第4話【勤勉さん】


「ええと、『装備には特殊効果をつけることが出来る。それぞれ金、銀、銅色特殊効果と言い、金色が最も強い。しかし、己との相性などでこの定説は崩れることもある。したがって、己の目で判断し選択する必要がある』か……」


 私は今、シャミス最大の図書館である国立シャミス図書館に来ている。二人と別れ自由時間になったので、勉強に来たのだ。

 周りには多くの書架が並んでいる。戦闘基礎、職業別スキル図鑑、ポーションの調合……。ここにある書架は、冒険者向けのものが圧倒的に多い。もちろん長編物語や童話などの本もあるが、割合としては少ない。

 毎日ここに通っている私だが、まだ一割も読めていないと思う。それくらい大規模な図書館なのだ。


「よし、今日はこれを借りていこうかな……!」


 そう言って私は席を立つ。そして、カウンターのお姉さんに本と貸し出し表を提出した。カウンターのお姉さんは読んでいた本から顔を上げ、私を見た。


「あら、リリーちゃん。……今日はこの本を借りていくのね」

にこりと笑い、お姉さんが本を机に置いた。慣れた手つきで手続きを始める。


「あはは、いつもすみません……」

「構わないわ。リリーちゃんは勤勉だもの」


 紫色の瞳が優しく私を見つめる。毎日一冊本を借りる、これが私の昔からの日課だ。受付のお姉さんとは顔見知りになってしまうほど昔から──。ふいに、受付のお姉さんが私を見た。先程とは違う視線が私に注がれる。私はお姉さんを見つめ返した。


「じゃあ、良いこと教えてあげる……♡」

「……良いこと……ですか?」


妖しい雰囲気を感じ、ゆっくりと聞き返す。お姉さんは更に続けた。


「ええ、この本の裏表紙……魔法陣があるでしょう?ここに魔力を注ぐとね……?」


「魔力を注ぐと……!?」


ドキドキしながら続きを待つ。お姉さんは、とてつもない秘密を知っているかの如く自信たっぷりにこちらを見て…………


「すごいことが起きるらしいわよ!!!」


更に謎を増やしていった。と、同時にずっこけた。


(((……何もわからない!!)))


「んなっ、えっ、ふぁっ!!?」

語彙力喪失。どうやらお姉さんは、精神異常魔法の使い手のようだ。

「だーかーら、すごいことが起きるらしいわよっ!」

「えっ、あっ、うん!なるほど!!」


……よくわからないが納得した。こういうのはノリと勢いなのだ。


 カウンターのお姉さんは不意打ちでこういうことを言うものだから、ずるい。本当に、ずるい。(毎度ずっこけてるなんて言えない)

「また来てね〜♪」

でも、私はそんなお姉さんが大好きだ。……安心するから。お姉さんの名前すら知らないのに、私は今日もそんなことを思っていた。

 

 家に帰り、借りた本を取り出した。時刻は午後五時過ぎ。茜色だった空が濃紺に染まり幻想的なグラデーションを作り出す……そんな時間だ。

 裏表紙に魔力を込めてみようと、机の上に本を置いた。裏表紙に描かれている魔法陣は今まで一度も見たことないもので、一体何が起こるのだろうという期待と恐怖が入り混じった。自然と心臓の鼓動が速くなる。


「えいっ……!」


 意を決して、魔力を込めた。途端、本からぶわっと魔力が立ち昇った。私が注いだ魔力の数十倍だろうか。巨大な柱を形成するほど大量の魔力が、目の前の本を中心に立ち昇った。やがて立ち昇っていた魔力は集約されていき、裏表紙の魔法陣を起動させた。

「うわっ……!?」

と同時に、本が……否、魔法陣が輝いた。眩い、美しい光が、


『自由だ』


そういうように揺らめき溢れ出した。その光は数秒足らずで収まり、代わりに私の目の前に画面が表示された。


『任意の能力を選んでください』


 その下には「統率」「高速冷却」「状態反射」「代償」の四つとその説明が書いてあった。

 お姉さんが言った「すごいこと」それは、この四つの能力のことを表しているのではない。彼女はまだ幼く、自分の才能も限界も、見たことがなかった──。


『我ヲ使役セヨ』





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る