003 拾われた命

身体を起こしてあたりを確認する。

2畳ほどの狭い部屋にベッドと机、そこにはペンやら本やらが置かれていた。

それと、壁に釣竿が数本飾られていた。


「いてて…」


自分の腕に包帯が巻かれていて、誰かが処置してくれた様だった。

ベッドから足を下ろして自分の靴を履く。

そこにドンドンと上から降りてくる足音が聞こえて、部屋のドアが開いた。


「お!!目が覚めたか坊主!!」


部屋に入りきらないようなガタイをした大男が現れた。


「もう起きて、大丈夫なのか?まだ、村に着くまで時間あるから寝とくだべ!」


「いや、大丈夫です…。オレを助けてくれたんですか?」


「ああ!オラたちが船で漁をしてたら、ちょうど坊主が網にかかってよぉ!びっくりたまげたぞぉ!まぁしかし、大けがはして無さそうだったから安心しただべ!!ガハハハッ」


「は、はぁ…でも、助けて頂いてありがとうございます」


漁師と思われる大男に頭を下げる。


「…なにがあったは、知らないが、あんまり思い詰めるんじゃねーだべよ!紅茶でも飲むか?」


「…ありがとうございます、お言葉に甘えて頂きます」


「おう!少し待ってな!」


大男はそういうと部屋から出て、まだドンドンと足音を立てて上に上がって行った。


そうだった。オレは、円卓の騎士の奴らに、殺されかけたんだった。吹っ飛ばされて海に落ちた後、この船に拾われたっていう訳か。

オレの妹、パルも…。どうして!!どうして、こんなことに…!!!!


オレは、奴らを許さない。絶対に…!!何があっても、パルを殺したヤツを見つけて復讐してみせる。

涙が目から零れて、手に落ちる。強く握るこぶしが震える。心の奥から湧き上がる憎しみ、悲しみ、怒り、自分に対する愚かさ。すべてが入り交じる。


その時、手から幻影のオーラが鈍い光を放っていた。


「なんだ…!」


手を見つめて、その光を見つめる。

もしかして、オレの魔法が強くなったっていうのか?

でも今、考えても仕方がない。とりあえずこの船に乗って村まで連れて行ってもらい、そこから帝国を目指す。そして、パルを殺した円卓の騎士を見つける…!!


―ドーーーーーーンッ!!!


大きな衝撃音と共に、部屋全体が大きく左に傾く。


「な、なんだ…!」


上の方が何やら騒がしい。

様子を見てみるか。

オレは部屋を出て階段を上り甲板に出ると、水しぶきと波が船を襲っていた。荒れ狂う波。慌てる船員。


そこにさっきの大男がオレの元に駆け寄ってきた。


「なっ!何してんだ!!今は危険だ!!!早く中へ入るだ!!!」


「何があったんです!」


水しぶきと大きな波の音が会話を邪魔する。

身体中に海の水が掛かり、ずぶ濡れになる。


「魔獣だべ!!海の魔獣クラーケンが、襲い掛かってきたんだべ!!!」


「魔獣…!クラーケン!?」


あたりを見渡すと、この船の何倍も大きなイカの魔獣が他の船を襲い半壊させていた。伸びる10本の手足が、ものすごい質量で動きながら波を作り、船を押し上げていた。


「な、なんだ…あれ…!」


―ブオオオオオオオオオオ!!!!


重低音の鳴き声なのか何なのか、鼓膜だけじゃなく、身体全体が震える様な音を鳴らす魔獣は、神話の通り神にも似た何かの様な気がした。


クラーケンは海の中から何かを引っ張り上げて来た。大きな津波を巻き起こしながら飛び出してきたのは、三つ又の超巨大な槍だった。

そして、その槍を半壊している船に突き刺して船を沈めた。


「デイモンドぉぉぉおおお!!!!!」


それを見ていた大男が、名前を叫んだ。友達が乗っていたのだろうか。


「こ、このままじゃやられるだ…オラたちも…」


船の手すりに手を付き、うなだれる。

船員は何とか、ここから逃げ出そうと帆を操作したり綱を引き船の向きを変えようと、必死に動いていた。


「おっさん、ここで諦めたらダメだ…!!」


「坊主…でも、あんな怪物。どうしようもできないだ…」


オレは自分の手を見つめる。

もしーー。もし、オレの魔法が強くなっているなら。もしかしたら。出来るかもしれない。この絶望的な状況を覆すことが!


