021 ~騎士たちの嘲笑⑤トリスタン~ 

円卓を囲んでいるのは、円卓の騎士のメンバー。第2席のトリスタン、この俺含めて今は7人が座っている。

この場所は神聖な場所で、俺のような由緒正しい名家に生まれ、さらに魔法具に選ばれ、その上円卓の騎士で無ければ席に着くことが出来ない場所。


「おいおい、王は俺たちをどれだけ待たせるんだ?なぁ?みんな」


席にはガウェイン、ガレス、パロミデス、ラモラック、ケイ、ベディヴィアが座っている。


「王は体調が優れないと聞く、もうしばらく待てないのかトリスタン」


そう口を開いたのは第3席のガウェインだ。その黒い髪を後ろで結び、寡黙な顔で目線だけこちらに向けている。


「ガウェインも少しは心が痛まないわけ~?異母兄弟のメドラウトの坊ちゃんを自分の手で葬っておいて」


「…ふん。メドラウトはこの国、そして王に病をもたらした張本人だと聞いただろう。呪いの子となればその命令を全うするまでだ」


「薄情だねぇ~?ま、俺は清々してるけど~」


そう。俺はあんな無能が俺と同じ土俵に立っていることに腹を立てていた。王があの王子を円卓の騎士に任命したときは何事かと思ったよ。

とうとうボケ出したかってな。しかし、まぁそれも、王がメドラウトの坊ちゃんを国から追放するためだったらしいが。


「そういえば国民にメドラウト王子のことなんて伝えているんだっけ?」


徐に口を開いたのは第9席のケイだ。自分の爪のマニュキュアを眺めながら聞いてくる。


「おめぇなんも知らねーんだな。あの王子は不出来だからつってとっくの昔に死んだことになってんだよ」


第8席のパロミデスがケイに答える。


「王子の存在を知っているのは城内にいる者だけだ。外に出ることさえほとんど許されていないんだからな。ま、俺らぁ不憫とも思わないがな、この世は弱肉強食だ!弱いものは死ぬ。それがたとえ王子であっても…そういうことだ」


パロミデスが続けて話す。


「それにしても王の決断も早かったですよね。王子が国と王の目の上のたん瘤だと分かった瞬間、追放し処刑するなんて。円卓の騎士の任命は王なりのはなむけだったんですかね?」


第7席のガレスが話す。


「国民には公開せず非公式だったし、円卓の騎士の会合にも呼ばれていなかったんだ。そういう事だろうな。死ぬ間少しだけ俺たちと同じ気分になれたんだ。よかったじゃねーか、ハハハハハ!」


パロミデスが笑っているところに、ガチャと部屋の奥の扉が開く。

そして、そこからアルトゥル王と、側近のアンブローズが姿を現す。


ここにいる全員が立ち上がり腕を胸の前に置く。


「…よい」


王は円卓の一番奥の席につくと、座る様に俺たち騎士に促す。

アンブローズはその隣で黙って立っていた。


「…アルトゥル王、今日は何用で?」


ベティヴィアが王に訪ねた。昔からの戦友とのこともあり、何気なく聞けるのだろう。


「うむ…もう知っている者もいると思うが、ワシは【魔の病】に犯されておる…」


魔の病!?本当に、病気だったとはな。

もしこれもあの呪いの子、メドラウトの坊ちゃんが原因だとしたら、処刑して大正解だ。


「アルトゥル王…!お体大丈夫ですか??」


すかさず俺は王の身体を気遣う。


「…ああ、心配ない。トリスタンはいつもわしを気に掛けてくれるな」


「いえいえ!とんでもございません!我々の国は王が繫栄させて今の地位があります、お身体をお大事になさってください」


ククク、王に気に入られて更なる地位。ガウェインやランスロットではなく、この俺を後継者に選ぶように仕向けさせる!!

誰も俺の邪魔はさせない…ククク。


「これも全て、あの呪いの子、メドラウトがいたからだ。奴のせいでこの病気をもらった。我が息子がそんな害悪な存在だったとは…気づかなかったがな」


王がゴホゴホと咳をしながら話す。


「今、他の円卓の騎士は聖杯を探して回っておるな。この席にいない騎士からの連絡はないのか?アンブローズ」


「はっ…!パーシヴァルからは連絡はありません。他のアグラヴィンとガラハッドは数日前に目ぼしい場所に向かわせております。また、ランスロットからは目ぼしい物を見つけたと、先ほど伝書鷹により連絡が…」


「おおお!流石だランスロット…ゴホゴホ…早く聖杯の水を飲まなければ…」


王が早く聖杯を見つけたいという理由はそういう事だったのか。まぁ神話の話しを信用してしまうほど、病に追い詰められているという事か…。


にしても、クソ!ランスロットが手柄を上げるだと…!!ふざけるな!!

ようやくあの目障りなゴミ王子のメドラウト坊ちゃんが消えたかと思えば…次はランスロットか…まぁいい。聖杯は俺が王の元に届ける。


「王!私も聖杯を探しに行きます!行かせてください!」


「なぬ…ゴホゴホ…もうランスロットから目ぼしいものが見つかったと連絡がきたが…」


「いや、まだそれも聖杯かはわかりません!なのでアグラヴィンとガラハッドの2人の元へ私が向かいます、そして必ずや聖杯を届けて見せます!」


「そうか…では、トリスタン。お前に任せよう、必ずや届けてくれたまえ」


「はっ!」



―――



こうして円卓の騎士の会合は短時間で終わりを告げた。

ランスロットの持つ聖杯を奪い、そして、王の元へ届ける。ククク。俺の魔法具、慈弓フェイルノートで遠距離から狙い撃つ。いくらランスロットとはいえ、避けられはせん。ククク。そして賞賛を浴びて、次の王は俺のものだ…!!


王は会合が終わると部屋を出ていき、他の騎士たちもその後席を立っていく。

俺は椅子に掛けたフェイルノートを背中に背負う。


すると、地面に何やらい小型犬くらいの昆虫型の魔獣がうごめいているのを見つけた。


「ん?なんだ、この魔獣…?」


俺はその魔獣を足でけり飛ばす。


―ギュピィイ


と汚い鳴き声と体液を待ち散らす。

そこにアンブローズが駆け寄る。


「トリスタン卿…すまぬ。これは、今私が開発している生物兵器の魔獣なのだ」


「あ?この神聖な部屋に、そんな物入れるなよ、わかるだろ?」


「失敬失敬…しかし、まだ実用化まで行っていないのだ」


「知らないよそんな事、俺はこれから忙しい。片づけておけよ」


俺はそう言い部屋を出る。アンブローズが何やらブツブツ言っていたがどうでもいい。生物兵器なんて、そんなもの必要になる時が来るか?

まぁ俺には関係のない事だ。


「ククク…さっさと聖杯を見つけて持って帰るか…」


城内の廊下を歩きながら俺はランスロットがいるであろう場所に向かった。

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