最弱聖女の存在意義〜僕らは彼女を救いたい〜

宮瀬優希

序章

プロローグ【聖女】

 今、一つの国が失われようとしていた――。


✞✞✞


 聖女とは、何だろうか?


 リアムは戦場でそう考える。


 優しさとは、何だろうか?


 平和な日々が脳裏を過ぎる。


 そんな疑問に意味は無いというように、リアムはふるふると頭を振った。戦場の景色が後方へ流れ、彼女の姿がリアムに近づく。

 

 この世界の頂点トップたる神、五大神。最強の神々が光の国シャミスに襲来し、シャミスは存続の危機に立たされた。

 この国を守るために立ち上がった冒険者、その中の最強トップがリアムだった。リアムはいつでも守るために必死で、誰一人失いたくないと思って戦った。


 戦は終盤。残るは標的はあと一人。しかし、その対価にリアムたちは多くの仲間を失った。国民も王族も、冒険者も。彼らは未曾有の危機に直面し、自らの愚かさと弱さを呪った。


 リアムは真っ直ぐに駆けていく。


(俺はこの国で最強というだけで、何も守れやしなかった)


美しい金髪が風に揺れる。


(守れたものは確かにあった。でも、それが全員じゃないなら意味が無い)


リアムはひたすらに駆けていく。


『リアムさんは、一人じゃありません。絶対に勝ちましょう……!』


 彼女の言葉が蘇る。


 自分を犠牲にして戦う彼女は、守るために壊れてしまいそうな、そんな、誰よりも優しい聖女だった。その蒼き双眸はいつだって、ほんの少しの憂いを帯びていた。


 最弱聖女、リリー・アンジュ。歴代最弱、最年少の聖女は、その想いを力に戦場を走った。異様に大人びた最弱聖女は、子供らしさを失っていた。


 リアムはこの戦いの最中、切に願った。


 (他人に優しい聖女はいらない。自分にも優しい聖女になってよ)


  昨日までの平和な日々が、再度リアムの脳裏を過ぎる。

 

 (この国で最強というだけの俺だけど、君を救ってあげられるかな)


 リアムの翡翠色の双眸に、決意が浮かぶ。

 

 (違う、俺が絶対に救う)


 ドウドウと強い風が吹き抜ける戦場を、リアムはひたすらに駆けていく。

 荒れ狂う戦場を駆けて、駆けて、駆けて。やっと彼女の元に辿り着く。


 (そんな顔をしないでよ)


 リアムは悲しげにリリーの顔を見た。

 

 彼女は今にも泣き出しそうな顔で、呆然とこちらを見つめていた。

 リアムは彼女を守るように立ち塞がった。強い風が、ゴウ、と吹き抜ける。


「……俺には君のような優しさも、気高さも無い」


 リアムは静かに、しかしハッキリとした意思の元に言葉を紡いだ。


「……俺は君みたいに強くない」


 自分の弱さを認め、敵を見据えた。


 (どこまでも優しいリリーさんに、戦いはきっと向いていない。まだ十四歳の少女には、とても耐えられるものじゃない)


 リアムは言う。

 

 「でも、強くない俺だからこそ、君にしてあげられることがある」


 『泣いていいんだよ』『逃げていいんだよ』

 

 (そうやって寄り添ってあげられなかったから)


 矢をつがえる。


 (俺の力の全てを注いで、この戦いを終わらせよう。そして君に教えてあげるんだ)


 破壊神の魔砲がリアムに迫る。


 リアムは叫んだ。


「教えてあげるよ、君は――……

        聖女じゃなくて、ただの人間だってことをっ!!」


 (たとえ世界がどうなっても構わない。必ず君を、救ってみせるよ)


 魔力が煌めく。


 (だからどうか……、あの日のことを思い出して)


 技と技がぶつかる


 (信じてほしい)

 

 後に聖愛大戦と呼ばれるこの戦いは、神と人間との戦いだ。


ーーーーーーーー


お手に取って頂きありがとうございます!


第一章では最弱聖女リリー、最強冒険者リアム、その妻であるステラの三人が

努力で神に抗いバトルを繰り広げます。


ハマる小説。戦いは第7話から。

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