「おっさん!オレを、ヤツのところに飛ばす事って出来るか?」


「…っ??な、なにを言ってるんだべ?」


「あいつを何とか出来るかもしれない!」


「そ、そんな!!無理だべ!!あいつは海の神様のクラーケンだべ!!持っている槍は伝説上の武器だ!!人間が何とかなる事柄じゃないだべ!!」


そんな馬鹿な考えは捨てろ!と言わんばかりに強くオレに言うおっさん。


「出来るとしたら、円卓の騎士様くらいだべ…」


「フッ…なら、安心してくれ。オレがそれの円卓の騎士だから」


「??な、なにを言ってるだべ!!円卓の騎士様がこんな子供な訳ないだべ!!」


おっさんは困惑する。


「まぁ、今は追放されて違うけど…、って言い争ってる場合じゃないんだ、おっさん!!早くしないと、オレも、あんたも、あんたの仲間も!みんなやられちまう!!」


オレは、必死に説得を試みる。


「…う、うう。わかったべ…、わ、わったべ!!!こうなったらやれるだけの事はするだべ!!」


「よし!!サンキューおっさん!」


「おまえたち!砲台を用意するだべ!!!面舵一杯!今から、クラーケンに出来るだけ近づくだべ!!」


大男が船員に指示をだす。

オレの肩を、ポンと叩く


「無理だと思ったら、オラたちの事はほっといて逃げるだべ。いいな?」


「おっさん……!安心しな!逃げるなんてことは絶対しない。必ず勝って見せる!!」


船がクラーケンに近づいていく。クラーケンは足を乱雑に動かしながら、手に持っている三又の武器を上に持ち上げる。


大砲のたまにロープを括り付け、その先をオレと結ぶ。


「準備はいいか?坊主…そういえばオラの名前言ってなかったべ、オラはオドリオって言うんだべ!」


「準備いいぜ!オドリオのおっさん!!オレは、メドラウト!ラウトでいい!!」


オドリオのおっさんとアイコンタクトでタイミングを合わせる。


「―――――――発射!!!!」


―ドーーーーン!!!!


大砲の音が鳴り響き、身体が高速で引っ張られ上空に勢いよく飛んでいく。

あっという間にクラーケンの真上まで行き、身体に括り付けられたロープをほどく。


「オレの直感が正しければーーー!!!」


バッ!と大きく腕を広げ、手のひらに幻影を発動させる。

そして、そのまま自由落下で落ちてクラーケンの持つ武器に手が触れる。


「『幻影の強奪者ファントム・オブ・ロバリー』―――――!!!」


咄嗟に口から技の名前を叫ぶ。心に浮かんだ言葉。

魔法が発動して、一瞬にしてその超巨大な武器を幻影の光が包み、消える。


クラーケンは自分の腕から武器が消えたことに気づき、その持ち上げた腕を見る。


「これが、オレの新しい技ッ―――!!!!」


腕にグッと力を込めてもう一度魔法を発動させる。

頭に、武器の名前と武器の使い方が流れ込んでくる。


クラーケンの目の前まで迫ったその、瞬間―――!


「トライデントォ―――!!!!!!」


手から、奪った武器が再び、一瞬にして現れる。

その三又がクラーケンの顔面に刺さり、肉を突き破る。大きく波打つ海面。黒い墨や体液があたりの海に飛び散り、トライデントはそのまま勢いよく奥まで行き、クラーケンの身体を貫通した。


船から見ていたオドリオは驚きの表情を見せていた。

オレはこの時、確信した。

やれる!この魔法があれば!!円卓の騎士ともやり合える!!!


こうして、オレたちは絶体絶命の危機を乗り越えたのだった。




―――




クラーケンは死んだのか、そのまま海底にゆっくりと沈んでいった。

オレは海に落ちた後、オドリオたちに船に引き上げてもらった。

他にも、沈んだ船の船員たちを引き上げていた。


「うぉーーーーーー!!!!!すげぇーーー!!!!」


「やりあがったぜ!!!あの坊主!!!!」


「あんなの見たことねぇ!!!」


甲板に上がると船員たちが大騒ぎしていた。

オレの元に何人も来て、頭を撫でたり、肩を組んだり兎に角、今まで味わったことのない英雄扱いを受けた。


「君のおかげで俺は息子の元へ戻れる、本当に感謝してるよ…!!」


「おらぁ、村で待つ恋人に結婚しようって言うことを決めたよ!本当にありがとう!!」


色んな船員たちがオレに感謝を伝えてくる。

これは、この船にいる人たちみんなの勝利だ。

そこに、オドリオがやってくる。


「おめぇ、凄い奴だったんだな。ラウト、オラ、びっくりしたべ」


「フッ…オレも、驚いてるよ。でも、オレの力だけじゃない。オドリオのおっさんや、みんなのおかげで倒せたんだ」


こうして、オドリオと握手を交わしお互いを認め合った。

うぉおおおおおお!!!という歓声が海の真ん中で轟いていた。

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