026 トリスタン

―ズガガガガガガ!!!


街を破壊しながらうねる巨大な鎖。その攻撃に巻き込まれてしまう少女。


「きぁああ!!」


さっきレシアに助けられた少女はその鎖が破壊した地面の瓦礫に当たり、脇腹から出血してしまう。

そこにレシアがすかさず駆けよろうとするが、そこにまた鎖がうねり迫ってくる。


オレはすかざす2人の前に立って鎖の攻撃を幻影から取り出したファルシオンで受け止める。


―ズドドドン!!


「はっ!ら、ラウト!?か、体が!」


だが、鎖の衝撃が大きくオレの肩や腕の服が破けて、皮膚が裂けて血が飛び散る。


「…大丈夫か…レシア」


「…う、うん…!」


オレは後ろのレシアと少女を見て、無事を確認する。しかし、少女の怪我は酷い。早く手当てをしなければ取り返しのつかない事になる…。


「…ここは任せだぞ」


少女はレシアの魔法に任せてオレは幻影からサザンクロスを取り出して、アグラヴィン元へ突っ込んでいく。


「わ、分かったわ!!……大丈夫だからね!いま、助けてあげるから!『癒しの布ベールエイド』!」


レシアは手をかざして光を少女の脇腹に集中させる。

少女の母親もそこに駆け寄り、泣きながらレシアの魔法を見守っていた。


鎖の攻撃がオレに向かって飛んでくる。オレはその鎖をギリギリまで引き付けてサザンクロスの魔法を発動させる。


「『裁きの聖十盾グラウンド・クロス』!!」


激しく光る盾、無数の鎖は光とぶつかりその衝撃で反対方向に吹っ飛ぶ。

オレはその瞬間にアグラヴィンの方向へ走り出す。


「その技は確かに強力だ、でも…」


鎖が地面に落ち、アグラヴィン本人も上手く制御できないでいた。


「小回りが利かなすぎる…」


オレは幻影からロンギヌスを抜き、アグラヴィンのそばにいるガラハッドの顔面をロンギヌスの棒の部分で殴り飛ばす。


「ぐぅぇえっ!?」


そして、鎖を制御しようとするアグラヴィンの胸にロンギヌスを突き立て吹っ飛ばした。


ーバリンッ!!


胸の鎧が砕けて真後ろに吹っ飛ばされるアグラヴィン。


「ぐっガァッ!!?」


手からダーインスレイヴが離れると巨大な鎖は消えた。

ズサァと地面に仰向けに倒れるアグラヴィン。


大きな砂煙が立ち込める広場は、一瞬で静まり返った。


「……あんたらに聞きたいことがある、答えてもらうぞ」


オレはダーインスレイヴを拾い上げると、『幻影の強奪者ファントム・オブ・ロバリー』で自分の物とする。


「うっ…ぐ…!き、貴様…な、なぜ」


アグラヴィンがオレの方を驚きと怒りに混じった表情で見つめる。


「パルを殺したのは誰だ…?お前ら円卓の騎士は何か知っているんだろう?それを話せ」


ロンギヌスをアグラヴィンの首元に向ける。


「ひっ!…し、しらない!!俺は何も!」


「嘘を言うな…お前は何か知らないのかガラハッド」


ガラハッドは起き上がりながら、オレを睨みつける。


「へっ…!誰が言うか、貴様の様な三流風情が!!おい!!住民たちよ!!こいつらを捉えろ!!こいつらは反逆者だ!!!」


周りにいる住民に語り掛けるが、場はシーンとしていた。


「何してる!!さっさと動け!!」


しかし、住民は何も動かない。すると、ひとりの住民の中の男が口を開く「…あ、あんたら、円卓の騎士のくせに、俺たちを巻き込んだじゃないか!!」「…そ、そうだ!俺たちはあんたらを歓迎したのに!!子供が巻き込まれたんだぞ!」男はレシアが少女を魔法で治療していた方を指さす。


「あ、ありがとう…おねぇちゃん…」


「よし、これで…もう大丈夫よ」


なんとか治療も上手く行き、少女の怪我は治っていく。

今までの光景と、少女が傷ついたことを見ていた住民たちはアグラヴィンとガラハッドに怒りを向けていた。


「なっ!?…お、お前ら!!分かっているのか!!我らに逆らうという事が!!!この街すべて焼き払ってくれる!!」


ガラハッドはそう言うと、手を前にだし魔法を発動しようとする。


「ハアアア!!『業火の弾丸インフェルノ・ボム』!!」


住民たちは驚き、逃げようとする。

しかし、魔法は発動しない。


「な、なんで…だ??なぜ魔法が…!?」


「円卓の騎士って自分の魔力を扱う事の訓練してないんだな」


オレがそういうが、ガラハッドは自分の魔法が何故発動しないのか理解できていない様だった。

その様子を見て住民たちが怒りだす。「いま、俺たちに攻撃を仕掛けたな!!なんて人なんだ!」「あんまりだ!こんな仕打ち!!」「帰れ!!!出ていけー!!!」

彼らの怒りは爆発していた。


ー!!?


