020 少女が旅経った理由

聖杯教の信者を倒して街に戻ったオレたち3人。夜の宿の待合室でレシアは自分が旅をする理由を話し始める。


「私にとって、このペンダントはお母さんを探す大事な手がかりなの…」


首元にある首飾りを手で持ちあげなら言う。


「私の故郷は田舎って言ったでしょ?ここよりももっと西に行った方角の小さな村で生まれたの…お父さんとお母さんと3人で暮らしていた…」


オレとエンジュはそのレシアの話を黙って聞いていた。


レシアはその村で何不自由なく暮らしていた。猟師でもある父親と厳しくも優しい母親との3人暮らしは幸せだったそう。

母親はレシアと同じく回復魔法を使うことに長けていて、村の人の怪我をよく治していたそうだった。

魔法の使い方も母親に教わったレシアは13歳になった頃には今と同じレベルの回復魔法を扱えるようになっていたらしい。


そんな時、怪我人がいる、助けてくれと言う声が家の外からして、父親が何事かとドアを開けた瞬間ローブを羽織った男が中へ入ろうとした。父親は不審者だと追い返そうとするが、ローブ男は他にもいたらしく父親は刃物で腹部を刺された。

母親はそんな状況をすぐ察してレシアをタンスに隠した。


レシアは怯えて震えながらタンスの隙間から父親が殺され、母親が連れ去られていくところを見ていた。


抵抗する母親だが、ローブ男らは力づくで服や髪を引っ張り連れて行った。レシアは何もできなかった自分に憤りを覚え、母親を連れ去り父親を殺した連中に怒りを覚えた。

レシアに残されたのは、最後に母親から譲り受けた首飾り。


その後、レシアは村の人たちの反対を押し切り、母親を探す旅に出たのだった。その1年後、盗賊ら襲われてオレと出会ったらしい。

母親から譲り受けた首飾りはペンダントの様になっていて、美しく細かい造形が特別な物だと感じさせる。


「…ご、ごめんね!…暗い話ししちゃって…」


「い、いや…ううぅ…まだ子供だというのに…そ、そんな辛い過去を…ゆ、許せないなその連中!」


エンジュが涙を目に貯めながら、握りこぶしを作る。


「話してくれてありがとうな…レシア」


オレはレシアを見て言う。消して思い出したい過去ではない。そして、人に大切な物を奪われる辛さはオレも知っている。

パルとの城内で遊ぶ姿を思い出す。太陽の様な笑顔をが奪われた事を。グッと怒りを抑え込む。


「…ううん。聞いてくれてありがとう。2人とも。旅に出てから話せたのは2人が初めて…すこし、スッとした」


「うむ…その話からすると、もしかするとレシアのお母様を連れ去ったのは聖杯教の信者かもしれないな」


「ああ、その可能性はあるだろうな…でも、母親が持っていたペンダントを見てレシアを攫ったというのも気になる…何かまだあるのかもしれない」


オレは顎に手を当てて考える。

レシアのあのレベルの回復魔法を扱える特異性と母親が連れ去られた事。聖杯教との関係性。何かありそうだが…今は情報が少ない。


「まっ!今考えてもしょうがないわよ!今日は疲れたし、早く休みましょ!」


レシアが立ち上がり言う。

嫌な事を思い出し、大変な目に遭ったというのにいつものレシアに戻っている。こういう芯の強さはパルにも似ている。


「そうだな!また明日考えよう!」


エンジュも立ち上がり2人は宿の受付に歩いて行く。

オレも後を追い受付に行く。


「あれ…そういえば、私たちって…お金もうあとわずかなんじゃなかったっけ…?」


「…あ」


忘れていた。

とにかく泊まれる部屋を探し、受付の人からオレたちの持つお金で泊まれる部屋の鍵を渡してくれた。


そして、部屋に入り、ドアを閉めた。


「なんで3人で同じ部屋なのよ――――――!!」


レシアが嘆く。


「ま、まぁまぁ少ない金額で何とか泊まれるだけ、まだマシという物だぞレシア」


「しかも2人部屋って…」


「そう、問題は誰が誰と寝るかだな…」


エンジュが考える。一瞬沈黙が訪れる。


「オレは床で寝るから2人はベッドを使えばいいよ」


オレが言う。2人とも今日は大変な目に遭ったんだ。ゆっくり体を休めて欲しい。


「なんと!それはいけないぞ!」


「そ、そうよ!!それだと私たちが悪者みたいじゃないー!!」


2人に詰められてしまう。


「いや、でも…じゃあどうするんだよ」


「むぅ…」


「そ、それは…」


2人とも何か考え込んでいるが、何を考えているのやら。


「私が一緒に寝よう!」「私が一緒に寝てあげるわ!」


エンジュとレシアが同時に言葉を発した。


「え!」「なっ!」


顔を見合わせている。

レシアは顔を赤らめている。


「え、エンジュじゃ体が大きいからベッドが狭くなるわ!」


「なに!ラウトと寝るくらいは大丈夫だぞ!」


「むぅ…じぁあ、ラウトに決めてもらいましょ!ラウトどっちと寝るの!!決めなさい!」


「確かに良い案だ!決めてもらおう、ラウト!」


2人にさらに詰められて壁に背を付ける。


「え、ええ…」


オレはどっちでもいいんだがな…しかし、2人は真剣な様子。その真剣さにたじろいてしまった。


その後、ひと悶着あった後、オレたちはベッドを無理やり2つくっつけて3人で寝ることになった。

真ん中にオレ、右にレシア左にエンジュ。


「………なあ?2人とももう少し離れてくれないか…?寝にくいんだが」


「な、なによ!狭いのよ、我慢しなさい!」


レシアがそういう言いながらオレの腕を抱いている。もう少しゆとりはあるはずなんだがな…


「ああ、そうだぞ!狭いからしょうがないのだ!」


エンジュもオレの腕を抱いている。何やら柔らかいものが当たっているが、気にしないでおこう。

目線を天井に戻す。


レシアの視線に気づきチラッと見るとレシアと目が合う。


「………な、なんだよ」


「むう……今、いやらしい事考えてたでしょ、エンジュにくっつかれて」


そういうとレシアはオレの腕にもっと体を寄せてきた。

足をオレの身体の上に載せてくる。


「お、おい…レシア、くっつき過ぎだぞ」


「やだ!エンジュには負けないから!」


「ほう、レシアがその気なら私も負けてられないな!」


エンジュも身体をもっと引っ付けてきた。

何やらレシアとエンジュの2人が言い合いをしているが、オレは体を動かせずじっと天井を見ていた。


「これは…ね、寝にくい……な」


2人の言い合いを他所にオレは眠りについたのだった。



―――



深夜。


ぐっすり眠るエンジュとレシア。すぅすぅと寝音が聞こえる。

エンジュの手がオレの顔の上にベチンと乗ってきた。


「うっ…」


次にレシアの膝蹴りがオレのみぞおちに入る


「うぐ……」


寝静まったと思ったらさっきからこれだ。


全く寝れない。


2人とも寝相が悪いことが分かった。

これは教訓だ。2人の手技や足技を食らいながら、オレはもう2度と同じベッドで寝ないように、依頼をこなしてお金を稼ごうと心に誓ったのだった。

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