012 解放された女性たち

一瞬でついた決着。その光景に驚きを隠せないパーシヴァル。

地下水道の水を全身に浴びてしりもちを付いている。


そして、何が起こったのか分かっていない様子だった。


「…な、何が…いま、なにが起こったんだ…????」


「…あんたじゃオレには勝てないよ、もう相手にすらならない」


そうオレが言うと、ぽかんとしたパーシヴァルの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「お、お、俺がお前の様なクソゴミに負けるわけないだろうがぁああああ!!!!」


怒りのままに地面を叩き、立ち上がるパーシヴァルにオレは近づいていく。


「妹を…パルを殺したのは誰だ?お前ら円卓の騎士は何か知っているんだろ?」


「は?……なんのことだ?……妹???ふ、ふははははは、お前になぜそんなことを教えなければならない!!円卓の騎士だけの情報を!円卓の騎士から追放された貴様に俺が口を開くわけがないだろうが!!バカか!!」


パーシヴァルはそういうと、オレの胸倉をつかむ。


「さっきのは、ただのマグレだ!オレのロンギヌスを使うなんて出来るはずがないんだ!!!」


「…ああ、普通ならな。普通なら、ロンギヌスを投げ飛ばすなんて出来ない。でも、今のオレは違うんだよ、パーシヴァル」


オレはパーシヴァルをにらみつける。


「きっ!貴様!!ゴミクズのくせに俺になんて目を向けてやがる!」


オレはパーシヴァルの腕を振りほどき逆に胸倉をつかみ返す。


「今、質問しているのはこっちだ…答えてもらうぞ」


オレはエンジュとレシアに目線を向ける。


「2人とも、あの女性を頼む!」


痛みに悶えている市長の隣で怯えている女性の元へ、オレの声を聞いた2人が駆け寄る。


「もう大丈夫ですからね!『癒しの布ベールエイド』!」


レシアが女性の怪我している足を魔法で治す。

エンジュは刀を市長に向ける。


「おい、他の者はどうした…!!どこへやった!」


エンジュが市長に怒鳴る。


「ううぅう…、ち、地下の牢屋に閉じ込めて…いる…」


「…居場所を言え!そして出せ、鍵を!」


エンジュの刀が市長の首元に当たる。


「ひぃいーー!!わ、わかったから、た、たすけてくれええ」


市長から鍵を受け取るエンジュは、オレの方に合図を送る。


「ラウトー!他の者の場所と鍵を手に入れた!こちらはもう大丈夫だー!今から他の者の救出へ向かう!!こちらは任せてもいいか!」


「ああ!頼んだ!」


そういうと、エンジュとレシアは女性を連れて他の者が閉じ込められている場所へ向かっていった。

ここに残ったのは、オレとパーシヴァルと、ロンギヌスが刺さって倒れている市長の3人だけ。


水が天井から落ちる音だけが地下水道に響き渡る。


「で、どうなんだ?パーシヴァル」


「うぐぅうう………俺は知らない!誰がお前の妹を殺したのかは…!だが、円卓の騎士に何か知っている物がいるのは確かなはずだ…」


「…なに?オレの処刑の命が下ったのと何か関係があるのか?」


「お、落ち着けよ…手を離せ?な?あんなことが合ったとはいえ、俺たちは元仲間じゃないか。詳しく話すから、手を退けてくれよ…」


そういうパーシヴァルの胸倉を離す。

すると。


―バッ!


