010 水の魔獣の正体

井戸の下に広がる地下水道を進むオレたち。レシアとエンジュがランタンを持つオレを左右から挟んで両腕を持ち、体を引っ付けて歩いてた。


「…なあ?お2人さん。歩きにくいんだが…」


オレは地下水道を歩きながら2人に問いかける。


「な、なによ、別に怖いとかじゃないわよ…た、ただちょっと気味悪いだけよ…」


レシアがギューっとオレの服を握りながら言う。


「そ、そうだ。私も別に…怖くなどないぞ…!」


エンジュがそう言うが、オレの腕を力強く握りしめている。


―ピチョン


「ひぃーーーー!」


レシアの頭に水が落ちた様で、びっくりしたのか顔をオレの肩に押しつけてくる。


「お、おい…レシア。ただの水だぞ…」


―ちゃぽん


「うぁわわ、わ!」


「ぐぇえっ!…え、エンジュ…さ…く、くるしぃ」


エンジュの足元の水に魚がいたのか、その魚が少し跳ねた様だった。エンジュはそれに驚いたのかオレの首を組んで締め付ける。

息が出来ない。


「あ、す、すまん!…つい…」


「い、いえ…もしかして、魚とか苦手なんですか?」


「あ、ああ、恥ずかしいが…あのヌメヌメしているのが…どうもな…鳥肌がたってしまうんだ」


エンジュは少し恥ずかしそうに言う。


「あんたは怖い物とかないの、ラウト?」


レシアが少し意地悪そうにオレに聞いてくる。

オレに怖い物…考えたことも無かったな…。


パルに起きたあの光景が脳裏を過る。


「……オレが、怖いのは…どうしようもないこの怒りと憎しみを晴らせずに死んでしまうことが…怖い」


そうだ、オレは円卓の騎士に情報を聞き出し、パルを殺した奴を突き止めるまで死ねない。


「そ、そう…それは怖いわね…」


レシアが少し驚いている様子でオレを見ていた。



―――



地下水道を歩き進めると、人影らしき人物を発見する。


「人だ!」


エンジュがすかさず言う。

その人物は足を止めたのか、動かず、こちらを振り返る。


そこにいたのは。


「あんた!さっき宿にいたやな男!」


レシアが言う。

それに不満そうにこちらを蔑むような眼を向けるのは、パーシヴァルだった。


「ああん?なに、俺がやなヤツ?そんなわけないだろ、こんなイカしてる男が」


「なんであんたがここにいるのよ…!」


レシアが続けてパーシヴァルに聞く。


「お前らこそなんだ?なにしてるこんな……………………とこ…ろ……!!?」


パーシヴァルがレシアとエンジュを見た後、オレを見る。

オレと目が合ったパーシヴァルは驚いた表情をしていた。


「なっ…に!!??バカな!!!!何故、お前が…!!あ、ありえない!!!!」


パーシヴァルは口をパクパクさせながらオレを見ていた。

オレは、レシアとエンジュから離れて、一歩前に進む。


「……久しぶりだな、パーシヴァル。円卓の騎士第12席、ブルターニュ帝国42代目・アルトゥル王の息子、王位継承者メドラウト・ブルターニュだ」


「えっ!!?」


「な、なん…だと!!?」


レシアとエンジュがオレのセリフに驚いている様子だが、オレはパーシヴァルを睨み続ける。

パーシヴァルも動揺している様子だった。


「あの時、お前は確実に地獄に叩き落されたはず…!」


「ああ、オレは叩き落された。でも、復讐のために這い上がって来たんだよ、地獄の底からな…!!」


パーシヴァルは後ずさる。

その後ろにもう一つの人影があることが分かる。


そこには男と、その男に後ろから刃物を突き付けられて怯えて声が出せない女性の2人がいた。


「女の人…!」


レシアがその女性の姿を見て言う。


「穏やかではないな…」


エンジュは刀を抜き、構える。

オレに目を配り、戦闘態勢に入るエンジュ。


「先ほどの名乗りには、多少。いやかなり驚いたが…とりあえず今はあの女性を助け出すぞ、ラウト」


「ああ!」


一瞬流れる沈黙。

女性を捉えている男が溜まらず口を開いた。


「な、なにをしているのですかっ!!パーシヴァル殿!!今こそ、あなたの役割を果たして貰わなければ!!」


男はパーシヴァルに向かって汗を流しながら言う。相当焦っている様だ。

女性を捉えている男に見覚えがあった。


「あんた、この町の市長か…?なるほど、そういう事か」


「え!市長!?え、なになにどういう事?」


レシアが驚いた様子で言う。男は更に焦り出していた。正体がバレたのがまずいのは当たり前だ。


「あのポスターのおっさんがこんな所で、女性を攫っているなんて…どうやら、とんだデマをオレたち含めて狩人たちは掴まされたらしいぜ」


「デマ??」


市長の顔色が悪くなる。レシアは疑問の表情を浮かべる。オレは続けて言う。


「このおっさんはおそらく、各地から狩人を集めて町の名産品やら店で金を使わせる事で、町に金を集めていたんだ。水の魔獣がでるなんて噂はこのペテンのおっさんが仕組んだ嘘だったって訳さ」


「う、うそ!?」


「まさか…な」


レシアとエンジュが驚いた表情を浮かべる。


「う、うるさい!!!黙れ旅人風情が!!お前らに邪魔はさせんぞ!!わしは!わしはこの町で富を築くのじゃ!!邪魔などさせん!!」


市長が怒りを表す。


「そ、それじゃあ今まで誘拐された人はどうしているのよ!」


レシアが言う。


「もう、この世にはいない…か、もしくはこの地下深くに監禁されている…可能性もあるな」


エンジュが刀を構えながら言う。


「はよ!やってくださえ!パーシヴァル殿!!」


「あ、ああ。分かっているっ!ふ、ふん。貴様が生きていた所で、どうと言うことは無い!!たまたま運よく助かっただけに過ぎない!」


市長はパーシヴァルに命令をする。パージヴァルは焦りを抑えながらロンギヌスを構えるとそれをこちらに向けた。


「お前、金で買われたな。パーシヴァル」


「うぐっ!…貴様には関係ないことだ!!何故なら、ここで死ぬのだからな!!!」


どうやらオレの指摘は図星だったようだ。パーシヴァルの事だ。市長に大金をチラつかせられてそれに乗ったんだろう。

どんな奴が現れて市長が襲われても、自分なら勝てると踏んで。

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