007 その名はファルシオン
木々が左右に倒れ、その奥でヴェスカーの足が見えたが動かない。
「ちとやり過ぎたな…」
オレは、トライデントをすぐ消す。
これは大きすぎて細かく扱えない。ああいう使い方しか出来ないなと思った。
「…あんた、何者?」
レシアがオレに近づいて言う。まぁあんなものを見せられたら誰でも何者か疑うような。
オレでもそうする。
自分の正体を言おうか迷ったが、ここで行っても信じないだろうとおもい、適当にごまかすことにする。
「…オレは、ただの旅人だよ」
「…そうは見えないけど…」
レシアが疑いの目を向けて、オレの身体を上下に見渡す。
風貌は旅人ぽくないのは、確かだなと思った。
その時、倒したはずのヴェスカーの方角から大きい雄たけびが響いた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
なぎ倒されていた木々が吹っ飛び、宙を舞う。
煙が立ち込めその中から、ヴェスカーと思われる大男が姿を現した。なぜ、思われるなのかというと、その男の姿が人間のそれではなかったからだ。
「なんだ、あれは…」
オレは自然とそう口から出た。
皮膚は緑色に変色し、大きな太い腕に鋭い牙、尖った鼻に耳。まるで魔獣の様だった。
「この、俺にこの技を使わせるとはなぁ!!!小僧!!!!許さんぞ!!!!」
「あれは、獣変化魔法か…」
獣変化魔法とは、人間が獣の様な能力を得られる魔法だ。一般的には、嗅覚や視覚、聴覚といった五感の能力を動物の血や毛皮を使いアップさせる魔法だが、あれは。全身本物の魔獣の様になっている。
「あいつ、もう人間に戻れないぞ…」
ヴェスカーは背中の魔法具を抜いた。それは鉈でとてつもない魔法が込められているのを感じられた。
そして、踏み込み、一瞬にして飛び込んできた。
「グァアアアアアア!!!!!」
「レシアここから離れ…!」
―ガッチャン!!!
一瞬にして目の前に現れたヴェスカーは、その鉈でオレに斬りかかる。それをクラレントで受け止めるがパワーが強い。
「っ――――!!」
体が浮き、道から吹っ飛ばされる。森に突っ込み木々に身体が当たる。クラレントを地面に突き刺し、体制を立て直す。
「なんつー威力だ」
さっきの場所からかなりの距離引き離されたな。
あたりを見渡すと、何かが高速で動く音がする。
―ズッザザザ!!
樹の幹を足で蹴り、まるでボールが跳ねるように、森の中を縦横無尽に動きまわっている。
「グハハハハハ!!!見えんだろ!!!俺の動きがぁぁ!!!!」
オレを中心にして、動き回わるヴェスカー。突然動きが止まったと思ったら後方から魔法の斬撃が飛んできた。
それを、間一髪のところでクラレントで防ぐ。
「動きが素早い…!」
周りの木々が切り倒され、魔法の斬撃があたり一面に影響を及ぼしていたことが分かる。
あんなものをモロに食らったら、ヤバイ。
―ズッザザザ!!
また、奴が動き始め高速で森を駆け回る。
「どうだ!!この俺の獣変化魔法!!損所そこいらの魔法とはわけが違うスピードとパワー!!」
攻撃は奴が持っている魔法具の威力が高いのがあるだろうが、なによりもあの獣変化魔法が厄介だ。
幻影の魔法でトライデントを出そうとするが、相手のスピードが速すぎて捉えられない。
「グハハハハハ!!捉えられないだろ!!!俺の獣変化魔法は特別仕様!グレゴブリンの血を使って得た契約魔法だ!!ただの人間の小僧が勝てるはずねぇのさ!!!!」
「なるほど、どうりで…」
魔獣の血を使った魔法は危険すぎると禁止されている魔法の一つ。それは人間の心を食われてしまうからだ。この男は自分の力だと思っているが、その能力は魔獣の借り物。やがて心を食われて自分が誰だったのか忘れる。それほど強力な魔法だ。
また、森を駆け回る音が一瞬止まり、斬撃が飛んでくる。
その斬撃を紙一重でクラレントでいなすが、弾かれて飛ばされてしまう。
「どうしたぁ!!!!さっきまでの威勢は!!!!」
ヴェスカーはそう叫ぶと、また森の中を駆け回り始めた。このままじゃじり貧だ。どうにかして、脱しないと。
オレの使える武器は、クラレントとトライデントの二つ。
奴の動きは速すぎて捉えれない。
何処かに、隙があれば…。
…隙。
―そうか!
