008 狩人が集う街
森の道を進みながらオレは隣を歩くレシアに言う。
「…おまえ、オレについてくるのか?」
「なによ…嫌なの!?」
「いや、嫌じゃないけど…」
ズイっと顔を近づけてくる。
綺麗な顔に、済んだような瞳の眼差しを向けられると、たじろいでしまう。
「あんた、この後どこに行くのよ」
「オレ?…オレは…ブルターニュ帝国だよ」
「え、………………私も」
2人とも顔を見合わせてしまう。
「…目的地が同じなら一緒に行動しましょ」
「……え、なんでそうなる」
いくらなんでも急展開だなとおもった。
「そもそも、なんであんな盗賊連中に追われることになったんだ?なにかしでかしたのか?」
オレは先ほどの盗賊たちとの関係を聞く。
「はぁ?私がそんなことするわけないじゃない!」
「じゃあなんで…」
「それは……言いたくないぃー!」
プイっとまた、顔を背けて先に歩き出す。
オレはその後姿を見ながら、そろそろ休憩でもするかなと、近くの木の下に腰を落とす。
レシアはそのまま行ってしまったようだが。オレとは行動しない方がいい。
きっとこの先、円卓の騎士と戦うことになる。奴らには聞きたいこともあるしな。パルに起こった出来事を知っている様だったし。
きっと一緒に行動すると危険が伴う。盗賊らとは比べものにならないほどに危険が。
だから、これでいい。
鞄の中から漁師の村の人たちからもらった保存食を食べる。
「…うまいな」
魚の干物は噛めば噛むほどダシが出る。干物は血流を良くする効果やカルシュウムが手軽に補給出来る良い保存食だ。腹の足しにもなるし、良い補給源になる。
オドリオたちに感謝しないとな。オレは頷きながら干物を食べた。
「って!なに一人で休憩してんのよーーー!!」
―ぺし!
オレの頭をレシアが叩く。
「…戻ってきたのか?」
どうやら来た道を引き返してきたようだった。
「一緒に行動しましょ!って話したばかりでしょ!」
「いや、そうしようって言ったわけじゃないし…」
そういいながら干物を頬張る。
「うっ…そ、それはそうだけど…」
「オレと一緒は危険だ…」
オレは続ける。
「きっと盗賊に襲われるよりも、もっと危険な目に合うかもしれない…だから」
「私のことを心配してってこと…?」
「そういう事。だから、一緒に行動しない方がいい」
オレは立ち上がり、軽く土や草をズボンからはたいて、歩きはじめようとする。
しかし、その腕をレシアが掴む。
レシアの方を向くと、伏し目がちで言う。
「…それじゃあ、あんた傷だらけになっちゃうじゃない」
「え…ま、まあ。それはそうかもだけど」
「…もう、誰も傷ついてほしくないの。だから、あんたの傷は私が治す…」
「…レシア」
レシアの目からは何か強い意思を感じ取った。
まるで、オレ自身が抱える意思と似たようなものを。
レシアは手を放す。
「それに!二回も助けてもらったし、その借りも返したいしね!ブルターニュ帝国までは付き添うわ!」
「それはもういいって…」
「いや!よくない!!ほら!さっき道を進んだ時に町を見つけたわ!休憩するならそこでしましょ!」
レシアはオレの腕をつかんで引っ張っていく。
すこし強引なそのやり取りに、もう少しだけ一緒にいてもいいかなと思ってしまったオレもいた。
城の中では無能王子として、兵士や円卓の騎士、父親に忌み嫌われてきた扱いとは違い、対等に接してくれるパル以外の存在だと思った。
―――
森を進み、レシアの言う町が見えてきた。
何やら騒がしく賑わっている様だった。
町に入ると、人も多く、町の人が出し物や屋台を何台も出していた。
中にはこの町の名産品の様なアクセサリーや陶器など売る屋台もある。
「お祭りかしら?」
「ああ、そんな感じだな」
しかし、元気に店をしている人もいれば、そうでない人。やつれた顔の人もいた。
外から来た人を歓迎してる一方、何かに怯えている様子の人もいて不気味に感じる。
レシアが何かを発見した。
「あ!ねぇねぇラウト!あれ食べたい!」
