015 ~騎士たちの嘲笑③パーシヴァル~

どれくらい歩いただろうか。森の道を進むがゴミ王子を見つけられない。

そんなに遠くは行っていないはずだが。


―ガサガサッ


何か音がした。

魔獣か?まぁ、この辺り一帯にいる魔獣は精々下級、いても中級程度の魔獣しかいないはずだ。


たとえ、出くわしても俺は円卓の騎士だ。負けるはずがない。

身を低くして様子を伺う。


茂みから顔を覗かせたのは下級の蛇の魔獣だった。


「フッ…ただの蛇の魔獣か…名前も付いてなさそうな魔獣ではないか」


しかし、下級の魔獣と言えどその大きさは大人の男と同じくらい。

軽く俺の魔法で蹴散らしてくれるわ。


俺は今、無性に腹が立っているんだ。俺に出くわしたことを恨むんだな。

蛇の魔獣の前に姿を現す。


―シャアアア!


魔獣は口を大きく広げて威嚇してくる。

俺は間合いを取り、手を付きだす。そして魔法を発動させる!


「くらえ!!『烈風の竜巻エアロヴォルテックス』――!!!」


竜巻を起こす大技だ!これに巻き込まれれば体はバラバラに引き裂かれるほどの威力!!


「あっははは!!!どうだ!!クソ蛇が!!!」


しかし、蛇は何ともない様子だった。


「あ、あれ…?あ、あれ??な、なんで?いつもは出るのに…!?!?」


―シャアアア!


蛇の魔獣は俺に飛びかかって肩に噛みついた。


「がああああああああああああああああああああああ!?!」


俺は激痛の走る肩を見下ろす。

魔獣の牙が俺の肩を貫いていた!


「あ、あがああああああああああああああああああ!?!いでえ!?いでえ!?いでえよおおおおお!!」


嗚咽が漏れる。フガフガとうるさい音がなっていた。それが俺の口から漏れる息の音だとすぐにはわからなかった。


「なんでだぁ!相手は……この魔物はただの下級魔獣だぞおお!!?」


下級魔獣。円卓の騎士なら難なく倒せる魔物だ。


「いつもなら魔法が発動するのに!!くそ!!やりやがったな!!俺の体を!くそっ!なんで、なんで、ただの下級魔獣にぃ‼」


激痛で涙が流れて前が滲んで見えない。

痛みで混乱し、俺の目の前に蛇の魔獣が佇む。いつもよりその身体が大きく。そして不気味に感じる。

今まさに俺の首に噛みつこうとしている現実すら見えていなかった。


血が溢れて止まらない。ど、どうする。


蛇の魔獣が噛みついてきた。

咄嗟に俺は横へ体を反らしてその攻撃を避ける。

魔獣は牙が地面に突き刺さり、一瞬動きを取れずにいた。

その隙に、俺は走って茂みに逃げ込む。姿勢を低くして奴から距離を取る。


だが、これで大丈夫だ。時間が稼げる。

肩はまだ痛みを伝えてくるが、冷静になり始めていた。


恐らくこれは何かの間違いだ。そうだ、誰にだって万が一がある。円卓の騎士である俺でさえも油断していたのだ。二度とこんな不運は訪れることはない。ただの偶然。そう偶然だ。


そう自分に言い聞かせる。


回復魔法で肩を治療する。

これでもう安心だ、これで、もう一度体制を立て直せれば…


「あ、あれ…な、何故だ、何故回復魔法が上手く作動しない!?!」


俺は愕然とする。

な、なんで魔法が発動しない!?ま、まさかロンギヌスを奪われたから!!?

い、いや!それでもおかしい。ロンギヌスがなくとも烈風の竜巻エアロヴォルテックスや回復魔法は俺の技。発動しない理由が…。


ここで、地下水道でゴミ王子に言われたことを思い出す。


【ロンギヌスに頼ってばかりだったからだろ…?】


―!!?


そ、そうか俺はその恵まれた魔法の才能から幼少期にロンギヌスに選ばれた。

それから今まで、俺はロンギヌスの魔力に頼っていた。


「うぐうぅうう…だ、だから自分の魔力を上手くコントロールすることが出来ない…のか…!!!くそ!!!!!今はロンギヌスは…無い…!!回復魔法さえ上手く扱えないなんて…」


俺は腹の痛みに身をよじり、知らぬ間に涙を流しながら呻いた。なんでこんなことに…。


「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!俺は選ばれた円卓の騎士なんだ。なのに!!」


メドラウトの顔を思い出す。あんなゴミクズ野郎のせいで俺は、俺はこんなところで死んじまうのか…。


憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い!!!!


「はっ!?」


気が付くと蛇の魔獣が俺の真後ろにたたずんていた。

俺は息を飲む。幸い気づかれてはいない。


頼む!気付かないでくれぇ!!


魔獣はしばらく辺りを見渡すとどこかへ消えてしまった。


「た、助かったあああああ…はぁはぁ…」


俺はその場から急いで逃げ出した

とにかく、今は逃げなくては…!!

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