オレは手に幻影を発動準備して、ヴェスカーが攻撃してくるのを待つ。
―ザザッ!!―ザザッ!!
森を動き回り、樹の揺れる音、葉が舞う音。風を切る音に耳を傾ける。
そして、一瞬動きが止まった。
―そこだ!!!
動きが止まったその瞬間、オレはジャンプして真下にトライデントを打ち込んだ。
―ドガズガガガガガガッ!!
地面の土が盛り上がり、木々が根から浮き宙を舞う。
衝撃波が伝わって石や岩を放射状に飛ばす。
「なっ…に!!??!?」
「見つけた!!」
オレは、地面が割れて体制を崩し、宙に浮いていたヴェスカーの姿を見逃さなかった。
地面に突き刺さったトライデントを足場に、奴目掛けて跳躍する。
そして懐に飛び込んだ。
「きっ!!貴様ぁ!!!!!なぎ倒してッ…!!!」
「お前の武器、もらう!!」
奴が持っている武器に触れる。
「『
武器が幻影に包まれて手から消える。
「な、なにっ!!?」
「…じゃあな!」
幻影の魔法で手に鉈を出して体を大きく捻り、回転しながら目をつぶると、文字が浮かんでくる。魔法具の名が。
そして、それを叫ぶ。
「剛鉈、ファルシオン―――――!!!!!」
ヴェスカーの身体目掛けてファルシオンの斬撃を飛ばして斬りつけた。
―ズッパッーーーン!!!!
「ぐぅがああああああああ!!!?」
大きく風が舞い、斬撃で吹っ飛ばす。辺りには煙が立ち込める。煙が晴れるとヴェスカーの身体が上と下に分かれて、周辺の木々も綺麗に真っ二つに分かれて倒れていた。バラバラと大木が転がり、その中に、完全に動きが止まったヴェスカーがいた。
「…レシアの持ちもの、返してもらうぜ」
オレはヴェスカーの元へ歩き首元を探り、ペンダントを見つけるとそれを取り上げた。
死んでも人間には戻っていないところをみると、相当魔法が効いていたんだな。
その場を離れてレシアの元に向かう。
オレの存在に気が付き、レシアが手を振ってオレを呼んでいた。
「おーーーーい!!」
レシアに駆け寄る。
「ヴェスカーは…?」
「倒したよ、もう心配ない」
「本当に倒したなんて、凄い…ってあんた怪我してるじゃない」
レシアは俺の腕の傷を見て近づいてくる。
「ああ、さっきの戦いで擦り剝いたかな」
「ちょっと待ってて」
そういうとレシアは俺の腕に手を当てる。
「回復魔法・『
暖かい光が腕を包み込む。しばらくして腕の怪我は治って行った。
「これで大丈夫ね!」
「へぇ、回復魔法を使えるのか、助かった。ありがとう」
「これくらい、大したことじゃないわよ」
「あ、そうそう」
オレはヴェスカーから取り戻したペンダントをレシアに渡す。
「えっ」
「これがでもう安心だろ?」
驚いた表情で、俺を見る。
「…二回も助けられちゃったわね…べ、別にお礼は言わないわよ…!」
顔を背けて、頬を赤らめていた。どうやら、素直になるのが恥ずかしいらしい。
「いいよ、別に礼なんて、怪我も直してくれたし」
オレはさっき治してくれた腕を持ち上げて言う。
「…………………でも、ありがとうぅ…」
「え?いま、なんて?」
「う、うっさい!!なんでもないわよー!!」
そういうと歩き出してしまった。
「お、おい!?」
レシアの後を追いかけた。
追いかけながら、太陽の日差しを浴びて、心の中でパルにこれでよかったか?と聞いた。
―うん!お兄ちゃんはそうでなくっちゃ!
そう、パルの声が聞こえた気がした。
何処までも続く空は、澄みきった綺麗な青色をしていた。
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