019 ビーストタクト
聖杯教の信仰者たちは動かなくなった。これで一安心かと思われた。
「危ない!!」
―ガチンッ!
オレとレシアの前にエンジュが立ち、何かの攻撃からオレたちを守った。
「だ、大丈夫か2人とも…!?」
「ああ、すまない。でもなんだ…なんの攻撃だ…」
祭壇の男は倒れている。他の者も同様だ。
そこで気づく。このステンドグラスの光が屈折していることに。
「…はっ!」
ステンドグラスの壁ををよく見るとそこに「何か」がいた。
―グルルルルル…
長い舌の様なものがうねっている。その「何か」は姿を現した。周りの環境に擬態していた皮膚が緑や紫色をした皮膚が出現してくる。
大きな体調5メートルほどはあるドラゴン。いや、カメレオン…の魔獣。しかも羽も生えている。
さっきの攻撃はエンジュが本能で気づいた様だった。
「な、なによコイツ…!!」
「こ、こんな魔獣がいたとは…!」
レシアとエンジュが驚きを隠せない様子だ。
周りの環境に擬態して姿を消す動物はいても、魔獣を見るのはオレも初めてだ。
祭壇の男が動き出し、立ち上がる。
「うっ…き、貴様ら…許さないぞ、儀式の…邪魔をするなど!!!やれ!!カマイレバーン!!」
男は懐から何か指揮棒の様なものを取り出して、それをオレたちの方へ向ける。
―グパアアアア!!
するとそのカマイレバーンと呼ばれた魔獣が大きく口を開けて飛びかかってきた。
オレたちはその場から出口に向かい、走りだす。
ドタドタドタと大きな音を立て椅子や教会の中の物を破壊しながら追ってくるカマイレバーン。
教会の外に出て振り返ると、教会の壁を突き破ってきた。
そして、その長い舌を伸ばしてくる。
エンジュがそれを刀で弾くが、その質量からエンジュ自身も後ろに吹っ飛ばされてしまう。
「うあああっ!!くそ…!」
木に叩きつけられたエンジュは腕に大きな傷を負ってしまっていた。
「はっ!エンジューー!」
レシアがエンジュの元へ駆け寄る。
オレはファルシオンを消して、ロンギヌスを取り出す。
そこに男がやって来くる。
「ははは!!どうだ!!このビーストタクトのチカラ!これは神のチカラだ!これさえあればどんな獰猛な魔獣でさせ私の命令に逆らえない!!」
男はそのビーストタクトという指揮棒を振るう。
あれは魔法具か…。なるほど…それで魔獣を操っているというわけか。
男はカマイレバーンの背中に乗る。カマイレバーンは翼を広げて上空へ飛び立つ。
「貴様ら邪魔者を殺し、聖女の血を手に入れる!!さぁやれ!」
―グパアアアア!!
ビーストタクトを振り、攻撃の指示を出す男。カマイレバーンは吠えて口から何か塊を放出する。
地面に当たると草や地面がジュワアアアと溶けだした。
酸性の胃液を飛ばしているのか。当たると厄介だ。
ドンッ!ドンッ!と連続で打ち込んでくる。オレはその攻撃を交わしながら、ロンギヌスを投げる構えをする。
しかし、飛んでいる相手を捉えるのは難しい。
「ははは!!手も足も出ないだろう!私から見れば貴様らはアリ同然だ!!」
カマイレバーンは空を縦横無尽に飛び回りながら子攻撃を仕掛けてくる。
どうする。このままじゃじり貧だ。
オレはロンギヌスを見る。
奴の動きを止める方法……
オレは、地面を駆け回るのを辞めて動きを止める。
「どうした!どうした!!もうおしまいか???諦めたようだな!!」
「…ら、ラウト!逃げて!!何してるの!」
その様子を見ていたレシアはオレを見て叫ぶ。
しかし、これでいい。
「これで死ねーーーーーー!!!」
男はビーストタクトを振り、カマイレバーンに攻撃を命令する。
胃液を飛ばしてくる。
そしてその胃液はオレに直撃した。
―ドシューーン!!
