第一章 聖愛大戦編

第2話【日常】

 光の国シャミスの首都「レイクティア」。その大通りを、三人の男女が歩いていた。左から、エルフ、エルフ、人間。


 三人の男女はエルフの男を間に挟み、人族の少女とエルフの女といった構図で大通りを歩いていた。エルフの二人は恐らく二十代、人間の少女は誰が見ても十代前半。


 絶妙な年齢差の三人だった。


 三人はとても親しげに話しているが、その光景を目にした誰もが「あの三人はどんな間柄なのだろうか」と思うような三人組だった。


 別種族が共に行動するのは別に珍しくはない。が、よく見るとエルフの二人の左手には輝く指輪がある。


……結婚しているのは明白だ。


 そして、横にいる少女との年齢差や種族を考えると、あの二人の子供では無いことも明白だった。


 では、あの少女は一体……?


 今度はその少女の存在に首を捻る。そんな三人組だった。


 三日後に大戦が起こる。そんなことをまだ知らない、リアム、ステラ、リリーの姿がそこにはあった。


「今から、各地に出現した裂け目を封印しに行く」


 男のエルフ――リアム・ルーカスが言った。美しい金髪に翡翠色の瞳を持つ美青年だ。外見は二十代といったところだが、エルフのため本当の年齢はわからない。


「もう日課みたいなものだよね。裂け目封印は」


 苦笑混じりに女のエルフ――ステラ・ルーカスが同意する。こちらも美しい金髪に翡翠色の瞳を持つ美女だ。外見はリアムより幼いような気もするが、同じく二十代なのだろう。あまり年の差を感じさせない佇まいだ。


「裂け目……最近多いですよね」

 

 少しばかりの不安を浮かべ、人族の少女――リリー・アンジュが頷いた。薄い茶髪に蒼色の瞳。小柄で童顔ということもあり、二人よりとても幼く見える。が、彼女は二人と同等の大人っぽさも持ち合わせていた。


 大戦の予兆すら知らない三人が共に行動すること、それはとても自然で尊い

光景だった。


✞✞✞


 時刻は午後三時。私たちは急を要する任務ということで、普段は各々自由に過ごしている時間に、首都レイクティアに集まっていた。


 ここにいる全員はギルドに所属する冒険者で、冒険者協会ギルドから出される任務をこなしたり、自分たちで任務をこなしたりして生計を立てている。


 リアムさん、ステラさん、そして私。私たちはこのメンバーで冒険者パーティを組んでいる。


 私は冒険者という職業に加えて、聖女という役職に就いている。だからという訳では無いが、「歴代最弱聖女」、そう呼ばれる私をパーティに置いてくれるリアムさんたちには、少しだけ負い目を感じていた。


「裂け目は四つ。近いところから回っていこう」


 リアムさんはそう言い転移ワープした。魔力の粒子がリアムさんを包み、転移拠点ワープポイントに送っていく。それに続き、私とステラさんも転移ワープする。


 任務が多いということはこの国の治安が悪いということ。今回の裂け目封印も、本来は無い任務だった。


 少しだけ、胸騒ぎがした。


 魔力の粒子が私を包んでいった……。


✞✞✞


「……リリーさん、最近忙しいけど、勉強してる?」


 裂け目まで移動する道中、ふいにリアムさんがそう訊いてきた。


 勉強。リアムさんが指している勉強とは、冒険者としての知識の会得のこと。


 冒険者として最も重要となる「知識」、それを学ぶことは自己を強くすることにも繋がるのだ。


「はい……!『努力は報われる』ですから!」


 私は微笑みつつそう答えた。


 『努力は報われる』


 それがこの世界の絶対ルール。私たちはこのルールに基づき、世界から努力に応じて相応の対価を得ると言われている。


 勉強すれば知識が、運動すれば体力がというように、この世界でこのルールが適用されなかったことは無い。


 正に絶対ルールだ。


 しかし、その「対価」が何なのかは今日まで解明されていない。そして、それを研究する者も居なかった。


 理由は単純だった。


 このルールは幼い頃からの常識で、誰もが知っている自然界の法則のようなもの。「対価」が得られるのならばその正体は何でも良いと、知ろうとする人がほとんど居なくなってしまったのだ。


 私は努力して聖女になった。それもあって、日々の勉強は、一日も欠かさず出来ている。


 勉強を続けていけば、このルールの正体にも辿り着ける日が来るのかな……。


「うん、偉い」


 意識が現実に向いた。


 リアムさんがほんのりと笑い、私を褒めた。何気ない褒め言葉。それが私にはとても嬉しかった。まだ慣れないような、くすぐったさを覚える。


 前方に裂け目が見えてきた。


 今日も二人の背中を追い、三人で任務をこなしていく。これが、私の日常。


✞✞✞


 最弱聖女、リリー・アンジュ

 最強の冒険者、リアム・ルーカス

 流星射手、ステラ・ルーカス


 三人が数奇な運命に導かれるまで、あと三日。


 ……この国は変わる。


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お読み下さりありがとうございます!

どうか、あと数話だけお読みください面白くなります。


さっさとバトルが見たいよという方は、第七話からです。

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