オレは上から殺気を感じ、アグラヴィンとガラハッドから距離を取る。


ーシュタン!


オレがいた場所に矢が刺さっていた。さらに、住民たちの方から悲鳴が鳴る。「うがぁ!」「ぎゃあ!!」「うっ!?」

何人かの住民たちにも背中や胸に矢が刺さっていた。


オレはあたりを見渡す。すると広場の一番大きな建物の屋根に人影を発見する。

その人影はジャンプをして広場に着地した。


「あーあ、なにこの酷い状況は…どう説明するの?お二人さん」


降り立ったのは鎧を身に纏いマントを靡かせている男。


「トリスタン…!」


オレはそう口を開いた。

アグラヴィンとガラハッドは冷や汗を流している。トリスタンにこの状況を見られたのがマズいらしい。


「あれ、あれれ??あれれれ!?…メドラウトのゴミ王子お坊ちゃんじゃないか!!生きてたのか!!??」


「…久々だな、トリスタン」


「なになに、お前が生きていたことも驚きだけど、まさかこの状態…君ら負けたの??こんなゴミに」


トリスタンはアグラヴィンとガラハッド、そして広場を見ながら言う。


「負けてはいない…!ただ、すこし油断しただけだ!!」


「そ、そうだ!トリスタン、俺たちは負けてない!」


アグラヴィンとガラハッドは立ち上がり、トリスタンに弁明する。

トリスタンはめんどくさそうにしながら言う。


「はぁ……まったく、円卓の騎士がこんなゴミに負けるなんてあるはずないんだからさ、油断しすぎ」


「あ、ああ。ははは!そ、そうなのだ、奴の小癪なトリックが鬱陶しくて」


「我ら円卓の騎士が負けるなどありはしない。ただのまぐれだ!アハハハ!」


2人はなにやら安堵している様子。オレに負けたことを認めたくないらしい。


「それで…このうるさい街の連中はなに?俺たちに反抗しようってわけ?」


トリスタンは住民を見渡しながら言う。住民はさっきのトリスタンの矢にやられた人を見てたじろいでる。


「ああ、こいつら俺たちに反抗しだしたんだ!俺たちは魔獣を退治したっていうのに!」


「ふーん、それはいけないな…あと、なんでゴミ王子がパーシヴァルのロンギヌスを持ってるのか分からないけど、あれはなに?」


「あいつの手品のようなものだ!パーシヴァルから奪ったとぬかすが、何か裏があるにちがいない!お、俺のサザンクロスやアグラヴィンのダーインスレイヴも…そ、そのやつの手品に…」


ガラハッドが言いにくそうにトリスタンに言う。


「まったく、ゴミ王子はどこまでいってもゴミ王子だな…ロンギヌスから薄汚い手を離せ、お前みたいな魔法の才能もろくに無い人間が持っていい代物じゃないんだよ、それは」


トリスタンは背中の慈弓フェイルノートを取り出した。


「はぁ…俺はこれからやることがあるんだ、ここで道草食ってる場合じゃないんだよ…わかる?わからねーよな?頭くるくるパーだし」


いつかの城で光景を思い出す。しかし、オレはもうあの時とは違う。


「トリスタン、パルを…殺したヤツを知っているか?」


オレはトリスタンを睨みつけながら言う。


「え、あーーいたね、邪魔なゴミ王子の金魚の糞。なんか、俺たちの会合を除いてたみたいだったから、誰かが殺したんじゃないかな?」


―!!?


「お前、それは…!?今、なんて!?」


怒りが爆発しそうになる。それを抑えながらロンギヌスを構える。


「俺は興味ないから、どうでも良かったけど、まぁ城も静かになって居心地がいいよ、あ、あの妹がいた部屋。今物置にしてるからさ。お前を殺して骨を飾ってやるよ!あはははは」


「……もういい…お前は喋るな…もう…!!」


オレは抑えきれない情動のままに、ロンギヌスの魔法を発動させて、トリスタンに突っ込んだ。

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