第13話【国を守ろう/リリーside,ステラside】
【リリーside】
「『全体召喚・
ここはシャミスの端にあるエンディ村。広大な農耕地と住宅街が広がる、避難にはうってつけの村だ。
村の中心の住宅地に、国民を召喚。そしてその村をぐるりと囲むように、私の結界が張り巡らされている。
私の結界はリアムさんやステラさんのように強いわけでは無いけれど、ある程度の攻撃なら遮断する事ができる。この戦いでの私の最初の任務は、国民の避難、及び説得。
一方的な神の戦は、もう始まってしまった。私は聖女として、やれることをやるしか無い。
次々と国民が召喚されていく。
「せ、聖女様!! これは一体……!?」
召喚された国民の一人が私に駆け寄ってきた。かろうじで平常心を保っているが、その目は恐怖に染まっている。彼は一刻も早く事情が知りたいという風に
私に詰め寄った。
私は努めて冷静に、
「……戦いが始まりました。私たちは、神の審判にかけられています」
と、皆に聞こえるように答えた。
バッと、国民が私の方を注視した。
彼の目が更に濃い恐怖に染まっていく。
「そ、そんな!? 神はなぜ我々を……!?」
「……わかりません。ですが、ここにいるのが最も安全です。私は……シャミスを守るため神と戦いますが、皆さんはここにいて下さい」
彼は信じられないというように目を見開き、呆然としていた。どよどよと国民にざわめきが広がり、私を見る目が更に増える。
皆、聖女が神と敵対するという異例の事態に驚いているようだった。私はそんな国民の視線を浴びながら、ゆっくりと、丁寧に言葉を紡いだ。
「……わかっています。神に反逆することなど、本来あってはならないことです。こんなことをして、私は聖女失格です。……しかし……」
ぐっと強く手を握り、更に言葉を紡ごうとした、そのときだった。
「が、がんばって!!」
「!」
声が。まっすぐな声が聞こえた。
「わたし、せいじょ様のことおうえんする! がんばって!」
その声は、暗闇を照らす明かりのように響き渡った。
声の主は小さな少女。まだ事情もわからないであろう小さな少女が、勇気を振り絞って、親の制止すら振り切って叫んでいた。
幼き少女の無垢で純粋な眼差しが、私に、そして国民に注がれた。
まだ年端も行かぬ小さな少女が、勇気を振り絞り必死に叫ぶ。それは純粋で無垢なだけに、皆の意識を変える大きな起爆剤だった。
シンと辺りが静まり返った。やがて国民の一人が、意を決したように言葉を発した。
「お、おう……。俺たちゃ何も出来ねぇが、神がこんなことするはずねぇよな!!」
それに続いて、また一人。
「……そ、そうだよな! そんな紛い物、ぶっとばしてくれよ! なぁ皆!!」
そして一人、また一人……。
「ええ、そうね! 何かあれば、言ってちょうだい! 何でもするわ!」
「傷の手当は任せてね!」
「皆さん……」
徐々に応援や声援を送る人々が増えていく。一分もしないうちに、私の周りには温かい言葉が溢れていた。
本当は皆、怖くて仕方が無いだろう。が、それでもこうして気丈に応援してくれるのはきっと、「神は絶対」という常識の元に生きてきた国民のちょっとした変化なのだろう。
私はその国民の思いに応えなければならない。
「っ……はい……! 必ず、勝ちます……!」
私は人々に笑ってそう言い、再び戦場付近に
【ステラside】
「『伝達』〜冒険者に伝達します。力を貸して! この国を守るために!〜」
伝達魔法に乗って、私の言葉があちこちの冒険者のもとに飛んでいく。
私は今、戦場から少し離れたギルドで冒険者を集めていた。私の最初の任務は、この国の冒険者を集め、戦うように説得することだ。
私が言葉を送ってから一分も経たないうちに、隣の国や異世界に居たたくさんの冒険者が私のもとに
「ステラさん、どうしたの!?」
真っ先に来たのは、シャミス戦力ランキング第二位の冒険者、ローザ。彼女は燃えるようなマゼンタの髪をフワフワと揺らしこちらに駆け寄ってきた。
異世界にでも行っていたのだろうか。右手に異世界の薬草を持っている。
「まぁ、色々と……。全員揃ったら説明します」
私は苦笑混じりにそう答え、視線を再びギルド内に向けた。
数分でほとんどの冒険者が一箇所に集まり、何事かといった様子でこちらを見ている。ざわざわとする皆に向けて、奥まで聞こえるようにはっきりと言う。
「聞いてください、神々が攻めてきました! 五大神です。今、リアムさんが戦っています。……この国は、この戦いに負ければ滅びますっ! お願い、力を貸して! この国を守るために!!」
シンと静まりかえるギルド内。
出来るだけ端的に、的確に危機を伝えたつもりだった。後は、どれくらいの人が力を貸してくれるか。それだけだ。
シンと静まり返ったギルド内から、ポツリと一人の声が零れる。
「……この国が、滅ぶ? そ、そんなわけないだろ。……それに、リアムさんが戦ってるんだったら、俺たちが出る幕なんて……」
「そうだよな……第一、神に勝てるわけ……」
やはり力を貸してくれない、か……。予想通りの反応に心の中で苦笑する。だが、どうにかしなければならない。
リアムさんは無事だろうか。どうすれば皆の意識を変えられるだろうか。だんだんと焦燥感が募っていくのがわかった。
どうする、どうする、どうすれば良い?この状況を打開するには——
「あなたたち、それでも冒険者なの!!?」
「!」
唐突に鋭い叱咤が飛んだ。ローザだ。ローザが冒険者に喝を入れたのだ。
ローザは皆をキッと睨みつけ、更に早口でまくし立てた。
「冒険者は、この国を守るのが仕事でしょ! いっつもと何も変わらないわ!! なのにうじうじウジウジと……! あなたたち、それで良いの!? そんなんだから神に舐められんのよ!」
「ローザさん……」
「あなたたち、良い!? 今決めなさい? ここで戦うか、今、冒険者辞めるか! どっちなの!!」
鶴の一声とは、こういうことを言うのだなと思った瞬間だった。さっきまでの臆病な冒険者たちは一体どこへやら。ローザの声に、一人、また一人と覚悟を決めていく。
先程とは違う静けさの中に、一人前の戦士の顔をした冒険者たちがいた。
「っ……こ、こんなこと言われてやらねぇ訳にはいかないよな……!」
自らを激励するような一言。
「ああ……。俺、この戦いで生き残れたら、絶対あいつに告は…」
仲間を安心させる一言。
「ちょ、待てよ! フラグ立てんなって!!」
不安を払拭させる一言。
ピリリとした緊張感が漂っていたギルド内に、わははははと温かい笑い声が響いた。
冒険者とはいえ、怖いものは怖い。逃げ出したくなるし、可能ならば関わりたくないだろう。が、冒険者とは皆を守る仕事だというローザの言葉に、彼らは動かされたのだ。
……この雰囲気なら、きっと大丈夫だろう。さっとローザさんにお礼を言いに行く。
「ローザさん、ありがとうございます!」
「良いのよ。気にしないで。それより、貴女はここの司令塔になるんだから、指示を出さないといけないんじゃなくって?」
ローザは穏やかに受け答えをし、にこりと笑った。
「そうですね。皆! このギルドから出て少し行くと戦場になるよ! 良い?」
一呼吸置いて、この戦いでの目標を告げる。
「絶対に、この国を守るよ!」
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