突然パーシヴァルは市長の元へ走り出した。


「あはははは!油断したな!!!俺の元へロンギヌスが戻れば、すぐお前を殺してやる!!!」


バシャバシャと走りながら市長の元へ向かうパーシヴァルをオレはただ見つめる。

パーシヴァルは市長の元に着くと、ロンギヌスを市長の肩から引っこ抜いた。


「あがああああああああああ!!!ひーーーーふーーーー!」


市長の断末魔が地下水道に響き渡る。


「ははは!!!これでロンギヌスはオレの元に戻った!!二回も俺の『神槍の閃きディバイン・ストライク』を避けられはせんぞ!!次は確実に仕留めてやる!!」


パーシヴァルはそういうと、ロンギヌスを構えようとするが。


「…なっ、なんだこの重さは…!!?あ、ありえない!!俺だけが使えるはずの魔法具だ!こんな、こんなことが!!なぜだ!!?」


戸惑い驚いている。

どうやら『幻影の強奪者ファントム・オブ・ロバリー』で奪った魔法具の所有権は完全にオレに移るらしい。そして移った元の所有者はその魔法具を使えなくなる。


「なるほどな……さっきも言ったが、そのロンギヌスはオレの物になったんだよ、パーシヴァル」


驚愕と憎しみにの目でパーシヴァルはオレを睨みつけてくる。


「ぐっ!!き、貴様あああ!!そんなことあるはずがない!!なにか、トリックがあるに違いない!!!教えろ!!!」


「まだそんなことを言ってるのか、あんたは…」


オレは天井に突き刺さったファルシオンを幻影で消す。どうやら、一度オレの物になったらどこにあろうと自由にその場から消せるらしい。

これもオレの魔法が変化したからか。


そして、パーシヴァルの持つロンギヌスをオレは幻影で消す。


「はっ!!?な、なんで???消えた??」


消したロンギヌスを幻影でもう一度取り出す。オレはそれを手で掴む。

その光景を見たパーシヴァルはもう何が何やらと言う様子。


「は、はぁ???ば、ばかな…そんな、俺は円卓の騎士なんだぞ…帝国最強の騎士なんだぞ…!」


オレはロンギヌスを手にパーシヴァルの元まで歩いて行く。


「もう一度聞く。パーシヴァル。お前の知っている情報を全て教えろ」


「うるさい!!ち、近づくな!近づくな!!クソガキがぁあああ!!!!『烈風の竜巻エアロヴォルテックス』――!!!」


パーシヴァルは手の平を前に出し、魔法を発動させる。

しかし、風が少しだけふわっと舞うだけで魔法は発生しない。


「はっ!!!?な、なぜ!????」


「……なるほど、あんた、ロンギヌスに頼ってばかりだったろ…?」


「な、なんの事だぁあ!!?」


オレはロンギヌスを構えて『神槍の閃きディバイン・ストライク』の構えをする。

魔法が発動し、光と衝撃波がオレを中心に発生する。


地面に突っ伏している市長がパーシヴァルの足を掴んで何か言っている。


「ぱ、パーシヴァル殿!!こ、これは、いったいなんの冗談なのですか…!こ、こんな、聞いていた話と違いますぞ!!」


「うるさい!!!!触るな汚らしい!!!」


パーシヴァルは市長の顔面を蹴り、肩の傷を蹴り飛ばす。


「がああああああああ!!…な、なにを…ぱ、パーシヴァル…!」


―ビシッーー!!!バキバキーーー!!!


「!?」


オレの『神槍の閃きディバイン・ストライク』の発動前の衝撃とさっきのパーシヴァルの攻撃のせいで入ったひびが亀裂になり、天井が割れ始める。


―ガゴッバキバキバキバキ!!!


「ひっ!!し、死にたくないーー!!」


その天井の光景を見た市長は立ち上がり、逃げ出そうとする。


「どけぇえ!!じゃまだ!!」


パーシヴァルはその市長を突き飛ばしていち早く奥へ逃げていく。

たしかにここにいたら瓦礫の下敷きになるな。


「ここは、引くか…」


オレはロンギヌスを幻影で消す。


「ま、まってくだされーー!パーシヴァル殿おお!」


市長がパーシヴァルを追いかけようと駆けだしていく。


「あ、おい!おっさん!そっちはダメだ!!亀裂がひどい!死ぬぞ!!」


しかし、市長はオレの声など聞かず奥へ行こうと歩く。

その瞬間。


―バゴン!ガラガラガラガラガラ!!!


大きな音と砂煙を巻き上げて天井が崩れて市長は瓦礫の影に消えていってしまう。

その奥にはパーシヴァルの後姿も見えていた。


オレもここから離れないと。


亀裂が広がる中、やってきた道を戻り、あの井戸まで戻る。

エンジュとレシアたちが無事だろうか。


地上に戻ったら他の井戸から二人を探しに戻ろう。


オレは地上へでて、何とか瓦礫の下敷きになるのを回避した。

もう朝になっていて日差しが眩しい。


そして、すぐに亀裂と瓦礫の音は聞こえなくなる。


「…ふぅ。何とかなったな」


井戸の石の所に腰を落とすと、安堵の声が出る。

パーシヴァルの事も気になるが、まずはレシアとエンジュたちだ。


オレはすぐに、町の中の井戸を探す。

すると、広場の方が何やら騒がしい。人が集まっている様だった。


そこに行くと、この町の女性や少女たち、そしてその家族と思われる人たちが抱き合って泣いて互いに無事を確認し合ってる様子だった。

そこにいるレシアと目が合う。


「あ!ラウト―――!!」


「レシア!これは…?」


「エンジュと私で、地下に監禁されていた人たちを解放して近くの井戸から脱出したの!」


「そうだったのか…それにしてもこんなにいたとは…」


オレは辺りを見渡して言う。

地下にいたであろう女性や少女は数十人はいる。


「無事だったようだな、ラウト」


後ろを振り返るとエンジュが。その隣にはさっき市長に捕まっていた女性もいた。


「みんな無事でよかったよ」


オレがそう伝えると、女性は泣き出してしまう。


「あ、ありがとうございました…うう…本当に…助けて頂いてありがとうございました!!」


周りの町の住人がオレたちを囲んでいた。


「お前さんがうちの娘を救ってくれたんだな!!!うう!!本当にありがとう!!」


「俺の奥さんを救ってくれたのが、まだこんな少年だったなんて…うう!!ありがとう!ありがとうなあ!!」


女性やその家族に感謝され、歓声が沸く。

そして、助けた女性の一人に抱き着かれる。


「ありがとうございますうううう!!!」


「わっ…い、いや」


困った表情でオレはエンジュに助けを求めるが、何やら暖かいまなざしでオレを見ていた。

な、何だって言うんだ。


レシアに目線を向ける。


「ま、まぁ。今日は許してあげるわ!」


何やら怒っている様子だったが、今日は何かが許されたらしい。

なんなんだ…?


他の男性に頭を撫でられたり、肩を組まれたりと。

生まれてこんなにたくさんの人に感謝されることはなかったなと今までの人生を思い返す時間になった。

レシアも助けた人に抱きつかれて感謝されていた。たじたじだった様子からレシアも褒められることには慣れてないらしい。

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