法具を奴に…!!」


「円卓の騎士、最強の一角のトリスタンが、負けるはずな…!!?そ、そんなことが…!??」


そこに街の住民が集まってきた。「あ、あんた達なんか怖くない!」「そうだ!!魔獣を倒したのも、子供を救ってくれたのも、ここにいる彼らたちだ!!」

住民はエンジュたちの方を見て言う。レシアに助けた少女が抱き着き、アグラヴィンやガラハッドを睨みつけていた。


「うおおおおおおおおお、許さない!!許さんぞぉ!!俺は円卓の騎士だ!!俺を馬鹿にするな!俺を嗤うなあああああ!!」


すると、トリスタンが取り乱しながら立ち上がる。


「横腹を貫かれているのに、まだ立てるのか…」


オレはトリスタンのその精神力に驚く。

すると、トリスタンは腰から何かを取り出して、腕を大きく振り上げてその取り出した何かを地面に叩きつけた。


―カッ!!!!!


一瞬で辺り一面が真っ白になり、目を開けられなくなる。

閃光玉か。


光が消えると、トリスタンの姿もそこには無かった。


「ト、トリスタン…!?」


「ど、どこに行ったんだ…ま、まさか俺たちを置いて、にげた…のか…」


アグラヴィンとガラハッドは戸惑いを隠せない。仲間が裏切るとは思ってもみなかっただろうからな。


「覚悟はできてるんだろうな…ええ???円卓の騎士様よぉ!」


住民は2人を取り囲み、近づいていく。


「な、なんだ貴様ら!!わ、我らを誰か知っているのか!!!」


「うるせええ!!!」


バコンッ!と男に顔面を殴られて後ろに倒れるガラハッド。そして捕まるアグラヴィン。

2人は住民の男たちに捉えられて何処かに連れていかれた。「放せえええ!!この愚民どもがぁあ!!」という声が聞こえてくる。しかし、魔法具を持たない奴らはもう何も出来ないだろう。


そこに駆け寄ってくるエンジュとレシア。


「無事でよかった…ラウト」


「ほんと、一時はどうなるかと思ったわ」


「2人こそ…無事でよかったよ」


激しい戦いだったこともあり、街の住人にも被害が及んでしまった。

トリスタンの矢にやられた人も何人かいる様だが、オレが戦っている最中レシアが治療を施したおかげて命に別状はなさそうだった。


街の住人が集まってくる。


「本当に助かった!!!ありがとう!!!」「私たちはあなた方に救われました!!」「とんでもない奴らだ!!お前らは!!!」


おおおおお!!と歓声と賞賛を送られる。

色んな人に握手を求められて、素直に従ってしまう。


レシアなんてたくさんの人を救った本人だ。いろいろな人に感謝されて照れていた。


「べ、別に!これくらい、どうぜんよっ!」


えっへん!と言わんばかりの胸の張りようだ。

エンジュもその戦い方から、男の人にどうやって強くなったのかなど、いろいろ質問攻めを受けていた。


「え、あ、いや、これは日ごろの鍛錬というか…あはは」


そしてそれはオレも同じだった。「まだ子供じゃないか!!なんでこんなに強いんだ!!?」「どこで魔法ならった??」「凄い戦いでした!私好きになっちゃったかも!」

色んな人がオレたちを取り囲み、その賞賛は一晩中続いた。


オレたちは街一番の食事をごちそうしてもらい、街一番の宿に泊まらせてもらうことになった。

その日の夜、オレは宿のバルコニーで夜空を見上げていると、そこにレシアがやって来た。


「今日は散々だったわね…」


「ん?…ああ、まぁな」


「…あんた、今までそうやって人助けしてきたわけ?」


「なんの話だ?急に…」


オレは腕を頭の後ろで組みながらレシアに聞き返した。


「私を盗賊から救ったように、水の魔獣の街でもこの街でも、人を助けてるじゃない」


レシアがバルコニーの手すりに身を寄せ、夜空を見ながら聞いてくる。


「……別に、人を助けたいと思ってやってるわけじゃない…オレは、そんな大層な人間じゃない」


「でも、あんたはそう思ってても、救われてる人はいる。私も、エンジュもね…それってすごい事だと思う」


「レシアがオレを褒めるなんて……さては、オレに何か奢らせるつもりだな…!」


オレはレシアの方を目を細めて、疑いの目を向ける。


「バカラウトっ!そんなもの何もないわよ!!」


レシアは顔を背ける。


「……あんたを見てると、私も頑張らなくちゃって思えたの……だから」


レシアは顔を背け、部屋に入っていく。


「私も強くなる…あんたを守れるくらいに…!」


オレの方をちらっと見て、部屋に戻って行った。

その顔は何やら自身に満ちていた。


オレは今まで自分のために、自分の目的のために行動してきた。ただそれだけだった。

でも、今は。エンジュやレシアといった仲間が出来て、2人を守りたいと思う様になった。

パルを想う気持ちと同じ様に…。

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