第3話【独自性】
裂け目から多くの魔物が出現する。
出現したのは、魔界から来たものなのかそれとも別次元から来たものなのかもわからない魔獣、魔虫、死霊たちだ。その種類は多岐に渡り、現れたのはざっと二十体。
私は過酷な任務だと思って身構えて封印にあたる。
「『
しかし。
「あ。そういえばリアムさん、今度装備のランクアップ行くんだっけ?」
「うん」
「えー、もう素材揃ったんだー。いいなぁ……」
「ステラは、何が足りないんだっけ」
「えっとねー……」
……このように、いつも身構えるのは私だけ。リアムさんとステラさんは、手慣れた様子で雑談しながら倒していく。技は全て無詠唱。倒すというより掃除しているという方が正しいようなスピードであっという間に魔物がいなくっていく。
こうして、いつも僅か一分で裂け目は封印される。
一人で封印していたときは倒すのに一苦労していたのに、二人がいると全く苦ではない。それどころか、何もせずに終わってしまうときもあるくらいだ。射手という職業が攻撃と機動力に長けているのもあるとは思うけれど、それを抜きにしてもニ人は強い。
圧倒的な強者が自分と一緒にいる。
出会った時よりかはマシになったけれど、その事実だけで私は少し気後れしてしまうのだった。
「じゃあ、次の裂け目に行くよ」
リアムさんが私たちに声をかけ
視界が光に包まれていった。
その後もいくつかの裂け目を封印して今日の任務は終了。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした……!」
任務が終わったため、軽く言葉を交わして自由時間になる。それがいつもの解散方法なのだが、今日はステラさんが何も言葉を発さない。気になってステラさんの方を見ると、ステラさんはぼんやりと何もないところを見つめていた。
目が、少し不安げに揺れているような気がした。
「ステラ……?」
「ステラさん……?」
「……ん? あっ、お疲れ様でした!」
私たちが声をかけると、ハッとしたようにご挨拶。
……何かがおかしい。
私もリアムさんも、その一言でそう感じ取っていた。
「ステラ、なにか気になることがあるの?」
リアムさんが淡々と訊いた。ステラさんはその言葉に少し躊躇うように視線を下げた。が、すぐに上目遣いでリアムさんを見て、
「……最近、力が使いづらいなって思って」
と、小さな声で言った。
リアムさんはいつも通りの無表情でステラさんの言葉を聞いていたが、
「……力が、使いづらい?」
視線を険しくして聞き返した。
……どういうことだろう。
私にもわからなかった。今日のステラさんを見る限り、威力が弱まっているようには見えなかった。平常運転といった感じで、起動も問題は無かったはずだ。
技を使うまでの過程に問題があるのだろうか。
ステラさんは俯き更に続けた。
「魔力で矢を作るときに、違和感を感じるっていうか……その……」
最後の方は、自分でも分からないという風に両手を見つめ、ただ不安そうな顔をしていた。
違和感……。
ステラさんのその言葉から一つ、思い当たることがあった。
この世界には、
例えば、
ステラさんの
「調和が、とれていないということですか…?」
私が思い当たるのはそれしかなかった。
「そうかもしれない」
ステラさんは、不安げに肯定した。
沈黙。
拭えぬ不安が、私たちの間に流れた。
「調和がとれていない」、それが一体どれくらいの規模なのかは誰にもわからない。それが一番私たちを不安にさせる要素だった。
私はゆっくりとリアムさんを見る。ステラさんも、同じくリアムさんを見た。数瞬の沈黙の後、リアムさんは
「大丈夫。俺が守るから」
ステラさんをしっかりと見つめ、はっきりと言った。美しい強さを秘めた瞳が、ほんの少しだけ揺れた……気がした。
流れていた空気を入れ替えるように、
「じゃあ、解散だね!」
と、異様に明るくステラさんが言った。不安を払拭しようとしているその様子がとても辛そうで、私たちを気遣っているように感じた。
「何かあったら言ってくださいね……?」
「……うん、ありがとう」
私は二人と別れて家に向かう。その直前、リアムさんは
「調和か……」
と呟いた。
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