002 劣性遺伝子
「なぁ?聞いたか?円卓の騎士の第12席に、あのメドラウト王子が選ばれたらしいぜ」
「まじかよ、12席といえばここ数十年ずっと空席だったんだろ?なんで急に。しかも、あの出来損ない王子が」
「さぁ?アルトゥル王の気まぐれなのかもな?でも、これで1席から12席の全員が揃ったんだし、この帝国も更なる躍進していくかもしれないぜ」
「それにしったってあの王子はないだろ~」
「まぁな!アハハ!」
中庭で警備兵が柱にもたれ掛かって談笑している。
その後ろを、歩くオレ、メドラウト。この、ブルターニュ帝国の一応王子だ。
しかし、本人が後ろを歩いているとは知らずに楽しそうにしている。まぁ、警備兵が談笑出来るほど、この国は安全と言えるのかもしれない。
今日はオレが円卓の騎士の席に着いてから初めての会合だ。
廊下を進み、奥の大きな扉のある部屋の前まで行く。あまり気負わずしっかりしなければと、一呼吸おいて、扉を開けようとした時。後ろから誰かに話しかけられた。
「おい、メドラウト」
後ろを振り向くと、そこには円卓の騎士、第1席のランスロットが立っていた。
「ランスロット…卿」
「会合まで時間はある。少し顔を貸せ」
そういうと、中庭の方に首を動かすランスロット。いう通りに中庭まで歩いていく。
すると、ランスロットは背中に背負う剣を抜いた。
「メドラウト、貴様の本気の実力を知っておきたい。見せてみろ」
「オ、オレと戦うっていうのか…!」
「ああ、そうだ。早くしろ」
剣を構えるランスロット。奴が持つのは聖剣アロンダイト。この世にある最強の魔法具のひとつで、父さんが持つエクスカリバーと並ぶ武器だ。
オレは自分の魔法を発動させる
―|幻影の鞘≪ファントム・ストック≫
クラレントを取り出し、構える。
「じゃあ、遠慮なくっ!!」
そして、飛び掛かる。振りかぶって剣を斬りつけるが、宙で剣が動きを止める。
「なっ!なんで」
「……」
ランスロットは剣を使わず、左手を振り払ってクラレントを弾く。
吹っ飛ばされるが、体勢を空中で立て直して地面を蹴り、その反動でもう一度飛び掛かる。
「まだまだ!!」
クラレントでランスロットを斬りつけるが、剣がギリギリで止まり体に当たらない。
周りの魔法障壁が邪魔をしているんだ。
ランスロットはオレの攻撃を見ながらつぶやいた。
「…こんなものか」
ランスロットが少し剣を動かすと、大きな光と共に衝撃派が広がり、オレは体ごと吹きとばされて中庭の柱に叩きつけられた。
「ぐぁ!!」
地面に膝をついてしまう。
さすが円卓の騎士最強の一角。全く歯が立たない。これが円卓の騎士の実力、これが魔法具を持つ者と持たざる者の差なのか。
すると、そこに円卓の騎士たちぞろぞろと集まってきた。
「あれ?無能が、なんでランスロットとやり合ってんだ?」
そういうのは、第8席のパロミデス。黒人の男だ。
背中には斬馬刀デュランダルを背負っている。ひと振りで100の兵士をなぎ倒すと言われている魔法具だ。
「さぁー?どうせ、ランスロットのいつものやつじゃない~??あたしはどうでもいいし、興味ないけどーー」
その隣で自分の爪のマニュキュアを見ながら話すのは、第9席のケイ。銀髪の女性だ。
彼女が持つ選定杖アヌビスは、あらゆる物事を選別し、真実を導き出すと言われている。
「久しぶりだね~ランスロットの新人査定。どう?12席は?」
にこやかに笑いながらランスロットに話しかけたのは、第2席トリスタン。彼の持つ慈弓フェイルノートは、強力な魔法で鍛えられており、人間でも獣でも狙った場所に必ず当たるといわれる。
「体術はここの兵士の隊長クラスだが、魔法は聞いていた通り子供以下だ」
「ふふふ、まーーみんな知ってるし、有名だから驚くことはないけど。円卓の騎士なのに、そんなに弱くていいのかなー?大丈夫?ラウト坊ちゃん?」
オレを心配するような素振りだけするトリスタン。この男は顔は笑っているが、目が笑っていないのがよくわかる。嘘で塗り固められた顔だ。
