第1話【始まり】

 聖愛大戦は、リリーにとって初めての戦いだった。


✞✞✞


 『リリー・アンジュ』

 

 聖女になるべくして与えられたような名前だなと、今でも思う。


 この名を与えられた時から、運命は決まっていたのだろうか。名は体を表すというけれど、本当にそうなのだろうか……?


 私はその疑問を胸に抱き、歴代最弱聖女となった。


『私は聖女に相応しくない』

 

 そうとしか思えなかった。


 歴代最弱なのはもちろんのこと、裏切られ、裏切られ、私は人を信じられなくなってしまったのだから。出会う人は大勢いるけれど、誰を信じて良いのかわからなかった。


 圧倒的な力で皆を救うことができない、そして人を信じることが極端に苦手。


 そんな、聖女失格の私だけど、私のこの名は運命を背負っていた……。


「リリーさん、俺たちのとこ、来る?」


 たった一言だった。


「一緒に冒険しようよ」


 社交辞令じゃ無かった。


 (私はあなたを信じられないのに、あなたは私を……)


 リアムさんがパーティに誘い入れてくれた。断る理由は何も無かった。


 ……だから一言、試すように言った。


「良いんですか……?」


 幼い頃から周りと違っていた。体は弱く、心は異様に大人びていた。自分は周りと違うから、もっと特別になってしまいたかった。


 そして私が聖女になったのは、ほんの偶然だった。


 偶然だと、そう思っていた。


✞✞✞


 そんな私は今、聖愛大戦の戦場に居た。


「私はこの国を守るため、絶対に負ける訳にはいきません」


 再び立ち上がり、敵を見据える。


「私は何度だって立ち向かいます」


 チャリ、と胸元の十字架が音を立てる。


「教えてあげますよ、私たち人間が――……

       神々あなたたちを超えられるってことを!!」


 そして、自分では無い誰かのために、自らの身を捧げていた。


 たとえこの身がどうなっても構わない。必ずこの国は救ってみせる。

 だからどうか、諦めないで。


 純粋に、真っ直ぐにそう思っていた。


 (……もしも、あの日の言葉を信じるのなら)


 私はほんの一瞬だけ、幼子のように考える。


 魔法陣を構築していく。


 光が舞う。


 リアムさんの言葉を思い出す。


 私は……


 (私は、「助けて」と言えたのかな……)


✞✞✞


 これは、偶然と必然が入り交じり紡がれる、彼女たちの存在意義レゾンデートルの物語だ。


ーーーーーーー


序章・【完】


序章をお読み下さりありがとうございます。


次から第一章「聖愛大戦編」になります。


なぜ神に滅ぼされようとしているのか?

努力でチートに勝てるのか?


勝負の行方は?


見所満載ですので、ぜひ、腰を据えてお読みください。


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