「あははは!たわいもない、所詮は子供。私に勝てる訳がないのだ!ははは!」
―ジュュウウウウウウ
と音が鳴りながら辺りを溶かしていく。草や地面。そう、オレの周りを。
胃液が溶けていき、無くなりだす。そしてロンギヌスを構えているオレの姿がその中から現れる。
「な、なにぃいい!?!」
「…ロンギヌスの魔法障壁を信じて正解だったな…」
そしてオレは勢いよく地面を踏みしめて体をねじりながら全体重を槍に乗せて、ロンギヌスを投げつける。
「くらえ、『
―ズッパアアン!!!!
黒い稲妻と共に目にもとまらぬ速さで飛んでいきカマイレバーンの胸を貫通する。
衝撃波で周りの木々が揺れる。
―グギァアアアアアアア!!!!
「な、なっ!!そ、そんな!!!うわあああああああ」
大きな声を出しながら重力に任せて落ちてくるカマイレバーンと男。ドシーン!と音と共に地面に叩きつけられた。
動かなくなったカマイレバーンの背中には地面と挟った男が最後の力を振り絞りながら、そこから脱出しようとしていた。
「うぐ…ふ…う…う。こ、こんなことして…許される…はずが、無いぞ…貴様ら…うぅ」
「あんた、なんでそこまで聖杯を信用する?」
オレは男に近づき質問する。何がそこまでこの男をそうさせるのか。
「……ふ、ふふ…世界のためだ…世界の…。このままでは世界は…病によって、全滅…する…」
「病?なんの話だ?」
「同士は他にもいる、必ず、聖女の血を……聖女の……」
そういうと、男は気を失った。
オレは男が手に持っているビーストタクトを取る。
「…悪いな、あんたのこの武器オレがもらうよ」
他の誰かに使えるようになって悪用されても、また被害者が出るだけだ。
オレは『
レシアとエンジュの元に駆け寄ると、エンジュの腕が大きく裂かれていた。
「エンジュ!!大丈夫か?」
「あ、ああ…不甲斐ない。私のせいでこんな事に巻き込んでしまい、足手まといになってしまうとは…」
レシアが魔法で手当てをしていた。手を傷口に当てて光が包む。
「まってて、エンジュ!私が…治して見せるから……っ!『
この傷は相当時間がかかるはず。いくら回復魔法を使えるとはいえ、レシアに短時間で治せるわけが…
「…え?」
しかし、オレの気も他所にエンジュの傷はみるみるうちに治っていった。
「…ふう!なんとかなったわね!」
「おお!さすがレシア!!こんなに腕のいい回復魔法使いは他に会ったことが無い!感謝するぞ!」
回復魔法を扱える者はそもそも少ない。魔法の根源でもある四大元素の【火、地、風、水】意外の【聖】の元素を使う。それには才能も努力も必要だ。かすり傷程度ならまだしも、肉が裂けている傷をいとも簡単に治すなんて、それこそ円卓の騎士レベルの才能だぞ…。
普通ここまで大きい怪我だと治すのに数十分掛かる。もしくは医者へ行くのが普通だ。それをレシアは難なく回復させた…。
エンジュも驚いている様子だが、この特異性には気づいていない。それはレシアも同じ様だった。
「ラウトも無事でよかった…!」
「あ、ああ。何とかな、レシアもエンジュも無事でよかった」
オレは少し戸惑いながらも頷く。
レシア、お前は一体…。
「2人のおかげで助かった。それにしてもあの聖杯教の信者はいったい何をしようとしていたのか…」
エンジュが不思議そうな目で壊れた教会を見上げる。
「聖女の血とかなんか言っていたが…レシアは心当たりないのか…?」
「……」
そう聞くとレシアは視線を下へ向ける。
レシアはおもむろに自分の過去を話し始めた。
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