013 旅は道連れ
その後、オレたちは事情を町の人に伝えた。市長がいたこと。今ままで水の魔獣と言うのは嘘だったこと。
その証人は助けた少女や女性たちがなってくれた。
「ま、まさか俺たちはこの数ヶ月間ずっと騙されていたなんて…!!くそ!!」
そういう男はこの町の一番大きい店を持つ亭主らしい。
娘が数日前に攫われて憔悴していたが、今日娘と出会えて、その顔は生気を取り戻していた。
そしてその怒りは市長に向かう。
「君たちには感謝しても、しきれない…本当にありがとう。少ないが、これは俺たちの気持ちだ。受け取ってくれ」
数万のお金が入った袋を取り出してオレたちに差し出すが、オレはそれを止める。
「お金はいりません、これから町を立て直すのに使ってください」
「な、なんと、い、いいのか?そ、そんな…」
「今回の報酬は水の魔獣を狩る事でしたから、その魔獣がいなかったんだ。受け取れないですよ」
オレは、亭主の奥さんと思われる女性と娘を見ながら言う。
「そのお金は娘さんのために使ってあげてください。辛い思いをした人たちのために」
「う、ううう…あ、ありがとうございますーー!!!」
亭主は頭を何度も下げて言う。
母親に抱き着き甘える少女を見ていたらパルを思い出す。
◆◆◆
―お兄ちゃん!もう!どこいってたのよーー!心配したんだからーー!
―ご、ごめん。こっそり城を抜け出して、街に新しく出来たって噂のパン屋を探してたんだよ…
―もうー!!いなくならないでよー!
―わ、わかったから、そんな怒らないでくれよ…ほら、お前の分のパンも買ってきたぞ
―わーー!うふふ!一緒に食べようねー!
◆◆◆
そう言ってパルはオレに抱き着いてきたんだっけ。
懐かしい。ほんの少し前の話なのに、遠い昔の事のように感じる。
こうして、水の魔獣の町の住民は夜安心して眠れるようになった。
オレたちは一晩立つと町を出た。いつまでもお世話になるわけにはいかない。
町を出る時も、何度も感謝され、食べ物など沢山いただいた。
道を歩きながらレシアが言う。
「なんで、お金貰わなかったのよー!」
「しょうがないだろ…もらえるかよ」
「そりゃ、そうだけど…ってなんでエンジュさんまでいるわけ??」
オレの右隣にはレシア、左隣にはエンジュが横並びで歩いている。
「ん?いけないか?旅は道連れだろ?なぁラウト?」
「オレと一緒にいるとまた、円卓の騎士との戦いに巻き込まれますよ?」
「ああ、私は構わない!むしろ自分の力を付けるいい機会だ!狩人としてやっていくには、それくらいの相手と戦えなければ!」
何やらやる気が満ち溢れている様子。
腕を掲げていう姿は美人だけど、勇ましかった。
レシアの方に目を向けると、下を向きながらオレと目を合わせようとしない。
「…どうしたんだ?レシア?」
少し黙ったあと、重い口を開く。
「……………あんた、まさか本当なの?円卓の騎士とか、お、王子とか」
ぴたっとエンジュとレシアが動きを止める。
「…ああ、本当だ」
「そ、それじゃあ、妹さんの話しとか…」
レシアがつらそうな顔で聞き返す。
「ああ、でも、レシアがそんな顔する必要ない…これはオレの問題だから」
レシアにそう伝えると、オレはエンジュの方を向く。
「だからエンジュさんも、…オレと一緒だと大変ってことです…」
「…ふっ!人間だれしも過去はある。私もな!だが、いろいろなしがらみがあっても私は私を否定しない!昨日の戦いを見て、ラウトについて行きたくなったのだ。だから、どんな困難が待ち構えていようと、私はついていくぞ!!」
二かッと笑う笑顔が眩しい。この人はまっすぐな人なんだなと感じだ。
「エンジュさん…」
「エンジュでいい!これからは共に旅をする仲間だ!気楽に読んでくれ!2人とも」
オレとレシアは2人で顔を見合わせる。
「…ラウトがそう言うなら、私も深くは聞かないわ、王子っていうほど、王子ぽくないし!」
「わ、悪かったな、王子らしくなくて…」
「それに、どれだけ円卓の騎士と戦って傷ついても私が治してあげるから、安心して戦いなさい!!」
両手を腰につけ、胸を張りながらいうレシア。すこし、自慢げだ。
レシアとエンジュの2人に救われた気がした。
「2人とも……ありがとう…分かった。今から、オレたちは仲間だ!」
「ああ!」
「そうね!」
3人で手を前に出して重ねる。
こうして、オレたち3人はブルターニュ帝国を目指して進み始めた。
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