029 ~騎士たちの嘲笑⑧トリスタン~ 

一心不乱に森の中を走っていた。

俺は円卓の騎士の第2席のトリスタンだぞ。この俺が逃げ出す????なんの冗談だ。


何なんだ、あいつは!!あのメドラウトは!!!

何故他の騎士の魔法具を使いこなせる。何故だ!!複数の魔法具に選ばれる事は相当優秀でなければならない。


あんな、魔法も使えないただのゴミが。魔法具を使いこなせるわけがない。


何か、何か理由があるはずだ…!!


「うぐうううう…!!!」


脇腹を抑える。血が、血が止まらない…こ、こんな…

意識が一瞬無くなる。


身体が地面に倒れて動けない。


「う……ぐ、ぐ…」


すると、茂みの中から何かが飛び出してきた。それは魔獣だった。

熊の魔獣だ。


「はっ…!!?」


み、見つかったら食われる…!!見つかるな!見つかるな!!


しかし、魔獣は俺を発見する。


―グルルルル!!


「ひっ…!?」


―グラアアアアアア!!


熊の魔獣は大きな口を広げて俺の腕にガブリと嚙みつきて来た。


「あがああああああああああああああああ!!!!!!」


鎧にひびが入り、今にも砕けそうになる。食い込んだ牙の先が腕の肉を裂き、骨まで到達していることが分かる。この鎧が砕ければ腕ごと嚙みちぎられる。


「お、俺の腕を魔獣の分際ででえええええ!!!」


俺はとっさにラミアの目をめがけてもう一方の腕を振り下ろす。


―ギャアアアアアア!!!


「よ、良し!これで…ッ!!」


魔獣は目を殴られて口を開く。その瞬間に、腕を引き、逃げ出す。

がむしゃらに兎に角茂みを掛けた。


ガクンッ!

と足を踏み外した。


下を見ると、地面が急に斜面になっていた。


「あああああああああああああ!!!」


移動のスピードに乗って自由落下し、転がり落ちていく。

岩や木に体をぶつけながら下にずり落ちて行った。


「あぐぅっ!!!」


ようやく落下が終わった。

俺は顔を地面につけて、部様な格好で意識を失いかけていた。


「あ…あう…あああ、あううう…だ、だれ、、、かぁあ……」


気が付けば泥水や動物のフンまみれになっていた。

もうろうとする意識の中、後ろを見るが、どうやら魔獣は追ってきていないようだった。


「た、たす…かった…はぁ…はぁ」


帝国まで、とにかく帝国を目指さなければ。

俺は力を振り絞り立ち上がる。身体中が痛む。足を引きずりながら歩いていく。

ああ、馬ならそんなにかからないと言うのに。クソ!


道中、水たまりに自分の姿が映った。

その姿は、髪はボサボサで顔はあざで膨れ上がり、身体中泥まみれで、とても騎士と呼ぶには見すぼらしい姿をしていた。


は???なんだこれ、俺だぞ?円卓の騎士最強の一角を担う、最強の騎士だぞ????????

なんという無様な姿、なんという見すぼらしい格好。ま、まるで、物乞いをする連中と同じだ…


「は、はははは、ははははははははあああああああああああああああ!!!!!!クソクソクソクソクソクソ!!!!」


殺してやる。あいつは絶対に殺してやる!!!!!!!俺の手で!!!あいつの仲間の女も!!あいつの目の前で凌辱してから殺してやる!!!!

必ず!!!!必ず!!!!必ずだ!!!!


「はははははははは!!!ざまあ無いな!!!俺が帝国に行けば魔法具をもう一度手に入れて、次は必ず容赦はしない!!!油断もしない!!!!!」


その時、茂みから見覚えのある人物が姿を現した。


「はっ!?ら、ランスロット…」


「何が、油断しない…のだ?」


冷たい視線で俺の顔、俺の姿を見つめる。


俺の目的…そうだ。俺はランスロットの持つ聖杯を奪い、そしてそれを王に届ける。それが目的のはずだった。

なのに、なのに…今は…こんな格好を…!!


ランスロットは俺に近づき口を開いた。


「……それよりも、貴様、……フェイルノートはどうした?なぜ持っていない?」


「はっ!!?あ、い、いや…」


やっぱりランスロットの目は誤魔化せそうにないか……正直に言うか、だとしても…いや、もうこの姿を見られては…


「………メドラウトに奪われたんだ」


俺は、まだその場から立てずにいた。脇腹の傷、魔獣に噛まれた傷。体中が痛む。

そのせいで立ち上がることも今は出来なかった。


「だ、だが!!!それは少し油断したからに過ぎない!次は、次は必ず取り返す!!大丈夫だ!!俺は、俺は!!!」


メドラウトが生きていたのにも驚いている様子はない。いや、ランスロットは興味がないだけだ。


「…なるほど、それで、その無様な姿と言うわけか…」


ランスロットの手を見ると、何やら袋の様な物を持っている。

これが聖杯か…。これを王に献上すれば…!!新しい上級の魔法具を与えてくださる!!!


「な、なあランスロット…その聖杯…俺たち二人で見つけたことにしないか?な?良いだろ?…」


「フッ…ハハハハハ」


ランスロットが笑った!?こ、これはいけるぞ!


「な、いいだろ?お、俺たちの仲だ。今こうして合えたのも天からの運…な?」


俺は腕を使って、下半身を引き釣りながらランスロットに近づく。


「トリスタン。貴様はもう生き恥を晒すな。国に帰っても円卓の騎士の品格を落とすだけだ」


「え?…は?いま、なんて…??」


そういうと、ランスロットは俺の横を通り過ぎて歩いていく。


「お、おい!た、助けくれ!せ、せめて傷を治してくれ!!」


俺は引き止める。ここで行かれては…俺はどうすれば…

ランスロットは足を止めて振り向く。


「な、な?ランスロット。俺たち騎士学校からの仲だろ??」


「………しらんな。こんな汚らしい汚物は…」


そういうとランスロットは歩いて行った。


お、汚物??は??何を言ってるんだランスロットは??頭がおかしくなったのか???


この世で一番強い帝国の騎士だぞ??その俺が…汚物??


「ははは…ああああはははああああああああ!!!!!ああああああああああああああああ!!!!!!」


怒りで頭がどうにかなりそうだった。すべてはあのメドラウトのせいだと、憎しみに出怒りが抑えられなかったが、血を出し過ぎていた俺はそのまま気を失ってしまった。

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