「大丈…夫ですっ」
「えーーほんとー?すこしは先輩に頼ってもいいんだよ?君はほら、ね?あれだし~あはは」
トリスタンは自分の頭に指を向けてくるくる回すジェスチャーをする。オレの生まれながらの才能の無さをからかっている。
ランスロットは自分の剣を収めると、会合が始まる部屋に入って行った。そして、他のメンバーも後に続いていく。
自分の弱さを実感した。こんなにも差があるのかと。
オレは生まれながらに劣性遺伝子を持つ子供だった。魔法の能力は遺伝で殆ど決まると言われている中、初級の魔法でさえ扱えなかった。そんなオレを父さんは、ひたすらに厳しく訓練させた。あらゆる武器という武器を使いこなせるようにと、格闘術から剣や盾、弓や槍。その他にも。
歩けるようになってからすぐ、この14年間ずっと。
唯一使えた魔法は《自分の武器を一つ幻影で消せ、好きな時に取り出せる事》たったそれだけだった。
そんなオレの努力を認めてくれて円卓の騎士に選んでくれたと、思いたいが。
なぜ父さんはオレを、円卓の騎士なんかに入れたんだ。
自分の弱さを実感しているとそこに、中庭の端にある扉を開けて入ってきたのは円卓の騎士、第11席のベディヴィアと、その後ろに王のマントを靡かせて歩く、オレの父親アルトゥル王がいた。
ベディヴィアは白髪の貫禄のある男性だ。父さんと年も近く戦友として一緒に戦ってきたらしい。彼は円卓の騎士でも一番の年上。彼が持つ武器は身体に身に着けていると言うが、使っているところを見たものは少ないという。どういう物なのか、オレもよく知らない。
廊下を進み、会合がある部屋に歩いていく途中、父さんはオレを見つけて立ち止まった。
ベディヴィアに先に行くように指示して、その場から声を掛けて来た。
「ここで何をしている、ラウト」
「…ランスロット卿と、手合わせして。負けました」
「………………そうか」
父さんは一言そういうと。会合の部屋に歩いて行った。
オレも立ち上がって部屋に向かおうとした時、父さんが振り向いて言った。
「今日お前は、来なくてもよい、お前は弱い。円卓の騎士の誰よりも。円卓の騎士に入れたのは、気まぐれだ。私をこれ以上失望させるな」
そういうと扉を開けて中に入って行った。
ハッキリそういわれると、わかってはいたが正直凹む。ぐっと握りこぶしを作って悔しさを噛みしめる。
「お兄ちゃんーーー!!」
落ち込んでいるところに妹のパルが駆け寄ってきた。
楽しそうに、嬉しそうにフリルの着いた服をなびかせて。
「パル…どうした?」
「どうしったって!明日お兄ちゃんの誕生日でしょ!5月1日だよ!パーティーの準備をしなきゃ!」
「あ、ああ。そうか。オレの誕生日だったか」
「私の部屋で一緒に過ごそうね!」
天真爛漫に笑う笑顔が眩しい。この城で唯一オレの事を純粋に好いてくれる存在だ。
「お前は、今日もいい子で可愛いな」
パルの頭を撫でる。
「な!なによ!お兄ちゃん~、やめてよ~!急に恥ずかしいよぉーー」
「はははっ」
「もっーー、あっ。お兄ちゃん、顔擦り剝いている!」
「え?ああ、大丈夫だよ、これくらい何ともない」
さっきランスロット卿とやり合った時に出来た傷だ。かすり傷だが、パルは心配らしい。
「大丈夫じゃないよー!早くこっち!私が手当してあげるから!」
パルはオレの腕を引いて医療箱があるであろう部屋に連れて行ってくれる。
もう、会えないのが、死ぬほどつらい。
―――パル。
―――パル。
「……パル」
暗闇から目を覚ます。
目の前にあるのは木の板で作られた天井。揺れるランタンが、辺りを照らしていた。
自分の身体は仰向けに寝かされていた。
ほんのりする磯の香。ここはどこだろう。
どうやら、オレはまだ死んではいなかったようだった。
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