第6話【守ると護る】
次の日、私は朝早く目覚めた。
時刻はぴったり午前六時。起きている人が少ない静かな街が、朝日に照らされ美しい。
顔を洗い、朝食を取る。そして身だしなみを整え、教会に向った。これが私の一日の始まりだ。
首都シャミスにある「聖アルフェイス教会」には、生誕神アルティーユが祀られている。この国最大の教会であるここは、この国を邪気から阻むという重要な役割を担っており、私は毎朝、そこで祈りを捧げている。それが聖女としての務めの一つであり、この教会の力を保つ方法なのだ。
重厚な扉を押し、中へ入る。誰も居ない朝の教会に、私の足音だけが静かに響いた。美しく飾られた祭壇の上に、生誕神アルティーユの像が飾ってある。生誕神の像は聖杯を掲げるようなポーズをしており、その下には
『この杯は 我が意志のまま を動かす』
と書いてある。途中の文は消えてしまっていて、読むことはできない。
研究家曰く、この空白には「世界」が入るらしい。つまり、「生誕を司る神は、世界を意のままにする」という意味になる。
私はアルティーユ像の前に両膝をつき、両手を胸の前で組んだ。
「この世に生を受けし我等は、本日も生きられることに感謝致します。生誕神よ、本日も私たちを護り、その偉大なる力で我等をお導きください。……リリー・アンジュの名においてここに宣言します」
組んでいた手を解き、ゆっくりと立ち上がる。生誕神アルティーユ像の左手にある聖杯に自分の魔力の一割を注ぎつつ、凛とした声で言う。
「『今日も、民の未来を護ります』」
✞✞✞
「リリーさん、任務行こう」
午前九時、リアムさんが私を迎えに来た。リアムさんは、私と出会った日から一日も欠かさず迎えに来てくれている。本当に、感謝してもしきれない。私は丁度読書をしていたところだったので、
「はい……!今行きます……!」
と、すぐに返事をし、装備を整え合流した。
リアムさんの横にステラさんが居た。昨日よりは表情が明るく穏やかに見えるが、まだ不安が残っているような、そんな顔つきだった。
「ステラさん……違和感は治りましたか?」
たぶん「治っていない」と言われると思うが一応訊いてみる。もしかしたら、そんな淡い期待を抱いていたのかもしれない。が、ステラさんは困ったように首を傾け、苦笑まじりに答えた。
「うん……まだだめかな」
「ですよね……」
そんなにすぐ治ったら苦労しない。自分の中の自分がツッコんだ。
心配だが、私にはどうすることも出来ない。「調和」が本当に原因なのかもわからないし、何より初めての経験だったから、なおさら無力だった。
ふとリアムさんの方を見ると、リアムさんは
「もう少しだよ」
と、淡々と言った。その一言で、不安は少し無くなった。リアムさんは、いつもそうだ。私たちの精神的支柱になってくれる。でも、もう少しとは一体……?
(私もこういうふうに、守れる存在になりたいな……)
(守れる存在?……違うでしょ、本当は……)
(そうだね。この気持ちは、あんまり良くないね……)
(…………)
私は私の心にそっと鍵をかけ、二人の背中を追った。
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