017 怪しい依頼

オレたちは大きな街にたどり着いていた。

レシアとエンジュ。3人で帝国を目指して旅を続けていた。


その道中何個か町を経由して、魔獣の狩や鉱物採取の依頼をこなして資金を調達しながらここまで来た。

街の名前は《バーレル》輸出や輸入が盛んで、沢山の人がこの街に訪れていた。


「す、すごい人ねこの街…」


「ああ、3人ともはぐれないように注意してくれ、一番大きい私が前を歩こう」


エンジュが前を歩き、その後ろにオレ、その後ろにレシアが続く。

人込みをかき分けてとりあえず街の中心に向かおうとしていた。


人込みの中の一人とレシアは肩がぶつかった。


「あ、すみません」


「……」


その人は黒いローブを着ていた。なにやらレシアを見て驚いた表情をした。


「おい、どーした、レシア?」


オレがそう声をかけると、レシアは「大丈夫、何でもない!」と言って駆け寄ってきた。

ローブを羽織って顔はよく見えなかった。その人は何処かへ行ってしまった。


何とか人が多い大通りを通り抜けて、近くの肉料理屋に入った。


「ふーーーーーやっと落ち着けたわ~」


「ははは、レシアはこういう街は初めてか?」


レシアがテーブルに突っ伏して言う。人酔いしてしまったようだった。

対してエンジュはそれほど参ってはなさそうで、ケロッとしてた。


「初めてに決まってるでしょー田舎育ちなんだから~」


「そんな話し初めて聞いたぞ」


オレは店から出された水を飲みながらレシアに聞く。


「あれ?言ってなかったっけ?」


「ほう!知りたいな。レシアの故郷のこと」


エンジュが腕をテーブルに付き、前に乗り出す。

レシアは顎を付いてお店の外を見ながら言う。


「別に、普通よ……普通の田舎の村よ…」


何やら聞かれたくない。そんな雰囲気を感じた。

エンジュもレシアからは深く聞かず、店のウェイトレスの女性が出してきたメニューを手に取る。


「2人とも!このバーレルでは絶品の肉料理があるらしいのだ!是非食べよう!!」


エンジュが目をキラキラさせてオレたちにメニューを見せてくる。


「エンジュってそんなに肉すきだっけ?」


「ああ!肉はエネルギーになるからな!なんとっても!力がみなぎる!!」


「どれどれ」


メニューを見ると、揚げたパンと焼いた牛肉を包んだ物に甘辛いタレを掛けた料理がおススメらしい。

文字だけの説明文だが、確かに食欲をそそる。


「おいしそうだけど、私たち、もうかなりお財布が厳しいはずよ?」


「確かにな…」


「そ、そういえばそうだったな…いまの資金だと頼めて二つか…」


「エンジュが食べなよ!私とラウトはこの後何か依頼こなしてからまた食べに来るから!」


「ああ、そうだな。エンジュが食べてくれ」


オレとレシアはエンジュにそういう。しかし、エンジュは腕を組んで数秒考えた後。


「いや!ここは2人で分けてくれ!!私は今から何かいい依頼がギルドに無いか探してくる!!」


「え、今!?」


レシアが驚くと、引き留める間もなくエンジュは店を出て行ってしまった。

カランカランと、ドアのベルが揺れる。


「い、いっちゃった…」


「エンジュは決めたら一直線だからな…それがいいところでもあるが…」


「ま、行っちゃったもんはしょうがないわ!私たちだけで追いかけてもきっと見つけられないし、はぐれて迷子になったら目も当てられないわ」


「だな。とりあえず帰ってくるのを待つか」


オレたちはエンジュが帰ってくるまで待つことにした。


「ご注文どうしましょうか?」


ウェイトレスがオレたちのテーブルの隣に立っていた。

まだ何も頼んでいない。ウェイトレスの女性は「早く、注文しろ」と言わんばかりの表情は出してはいないが、そのにこやかにしている表情の裏ではそう思っているに違いないのはすぐに分かった。


「と、とりあえずコーンスープを一つ…」


オレはメニューの中で安そうな料理を頼んだ。


「はい!かしこまりました~!」


ウェイトレスの女性はそう言うと厨房の方へ歩いて行った。


「あ、あの女の人…顔笑ってなかったわよね…」


「ああ、怖かったな…」


2人で女性の後ろ姿を眺めていた。


しばらくして注文した料理も食べ終えた頃、お店のドアが開きカランコロンと音がなる。

エンジュが戻ってきた。


「2人とも!!これはいい依頼を受けたぞ!!」


エンジュが何やら嬉しそうに言う。


「なによ、そんなにいい依頼だったの?」


「ああ!!ギルドの依頼ではないのだが、たまたまそこに居合わせた人に森に生息するウサギを捕まえてくれと頼まれたのだ!」


「捕獲系の依頼ね、報酬がいいとか?」


レシアが聞き返す。


「ああ!たったそれだけで30万Gだ!それだけあれば食いきれないほど肉料理を食べられるぞ!!」


「30!?…」


オレとレシアは顔を見合わせる。


「エンジュ、その依頼大丈夫なのか?ただのウサギの捕獲の依頼にしては高すぎる気がするが…」


「そうよ、あの例の市長の件だってあるし、また騙されたりとか…」


「いや!今回は人がよさそうな人だったし、直接依頼を受けたから問題ないはずだ!何やら急ぎらしくてな。それでこの値段らしい」


エンジュはそう返答する。


「まぁ、エンジュがそう言うなら?」


レシアは顔を傾げながらオレに目線を移す。


「だな、とりあえず引き受けたんだ、依頼の場所へ行ってみよう」


「おお!そうと決まれば禅は急げだ!ほら、行くぞ!ふたりとも!」


エンジュは立ち上がり店を出ていく。


「あ、まってよー!」


レシアも後を追う。

オレもすぐに会計をしてお店を出た。


「まてよ!2人ともー!」


2人を追いかける。



―――



オレたちは3人で森に行きウサギを探す。しかし、なかなか見つからない。


「ほんとにここにウサギいるのー?」


数十分探したが見つからないからか、レシアが少しご機嫌斜めになっている様子だ。


「ま、まぁまぁ、すぐに見つかったら依頼にはならないだろうし、気長に探そう」


エンジュがレシアをなだめる。

3人で姿勢を低くして、茂みをかき分けてそのウサギを探す。


それからしばらくして、エンジュが言う。


「あれ、レシアはどこいった?」


「そういえば…遠くまで探しているのか?」


オレは辺りを見渡すが、レシアの姿が見当たらない。

日も暮れてきているし、はぐれると危険だ。


―すると。


「きぁやああああ!」


―!?


今のはレシアの声!

オレとエンジュは顔を見合わせてその悲鳴の方へ急いで走り出す。


レシアの身に危険が…!?

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