039 終戦

「う、うそだ……そ、そんなぁあ…!!」


ガササ!と音がして振り返ると、そこには円卓の騎士の第7席、ガレスが立ち尽くしていた。


「お、お前は…ガレス…!」


「あ、あああ…ら、ランスロット様ぁあああな、なんで!!!」


ガレスよろよろとランスロットが横たわる場所に歩くと、その場に膝を付いた。


「あ……ああ……そ、そんな…」


オレは立ち上がる。しかし、全身に力が入りきらない。

ぐっと、エンジュとレシアに支えられる。2人の肩を狩りて何とか立ち上がる。


「……ガレス…」


「ううう……お、お前がやったのか!!お前が!!!!」


ガレスは泣きながらオレの方を振り向く。


「………ああ」


オレは弱い声で返事をする。


「う、ううう………」


ガレスは周りを見渡す。


「なんで…こんな、こんな事になったんだよ!!!」


拳を地面に打ち付けて叫ぶガレス。


「…これは、アンブローズが」


オレがそう言おうとしたが。


「うるせえええええ!!!!」


ガレスは立ち上がりオレを睨みつける。


「おま、お前がいなければ、こんな、こんな事にはならなかったんだ!!!」


両手をバッと広げるガレス。


「お前は、俺たちから奪われたと思うかもしれないが、俺も、唯一の師を奪われた!!!お前に!!!」


「復讐してやる……お前に…!!!」


ガレスがオレの事を強い憎しみを込めて睨みつける。


「…っ…」


オレは目を逸らしてしまう。


「ち、ちょっと!待ちなさいよ!!…これも、全部悪いやつがいたのよ!!それに、この人だって、私たちを襲って…!だから!」


レシアがオレの前に立ち、ガレスに言う。


「……関係…ないね……」


ガレスはふらふらと歩き、地面に突き刺さっているアロンダイトの元まで行くとそれを掴んで持ち上げる。


「うぅ…ぐぐ!!お、重い…や、やっぱりすごいな…ランスロット様は…はは…」


そういうと、ガレスはアロンダイトを引きずりながら歩いて行く。


「…どこへいく…ガレス…」


「………お前を超える、そして、お前を殺す……」


ガレスは振り向きオレを睨みつけて、一言いうと目から流していた涙は止まっていた。

ずるずるとアロンダイトを引きずり歩いて行ったガレスはやがて小さくなり、見えなくなった。


オレはその後ろ姿をただ見つめることしか出来なかった。


自分の手を見る。この手はもう、城でパルと過ごしていたあの時の手とは違う。

これは、オレの罪。オレの…。グッと拳を握り締める。


ランスロットの言った言葉を思い出す。

奪われたから奪い返して、殺されたから殺して。その後に残るは、憎しみと悲しみだけ。


その世界の先には何もない―――。


空気を吸って、息を吐く。


心配そうに駆け寄ってくるレシアを見て、もう一度胸に刻む。

赤紫に澄み渡る様な空を見上げる。



それでも、オレは……。



―――



それからは国の復興に国民全員で取り組んだ。

瓦礫の撤去や物資や食力の確保、先導したのはガウェインだった。


王の死、側近と友の裏切り。ガウェインを何か変えたのかも知れなかった。


当然、オレやレシア、エンジュも復興に協力した。

特にあの後3日間はレシアは怪我人の治療を行ったり、エンジュは力仕事など人手が足りないところを率先して手伝っていた。


オレも、街の人と協力しながら助けがいるところに行き、手伝いまわっていた。



そんな生活が二週間ほど経ち、オレは城に呼ばれていた。

いまだにあの戦闘で破壊された場所は修復されてはいないが、今は応急処置をして木材で穴を塞いでいるがこれから治していくらしい。


応接間に通されるとそこにはガウェインが一人だけ座っていた。


「…あんた一人か…」


オレはそういうとテーブル手を付き、座っているガウェインはオレに目線を戻した。


「…来たか…メドラウト」


「今更何の用なんだよ」


ガウェインは徐に立ち上がり、オレにあたまを下げた。


「…って!なにして…んだよ」


オレは驚きのあまりうまく言葉が出なかった。


「…すまなかった…。お前にした仕打ちの事、今までの事…全て……!!」


「…今更謝られても…」


オレはあたまをかきながら呟く。


「…何も言い訳はできん…お前の追放し、妹のことを侮辱した。全て、俺の未熟さ故の過ちだ……赦してもらうつもりはない。今、ここで首を切ってくれてもいい…」


ずっと頭を下げ続けるガウェインにしびれを切らしたのはオレの方だった。


「わーーったよ!いつまで頭下げてんだ!」


「…なっ…メドラウト…」


「騙されていたのはオレも同じだ…でも、全部を許した訳じゃねぇ」


「…分かっている…」


「けど、過去のことをずっと抱えていても前には進めないだろ?だから……あんたは、この国を立て直してくれ……」


オレは窓から見える街の景色を言いながら言う。


「この、国を…?もやは、今の俺に国民を率いるチカラなどない」


「今、みんなはこの国を必要としている。こんなところで倒れられたら、この数日間の復興が水の泡だ…この機に乗じて他の他国が攻めてこないとも言えない……」


「しかし、私にそんな…資格など…もともと…」


ガウェインは目を反らす。


「血とか才能とか…そんなものに縛られていたからオレたちは今こんなことになってる……資格とかそんな物じゃない。今、あんたはこうやって国の事を考えているじゃねーか。この数日間の成果だって。あんたの活躍があったからだろ?」


「…それなら、メドラウト…お前こそ…」


「…オレにはまだやることがあるんだ」


「……そう、だったな」


「ま!なる様になるさ。あんたに国を任せることが出来ればオレも気兼ねなく、パルを救いに行ける…!!」


オレは頭の後ろで腕を組んで、ニカッとガウェインに笑いかける。


「…ああ。そうだな」


オレはガウェインの前まで歩き、手を前に出した。

ガウェインは一瞬不思議そうにする。が、同じく手を出してオレたちは握手を交わした。


「頼んだぜ…新しい国王さん」


「ふっ…言ってくれるな」


オレはその後、城を後にした。



ああやって握手するのは生まれて初めてだった。生まれてからずっと劣性遺伝子として城に幽閉されて生きてきたオレは異母兄弟のガウェインと会う事もままならなかった。ずっと、なんでオレにはガウェインの様な才能が無いんだろうと悩んでいた。欲しかった。彼らの才能が。疎ましかった。

毎日休みなく行われる訓練を恨んだこともある。でも、それはオレだけじゃなかったんだろうなと思う。


今まで戦ってきた連中全員が、何かを欲していた。何かを欲し、その為に力を使っていた。


それが人間なのかもしれない。


持っていないから、持っている者に恋焦がれる。



この、幻影のチカラが何なのか、わからない。今後わかる日が来るのかもわからない。でも、今はこの力でパルを助け出す。アンブローズを見つけ出す!!

必ず…!!


城の前に立てられた慰霊碑の前にレシアとエンジュが立っていた。

オレを待っていたようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る