009 円卓の騎士との再会

エンジュに連れられて町にある宿の受付の前にオレたちは来ていた。


「日も暮れてきた所だし、私は今日はここで宿を取る。ラウトとレシアの分も取るから安心してくれ」


「え、いや…そこまでしてもらったらオレたちは…」


「何を言うか、私たちはもう旅の道ずれの間柄ではないか」


オレは気を引けていることを伝える。さすがに宿代まで出してもらうのは申し訳ない。


「知り合ったばかりではあるが、私だけ宿をとって、君たちに野宿させるには行かないからな」


オレとレシアは顔を見合わせて頭を下げる。


「お言葉に甘えさせて頂きます…本当にありがとうございます」


「何だったら3人部屋をとろうか?そうしたら幾分か費用も抑えられる」


「へ?」


レシアが間の抜けた声を出す。


「い、いや!さすがに男と一緒はエンジュさんも嫌でしょ!」


「ははは、男と言っても少年じゃないか、なら別に問題ないぞ」


エンジュがきょとんとした顔で言う。


「わ、私は嫌…!」


「悪かったな…オレがいるせいで」


「べ、別に…別に私も嫌…じゃないけど…ううぅ」


オレの方を見ないレシア。耳が赤いがどうしたのだろうか。

すると、勢いよく宿の扉が開く。


―バタン!!


「いぁやあ、この町はいいねーー!俺のお気に入りにしてやる!!」


女性を両脇に抱き、一人の男が宿に入ってきた。

隣の女性たちは薄いドレスの様なものを着ている。


「たらふく飯食ったし、早く部屋に連れていってくれ」


男からは酒臭い匂いと、女性からは香水の匂いがここまで漂ってくる。


「いや~ん!もぅ、パーシヴァル様のえっち~!」


―!?


入ってきた男をよく見ると、あの円卓の騎士のパーシヴァルだった。

まさか、こんな所でパーシヴァルと出会うなんてな。


パーシヴァルは受付の前にオレに気づくことなく、奥の部屋へ歩いて行った。


「なによ、あいつ…やな感じ」


レシアが呟く。

そう思うのもわかる。他の客も少し驚きながらパーシヴァルたちを見つめていた。

この町でああいう奴はなかなかいないんだろう。


「各地方から狩人が集まっているんだ、豪遊する奴も中にはいる」


エンジュが少しあきれた様子で言う。


「で、どうする?ラウト、3人部屋をとるか?」


「え、いや…」


オレが戸惑っていると、受付の男性がエンジュに言った。


「すいません、お客さん。3人部屋はあいにく満室でして…」


「なに?むぅ…そうか、それなら仕方ないな」


よかった…。レシアに小言を言われずに済む。

その日はエンジュの好意に甘える形でオレの部屋と、エンジュとレシアの部屋を取って休むことになった。


それぞれの部屋に行く前にレシアが引き留めて言う。


「明日は例の水の魔獣を狩るわよ!いいわねラウト!」


「わかってるよ。エンジュさんにも借りを返したいしな」


「いや、水の魔獣を狩るのはこの私だ。伊達に何年も狩人として生きてはいない!はっはっは!」


エンジュが腕を組んで胸を張り言う。


「じゃあ、競争ね!どっちがはやく狩れるか!」


「ああ!私も負けはせん!」


どうやら2人はかなり乗り気の様だった。「詳しいことは明日話しましょ!」とレシアが言うとオレたちは別れた。

自分たちの部屋に入っていく途中の廊下で、この町の市長なのか、似顔絵のポスターが張られてるのを見つける。


[私たちの町が水の魔獣に襲われています!求む!狩人!賞金100万G!!]


と書かれていた。

グッドサインをしてウィンクをしているおっさんの似顔絵は少々キツイものがあるな…。

愉快なおっさんなのか、なんなのか…。

このポスターを色んな町でばらまいて人を集めているのか。


「本当に100万出るんだろうな…」


そんなことを思いながら二階に上がり、借りた部屋に入ると消して広くはないが、1人が寝泊まりするなら十分すぎるほど快適な場所だった。

布団にあおむけで寝ころび天井にあるランプを見ながら思う。


国を出てから数日。オレは新しい魔法を手に入れた。

自分の掌を見つめる。


この『幻影の強奪者ファントム・オブ・ロバリー』という技。なぜ、オレにこの力が宿ったのかはわからない。

でも、今ならあの円卓の騎士のパーシヴァルとも戦えるはず。


なら、パーシヴァルにパルに何があったのか聞くチャンスだ。

上手くいけば、奴の魔法具でさえ…。


そう思いながら目を閉じる。あれからろくに休息という休息を取っていなかったからなのか、スッと眠ってしまった。


―きゃああああ!!


バッと目が覚める。外を見るとまだ暗く静かだ。


「今の悲鳴…外か?」


部屋の窓を開けて、外を確認するが誰もいない。

身を乗り出して外に飛び出る。


今のは確実に女性の悲鳴だった。しかも、この近く。

深夜の町の中を駆けて声がした方向へ走っていく。


建物の角を曲があたりを見渡すと、女性の靴が片方だけ道の真ん中に不自然に落ちており、その周りには水たまりが出来ていた。


「…これは…!水の魔獣…」


と、そこに後から駆けつけてきたレシアとエンジュが合流する。


「ラウト!!いまの悲鳴!なに!」


「私も聞こえた!なにがあった?」


2人ともあの悲鳴に気づいて来ていた。


「わからない…見てくれ、これを」


「…!?う、うそ!水の魔獣?」


女性の靴とその辺りに広がる水たまり。これは攫われたと考えるのが自然だ。

エンジュが膝を付き、水たまりに手を触れる。そして、辺りを見渡し何かに気づく。


「ラウト、レシア。水の魔獣の居場所が分かったぞ…」


「え!?」


エンジュがこの道の先を見て言う。レシアが驚く。

水たまりは一つではなく、小さく、ほかにも道に沿って水がぽつぽつと落ちていた。月の光に照らされてそれが光っていた。

エンジュはそれにいち早く気づいたのだ。さすが狩人だ。観察眼が違う。


「そうか、この水を追っていけば…辿りつける」


「そういう事だラウト、今なら被害者女性を救えるかもしれん」


「2人ともすぐそれに気づくなんて、すごい…!そうと決まれば早く追いかけましょ!」


レシアがオレとエンジュを交互に見ながら言う。


「ああ、行こう!」


オレたちは水が落ちている場所を見つけながら追いかけて行く。

その場所はすぐに見つけることが出来た。辿り着いた場所は町に何か所かある井戸だった。


「この井戸の下に?」


「水の魔獣と言うほどだからな、地下水道に住んでいても不思議ではない…」


レシアが疑問を言い、エンジュが答える。


「行ってみればわかることさ」


オレは井戸に飛び込んだ。

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