とある屋台を指さしていう。卵と砂糖を鉄板で焼き掌サイズくらいのお菓子をたくさん作ってそれを売っている様だった。甘い匂いが漂ってくる。
レシアはそんなオレの考えなどつゆ知らず、お菓子に夢中だった。
その屋台に近づくとおっさんが「よってらっしゃい~!」と言う。
目をキラキラさせて買って欲しそうにレシアが言うが。
オレは一文無しだ。
お金なぞ持っているはずもない。
「い、言いにくいんだが…その、金がないんだ…」
「…え?うそ!なんで??」
「まぁいろいろあって…」
「そ、そんなぁあ。私も盗賊に襲われた時にお金落としちゃったし…なんであんなに強いあんたが一文無しなのよ」
オレの服の袖部分をグーっと引っ張りながら言う。
「いやーね。あはは…ごめん。あ、干物食べる?」
「…しょうがないわね、屋台は諦めるわ」
「い、いいのか?」
「お金無いんだからしょうがないじゃない。じゃあ、どうするか考えましょ!」
腕を組んで言うレシア。
そこに甲冑の装備をした女性が屋台に近づいてきた。
「すまない、亭主。それを一袋いただけないか?私の分と、彼らの分の二袋」
「え?」
屋台の対象は「はいよー!」というとその鉄板で焼いているお菓子を袋に詰め始めた。
オレがその女性を見上げる。大人の女性だ。腰には剣。風貌は狩人の様な姿。赤い髪をポニーテールにしている髪留めがきらりと光る。
美人という言葉はこの人にこそふさわしいと思えるほどの美貌。その女性と目が合うと、女性はニコリと笑った。
「え、いいんですか??」
レシアがその女性に言う。
「ああ、どうも放っておけなくてな、余計なお世話だったらすまない」
「あ!いえ!ありがとうございます!」
「ははは、君は可愛い子だな。私も見習いものだ」
女性は屋台のおっさんから袋を受け取ると、それを一つレシアに渡した。
屋台から移動し、町の中のベンチに腰掛ける。
「わーーー!!いただきますーー!!」
袋からあつあつのお菓子を取り出し、口に頬張る。
「…んーーーー!おいしぃーーー!!」
レシアがそのお菓子の味に感激しているようだ。
オレはレシアがお菓子に夢中になっている間に女性にお礼を伝えた。
「さっきはすいません、お金をはらって頂いて、ありがとうございました」
「いいって言ったろ、私の性分なんだ。困っている子を放っておけないのさ」
「オレはラウトって言います、あの…」
「ああ、私の名前はエンジュだ。君たちも噂の狩をしにこの町にきたのか?」
「狩…?」
「なんだ知らないのか?この町で今、女性や子供を狙った誘拐事件が起こっているらしいんだ。水の魔獣という謎の魔獣の仕業という話だ。この町に集う外から来た人はほとんどその狩をしに来ているんだと思う。私もその口だ」
「なるほど…そんなことが」
辺りをもう一度見渡すと、屋台を見ている人やベンチで談笑している人のほとんどが武器を身に着けていた。
なるほど、どうりで暗い顔の人がちらほらいたのか。
そういう人は娘や家族がその水の魔獣に攫われた被害者家族ってところか…。
しかし、町の人が誘拐されているというのに、なんでこんな賑やかな祭りの雰囲気を出しているんだ。誰の知恵だ?
「この町の市長がその魔獣に賞金を出していてね」
「賞金…だから、こんなに人が多く集まっているのか」
「そういうことだと私も思う」
「で、いくらでるの?賞金?」
お菓子を食べ終えたレシアが徐に言う。
「私はレシアっていうの、さっきはありがとエンジュのお姉さん!」
「ああ!よろしくな。賞金は100万Gだそうだ」
「「…………………………100万G!!!!?!?」」
オレとレシアは大きな声で同じ言葉を発した。
レシアはオレを見て言う。
「チャンスよ!ここで賞金を稼いで旅の資金にしましょ!」
身体をオレの方に乗り出して言う。
確かに魅力的な金額だ。しかし、100万Gとは大金だ。この町からそれだけの賞金を出せそうには思えないが…本当に賞金は出るのだろうか?
オレの気などしれず、レシアは目をキラキラさせていた。
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