016 ~騎士たちの嘲笑④パーシヴァル~

自分で自分の傷を治療したのはいつ振りだろうか。

持っていた医療道具で蛇の魔物に貫かれた肩を治療する。魔法が使えないとこんなに不便だなんて。


俺は川沿いの岩場に腰掛けて休んでいた。

近くに水があって助かった。


「ふぅーー…ふぅーーー…」


呼吸を整えようとするが、何度も激痛が走る。


「あがっ!!ぐっ…い、いてぇえ…いてぇえよおお」


1人で暗い空の下。川の流れる音だけが俺の心を癒してくれてた。

俺は血で汚れた手を見つめながら円卓の騎士に選ばれた時のことを思い出す。


18歳の日、アルトゥル王に呼び出され。円卓の騎士、第6席の称号をもらい受けた。

それは俺の才能が認められたからだ。貴族生まれで才能あふれた俺にはロンギヌスがあった。その才能があったから王も認めてくださった!


それから俺はそのロンギヌスで幾度も成果を上げた。5年たったころには円卓の騎士の最強と言われる騎士と肩を並べるほど強くなったんだ!!


その、肩を。ただの下級魔獣に貫かれるなんてあってはならないんだ!!

この俺が!!俺こそがロンギヌスを持つにふさわしい男なんだ。

あんなゴミ王子じゃない!!王族のくせに魔法もろくに使えない奴が持てる代物じゃないんだ!!!


必ず取り返して見せる。必ず!!!


気が付くと俺は気を失っていた。

目を覚まして辺りを見渡すと朝になっていた。


「いっ…!?」


肩に激痛が走るが、昨日ほどではない。何とか立ち上がる。

兎に角。町に行って怪我を治してからだ。それからあのゴミを見つける。そうすれば問題ない。


そうすれば俺は円卓の騎士でいられるんだ!!


歩いて川から森の方に歩こうと砂利を踏む。

振り返るとそこには2メートル以上ある大型の熊の魔獣が俺を見ていた。


―グルルルルルルル


「あ、あああ、…あああ」


俺はただ見上げることしか出来なかった。

その熊の魔獣はおもむろに立ち上がると3メートル以上の大きさになった。


―グワアアアアア!!!!


「ひっひゃあああああああ!!!!」


魔獣は口を大きく広げて俺の方に吠えた。

俺はすぐに引き返して川の中へ入っていく。


バシャバシャと水しぶきを上げながら向こう岸を目指す。


「はぁああ!!…ひっいい!はっ!!」


後ろを振り返ると魔獣がすぐそこまで近づいていた。


「あ、あああああ!!!や、やめてくれえええええ!!!!!」


魔獣は腕を振りかぶりその巨大な爪で俺の背中を切りつける。


「があああ!!!っ、い、いてえええ!!ご、ごめんなさあいいいい!!ゆ、許してええ」


鎧のおかげかそこまで深くは削られなかったが、それでも背中の肉を裂いた。

俺は無我夢中で向こう岸を目指した。


川の水面が胸のところまで来ていたが、お構いなしだ。

自分の鼻水と涙と川の水で、全身ずぶぬれになっていた。


魔獣は動きを止めて、俺のことをただ見ていた。


「は、ははは!!!お、恐れを成したか!!!魔獣があ!!あはははははは!!」


ここまで来れないとは弱い魔獣だ!いくら魔獣と言えど脳味噌はただの動物。人間様に立てつくなんて数億年早いんだよ!!!

俺はあと少しで向こう岸に行けるところまできた。


「…うぷっ…ゴホっ…はっ、あ、あと、も、もう少し…ゴポっ!」


水面が首のところまで来ていた。

そこで気づいた。流されいてるということが。


「あ、あれ??…ゴホっ…おえっ…うぷ…うぐ…」


バシャバシャと両手両足をバタつかせるが前に進まない。

肩から血が滲みだしていた。片腕が動かせなくなる。


「あがっ…た、助けてくれえええええええええええ!!!!おぷぅ…ごえ…だ、だれかああああ!!」


川の水の流れは速く、あっという間に元居た場所から流されていく。

熊の魔獣の姿も見えなくなっていた。


全身水につかってしまい、息が出来ない。


「…ゴポっ!!お、ええええ!…うぷ…ぷはぁ!…」


そして川に流されて、俺は息が出来ず気を失ってしまった。

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