018 聖杯教
夕焼けに染まる空と木々を駆け抜けていくオレとエンジュ。
レシアの悲鳴の方に突き進む。
森の中の少し開けた場所でレシアと一人の男を発見する。
「レシア!!」
オレが叫ぶ。
「ら、ラウト!」
男は後ろからレシアの首に腕を回して動きを止めていた。
レシアはオレたちの方に手を伸ばす。
「あんた!レシアを離しなさい!!」
エンジュが男に向かって叫ぶ。しかし、男はレシアを離さない。
「………この女はもらっっていく…」
男はボソッと呟く。
「放しなさいよ…!気持ち悪い…!」
レシアが逃げようとするが、男は腕をがっしり動かさない
するとエンジュが男を見て気づく。
「って!あ、あんた!!さっきの人!!?なんでこんな所に!?」
エンジュは男を見たことがある様だった。
「エンジュ、知っているのか?」
「あ、ああ。このウサギを捕まえてくれっていう依頼を受けた、その人だ…」
「なるほど…やっぱり罠だったか…」
「…すまない…私のせいで…レシアに…」
「今はとにかくレシアを助け出そう!」
オレはクラレントを取りだして構える。エンジュも刀を抜き、構えた。
じりじりと男を詰めていく。
「…それ以上、私に近づくな!!私は聖杯教の信者であるぞ!」
男はオレたちに向かい大きな声で威嚇する。
「聖杯教…」
聖杯教とは、聖杯を神聖な物として崇めている連中。数は少ないしほとんど見たことはなかったが。こんなところで見かけるとは。
「その聖杯教がなぜ、レシアを攫う!」
エンジュが怒号を飛ばしながら、男に向かい走り出す。そして刀を振り上げる。
「はああああっ!!」
その瞬間、男は手に持っていた何かを地面に投げつける。
「エンジュ!気を付けろ!」
オレはとっさにエンジュに注意を促す。
―ボンッ!!
白い煙が一瞬で広がり、男とレシアは煙に包まれる。
「なっ!くそ…!けむり玉か!」
エンジュが刀で風を切り、煙を散らす。が、そこには2人の姿はなくなっていた。
オレはすぐに、男が逃げた方向を見つける。この森の中だ、足音は消せない。その方向に走り出す。
「エンジュ!こっちだ!!」
エンジュに声を掛けて共に男の後を追う。
そう遠くへは行ってないはずだ。この場所をエンジュに伝えてオレたちをおびき寄せたということは、この近くに根城や隠れ家があるはず。
森を進むと、古びた教会 が目の前に現れる。
「な、なんだこれは…!」
エンジュが教会 を見て驚いている。確かにこんな森深くに教会 があるのは不自然だ。しかも、外観からかなり長い年月が経っている様に見える。
「聖杯教ときて、教会 か…ここにレシアはいるかもな」
「そ、そうか…では、早く助けに行こう!」
「ああ、でも敵が複数いる可能性もある。気を緩めず行くぞ」
オレたちは教会の扉のところまで進み、ドアノブを引く。
ガガガと建付けの悪い扉を開けて中へ入る。薄暗い中はステンドグラスから月の光が差し込んで幻想的な空間になっていた。
沢山の椅子が一列に並び、奥の祭壇のある場所に人影が。ローブを羽織り顔が見えない。さっき、レシアを連れ去った男とは別人の様だ。
その前にはテーブルの様な物がおかれており、よく見るとレシアが手足を鎖で繋がれて寝かせられていた。
「あ、…ら、ラウトー!エンジュ!」
レシアが怖がっている様子でオレたちに助けを求める。
「あんた、いったいレシアに何をするつもりだ」
男はオレの事を見て、その羽織っているローブを外す。
レシアが何かに気づいた。
「あっ…!あんた、街でわたしとぶつかった人…!あんただったのね!こんな事私にして、ラウトが黙ってないわよ!」
レシアが男を見て言う。
たしか、街に入った時人込みの中を歩くレシアとぶつかったやつがいたが。そういう事か。
―ガシャン、ガシャン
レシアが手足をバタつかせて逃げ出そうとするが、鎖で動けない。
「許さないんだから!こんなことして!」
レシアは涙目になりながら男に言う。
オレは『
男はおもむろに話し始める。
「我々は聖杯教の信者である。この世界の救済に導く使者であるぞ!貴様、それ以上近づけば、この女の命はない!!」
男はそういうと、ナイフを取り出しレシアの胸に突き立てる。
「…ッ!」
レシアの怖がる声にならない声を出す。
オレは手を前にだし、落ち着くように言う。
「落ち着け、あんたの目的は何だ…なぜ、レシアを狙う…?」
「ふっ…何も知らぬ子羊よ。教えてやろう。これをみよ!」
もう片方の手で何か器を取り出す。手に収まるくらいの。それでいて高級そうな物だった。
それを上に掲げながら話し出す男。
「これは…聖杯の元だ…この聖杯の元に聖女の血を貯めることで、聖杯は復活する!!我々を救ってくださるのだ!!」
「な、なにを言ってるんだヤツは…」
エンジュが戸惑いの表情を浮かべている。無理もない。聖杯なんて、神話の世界の話しだ。
現在でも知っている人がどれだけいるか。聖杯の水を飲んだ者は奇跡を起こせる。そんな言い伝えがある。それを信仰している宗教も古くからあるのは城の書物なんかで見たことはあったが、ここまでイカれている連中がいたとは。
「この女は、その証拠にこの首飾りを付けているではないか!これは我らが探す聖女の証!!」
男は聖杯をテーブルに置くと、レシアの首飾りを持ち上げる。
「きゃああああ…ッ!」
レシアが悲鳴を上げる。オレは一瞬頭に血が上った。深く踏み込んで、一気に間合いを詰める。今ならファルシオンで奴を倒せる!
ファルシオンで攻撃しようとしたその時、椅子と椅子の隙間に身を屈めていた複数の男たちが一斉に飛び出してきた。
男たちはオレの腕をつかみ、足を掴み、攻撃を止めた。
「ふははは!我らの崇高な目的の前では誰も神に逆らうことは許されないのだ!!…もらうぞ、聖女の血を…!」
男はナイフをレシアの胸にゆっくりと近づけていく。
「『
―ブオオオオオン!!!
「うあああああ!!がああっ!!!」
オレの腕を掴んでいる男が炎で焼かれている。
後ろを振り向くとエンジュが刀で魔法攻撃を仕掛けていた。
「腕を自由にしたぞ!ラウト!やれ!!」
「ああ!ありがとな、エンジュ!!」
オレはファルシオンで、オレの身体を掴んでいる他の男たちと、祭壇にいる男に向けて魔法を繰り出す。
「『
―スッパァッン!!
男たちは風で四方に吹っ飛ばされる。壁にぶつかる者、椅子にひっかかりひっくり返る者。
祭壇の男は大きく吹っ飛ばされ後ろのろうそくや本が置いてある代にぶつかり台が大きな音と共に壊れる。
―ガシャン!
オレはレシアの元まで走っていき、鎖を切る。
「ラウトーー!!」
抱き着いてくるレシア。オレの服を握り締めて涙目になっていた。相当怖かったんだろう。
「…ごめん、遅れて」
背中をさすりながらレシアをなだめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます