031 帰還

「ついに…帰ってきた…!」


ガラグの街で歓迎を受け一晩過ごしたあと、数日が経ち、

オレたち3人、レシアとエンジュはオレの生まれたブルターニュ帝国が見える丘にたどり着いていた。


「ようやくここまで来たわね、ラウト…」


レシアがブルターニュ帝国見ながら言う。


「ああ、ようやくだ…」


「この後はどうする?城に向かうのか?」


エンジュが腕を組んで聞いてくる。


「……ここからは2手に分かれた方がいいと思う」


オレは2人に告げる。こっから先は問答無用の戦いになる。2人に危険が必ず及ぶ。


「な、なんでよ!ここまで一緒に来たじゃない!」


「そうだ!…た、確かに私は足手まといかも知れないが…そ、それでも!」


「いや、そうじゃない…そうじゃないんだ……」


オレは2人から目をそらす。パルのあの笑顔が失われたあの日を思い出す。グッと怒りと悲しみを堪えて拳を握り締める。


「オレは…レシアと、エンジュに傷ついてほしくない……オレは、もう…あんな思いはしたくないんだ…」


正直な気持ちを2人に伝える。一瞬沈黙が訪れる。


「…ダメよ!」


そういったのはレシアだった。


「確かに、私たちの目的とラウトの目的は違うわ。関係ないかもしれない…でも、ラウトとエンジュと一緒に旅した時間は、関係無くない物になった。私にとって…。私もラウトに傷ついてほしくない気持ちは同じ!だからついていく!!」


レシアがオレの目をまっすぐ見て言う。オレは少し呆気に取られてしまう。


「うむ!…そうだぞ、私たちはもう、ただ行く先が同じなだけの集まりじゃない!ラウトの助けになりたい、私たちの想いは一つだぞ!だから、そんな気遣いは無用だ!」


「そうよ!そうよ!大体ここまで来て、じゃあバイバイだなんて薄情な事、私たちがすると思う!?もぅ!」


「…2人とも…ありが…」


―ドンッ!ドンッ!


オレが2人に感謝を言おうとしたその瞬間。ブルターニュ帝国からなにやら鈍い音が数回聞こえた。


「…ねぇ!!あれ見て!!」


レシアがブルターニュ帝国の方向を指さしながら言う。オレとエンジュは何事かとその方向を見る。

すると、何やら煙が何か所から立ち上っている。


「な、なんだ…!?」


―ドンッ!ドンッ!


さらに、何やら爆発のような音も聞こえてきた。


「こ、これは…!ただ事じゃないぞ…!ラウト!」


エンジュが焦りならオレに言う。たしかに、ブルターニュ帝国が襲われる事なんて、オレが生きてきて一度もなかった。

他国からの侵略か…?いや、辺りを見回してもそんな風には見えない。じゃあ、内乱…??わからない。


「とにかくオレたちも急ごう!」


オレは『幻影の鞘ファントム・ストック』からビーストタクトを取り出す。そして、タクトを振り魔獣を召喚する。


「こい!ファルコン!!」


魔法陣が3つ出現し、鷹の魔獣が出現。その鷹の背中に乗る。

ファルコンは翼を羽ばたかせると体が持ち上がり空へ上がる。スピードを出してブルターニュ帝国の上空まで飛んでいくと、何が起きているのかが分かった。


「ま、魔獣…!?」


「噓、こんな大きな国に魔獣が現れるなんて…!」


エンジュとレシアが驚愕していた。そう、魔獣が街を、人を襲っていた。しかも何体も何十体も大群だ。


「…あの魔獣…たしか…」


―グオオオオオ!!


その魔獣に見覚えがあった。昆虫型の魔獣。大きさは人サイズの物もあれば、5~6メートルほどの大きさの魔獣も暴れていた。オレたちは一回出会っていた。ガレスの街で暴れていたあの魔獣とそっくりだった。

ブルターニュ帝国が魔獣の侵入を許すなんて考えられない。何が起こっているんだ。


国の上空を旋回しながら、降りられそうな場所を探す。


―バシュン!


「きゃあ!」


「!?…レシア!」


ファルコンの翼に釘状の何かが突き刺さっていた。その背中に乗っていたレシアはバランスを崩して落下していく。刺されたファルコンは力を失い消えてしまった。

オレは急いで落ちていくレシアの元へ向かう。


たのむ、間に合ってくれ…!!


地面ギリギリのところで、レシアを受け止めることが出来た。


「……だ、大丈夫か?レシア?」


「…う、うん…ありがとう」


レシアは涙目になりながらオレに抱き着いてきた。

頭をポンポンとさすりながら、レシアを抱きかかえてファルコンの背中から降りる。


「おいおい、魔獣かと思ったら人間が上に乗ってやがったのかよ…ケッ!」


男の声がする方向へ振り向くと、そこには魔獣の死骸の上に座り斬馬刀デュランダルを肩に乗せてこちらを見ている円卓の騎士がいた。


「お前…!パロミデス!!」


「あぁん?…なんだ…????」


パロミデスはオレを見るや否や目を細めて何度も目をこすっていた。


「おまっ!!お前!!!!メドラウト!!!?呪いの子がなんで生きてんだよ!!!!あの時、確実に死んだはず!!!」


「悪いな…死なずに帰ってきたよ…!」


「ははーん、なるほど、この魔獣もお前のその「呪い」ってヤツのせいか…」


「…何の話だ?」


オレは聞き返す。呪いの子?パロデミスは何を言っている。

エンジュもオレの横に降りてくる。


「ああ???お前もわかってんだろ、この国がこんな事になったのはお前のせいだってよぉ!!!じゃなきゃ、王が病になったり、国に魔獣が溢れたり、こんな立て続けに不幸が起こるわけがねぇ!」


「王?…父さんが…病?だと」


「ま、そうと分かればお前を殺すまでよ…」


パロミデスは立ち上がり、武器を構える。


「あ、あんた!ここの騎士なんでしょ!こんなところで道草食ってないで、早く国中で暴れてる魔獣やっつけなさいよ!」


レシアがパロミデスに叫ぶ。周りを見渡すと、城の兵士たちが魔獣と戦い、住民たちは逃げ惑っていた。


「なんだ小娘。誰にモノ申してる??そんなのはオレの仕事じゃねぇよ…」


ジャキンとデュランダルの刃先をオレに向けるパロミデス。ニヤリと笑う。


そして、飛びかかってきた。

デュランダルの太刀をすかさず幻影からロンギヌスを取り出して受け止める。


―ガシーーーッン!!


衝撃波が広がる。重い一撃。ロンギヌスの魔法障壁を展開しながら受け止めなかったら体がバラバラになってしまっていただろう。


「ほう…!!お前…ロンギヌスを…クククッ!!まぁどっちでもいいけどよおおお!俺とやり合うってんなら一瞬でぐちゃぐちゃにしてやる!!!」


ブンッ!ブンッ!と重い刀身を振り回し、風を切りながらオレを追い詰めてくる。

それをオレは避わしながらロンギヌスでいなしていく。


「ハッ!!!逃げても変わんねーぞ!!くらえ!!燕返しーー!!!」


デュランダルの刀身に風が集まり、一瞬キラリと光る。


―スッパアァァァン!!!


「くっ…!?」


避わしたと思ったが、オレの肩の服が切り裂かれていた。この技は敵の目を一瞬だけ晦まし、その長い刀身を生かし素早い斬撃を飛ばす技。

あと、すこしズレていれば首に当たっていた。

オレは、一旦距離を取る。


「…やるじゃねーか。無能王子から少しは進歩したか?」


デュランダルを肩に乗せてニヤリと不敵に笑うパロミデス。

オレの隣に武器を構えたエンジュとレシアが立つ。


「私たちも戦うわ!」


「ああ、ラウトだけに負担はかけん!」


「お、お前ら…」


エンジュはともかく、レシアは戦闘タイプじゃない。


「レシア…気持ちはありがたいけど…」


「私も…密かにエンジュと特訓してたのよ、その成果を見せてあげるわ」


「え、おま…いつの間に…!?」


オレは驚きながら、両隣の2人を見る。


「だから、あんたも気にせず全力で行きなさい!!」


レシアが言う。


「…わかった…行くぞ!!みんな!」


パロミデスがデュランダルを構える。


「ゴミが何匹集まろうが、俺に勝てるわけぇーだろうがよぉ!!!」


オレは幻影からダーインスレイヴを取り出して、パロミデスに突っ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る