第14話【戦いは始まった/リアムside】

 再び、五つの火球が俺に迫る。


「『五連・氷矢アイスアロー』」


 素早く矢を構築し、相殺。間発入れず、次の矢を創り始める。

 相殺した流れ弾が当たらないか心配になるが、幸い周りにはもう誰もいない。リリーさんが避難させ終えたのだろう。先程までは多くの人々がいた街は静まり返り、俺たち以外に人の気配は無い。


 リリーさんたちに指示を飛ばしてから約三十分。最初は流れ弾が当たらないように結界を張って戦っていたのだが、もう必要ないだろう。

 結界を解除し、破壊神を見た。


 誰もいないとわかっていれば、心置きなく戦える。


「『疾風弓矢ゲイルアロー』……五大神と言っていたが、あとの四人はどこに居るんだ?」


 技を放ちつつ、ディアルに探りを入れる。人が居るときに感情的になって、俺以外に技を放たれると困るので、ずっと黙っていたのだ。

 ディアルは冷ややかに俺を見据え、淡々と応答、応戦する。


「『闇魔砲ディアングル』……お前にそんなことを聞く余裕があるとは思わん。俺一人で充分だ」

「……そうか。じゃあ、お前をさっさと倒して、他の神のところに行かないとな。『神聖弓矢ホーリーアロー』」


 お互いの技を相殺し合う。崩れた矢と魔砲によって民家や商店が破壊され、ガラガラと音を立てながら街が崩れていく。

 俺たちは一歩も動かず、淡々と技を撃ち合っているだけだ。無意味に思えるこの戦い。戦況は……拮抗している。


「『五連・漆黒燃焼ダークフレア』……舐められたものだ。たった一人で、何が出来るというんだ? 矮小な人間よ」


 破壊神が、俺の言ったことが気に障ったのか先程よりも強い技を放ってくる。


 言動に揺さぶられる程度の心はある、か……。これなら行ける。そう確信して飛びのき、技を避けた。


「気に障ったのか。……神はもっと、寛容だと思っていた。『氷矢アイスアロー』」

「『万物燃焼オールフレア』それは貴様らが勝手に決めつけただけだ。神は救済する存在では無い。正す存在だ」


 ディアルは自分の存在意義を当たり前のように話した。……神だから当然といえば当然だがな。

 正す存在という言葉が少し引っかかったが、休む間も与えぬといったふうに、広範囲の技が俺に迫る。


「正す……。この国を滅ぼすことが、正すことだと?」


 右に走ってギリギリで避ける。俺の問いかけに対し、ディアルはニヤリと笑い続ける。


「ああそうだ。この国が滅べば、この世界も滅ぼせる。愚かな人間……いや、人間の歴史を止めることが出来るのだ。『流星炎焼メテオフレア』……それより、なぜ低威力の技を使ったり、避けたりしている? 先程までとはまるで違う戦い方だな。……魔力切れといったところか?」


 自分の理念を饒舌に話したディアルは、勝負ありといったふうに笑って俺に問いかける。相変わらず、ディアルは城の上から一歩も動かない。


 対して俺は、走ったり跳んだりして、最初の位置よりかなり移動していた。

 俺の魔力は残り二割。体力的に問題はないが、それと同時に勝てる見込みもなかった。万全な状態だったらまだ余裕はあったが、先程の断罪審判闇魔砲ジャッジメント・ディアングルにかなりの魔力を持っていかれてしまったのだ。


 俺はディアルの猛攻を躱しながら答える。


「……低威力でも、お前の技は相殺できる。俺の魔力は残り二割だ。無駄な消費は避けたい。……ただ、それだけだ」


俺の回答を聞いて、ディアルは表情を少しだけ驚きに染めた。そして、愉快だと言わんばかりに笑い出した。その間も、攻撃は止まない。


「ふ、ふははははははは!! ……そうかそうか、強き冒険者リアムよ、お前はなかなかの大物だなぁ! ……もう限界が近いではないか。それを敵に、しかも破壊神に向かって言うとは相当な精神力だ。その潔さ、そして諦めの悪さ……評価に値する!」


 こんなこと、今まで無かった。そう言うようにディアルは笑った。さんざん笑って楽しんだ後に、破壊神は「ひらめいた」というように嗜虐的な笑みを俺に向け、最大の褒美を俺に贈った。


「強き冒険者リアムよ。お前は実に面白い。故に、俺を楽しませた礼をしなければならないな。先程は俺一人で充分だと言ったが……。五大神全員で、お前と、愛する国を滅ぼしてやろう」


 ……神はやはりズレている。倫理観が俺たちとは違う。そう思った瞬間だった。


 「相手の全力」でのお礼など、死と隣り合わせのこの状況では最も不要な褒美だからだ。破壊を権能とする神だからかもしれないが、は最悪の褒美だというのは変わりなかった。それでも——……。


 俺は破壊神……ディアルに向けて言い放つ。


「……それは光栄だな。まさか五大神全員とは。……じゃあ俺たちは、この国ので、お前たちを倒そう」


 俺は、俺たちは——……負けるわけにはいかない。


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