第15話【戦闘・統率・戦略/リアムside,ステラside】

「ふ、ふははははははは!!ははは!!! ……あぁ……そうかそうか。それは楽しみだな。……お前ら出てこい。人間の底力、見せてもらおう」


 ディアルは先程の嗜虐的な笑みとは違い、心から楽しんでいるような笑みを俺に向けた。……かの破壊神は、悠久の時の中で一体何を見てきたのだろう。そう思わせるような、純粋な笑みだった。

 ディアルの元に、どこからか残り四人の神が現れる。創造神、生誕神、豊穣神、天候神だ。ディアルを中心に横一列に並び、皆、物珍しそうに俺を見ている。


「さぁ、お前への礼だ。しかと受け取れ」


 ディアルはそう言い、残りの神々と視線を合わせた。彼らは頷き合い、俺に向けて手をかざした。


 ……挨拶のつもりか。


 俺が構えるのとほぼ同時に、洗練された五つの魔法がこちらに向かって放たれた。雷、魔、水、光、波動……。挨拶には不相応な威力のそれは全てが別々の軌道を辿り、相殺せれずにこちらに迫ってくる。

 敵であっても感心するコントロール力だが、感心している暇はない。

 矢をつがえ、応戦する。


「ああ、感謝する。『五連・貫通矢ライズアロー』」


 全属性に通用する万能射撃を、それぞれの軌道に合わせて放っていく。放たれた矢はそれぞれの魔法を相殺し、相殺された魔法はあちこちに飛び散り霧散した。


 魔力の残量、身体的余裕、そして、戦力。俺とあいつらの間には、どう頑張っても埋めきれない力の差がある。もしこの状況のまま戦いが続いたら、俺の勝率は……


「〇・五パーセント」


 ガラガラと周囲の瓦礫が崩れていった。

 

 絶望的、か……。


 それ以外に適切な言葉が見つからず、その通りだなと辺りを見回す。

 俺の周囲にあったはずの民家は既に無くなり、代わりに瓦礫の山ができている。少し遠くに目を向ければ、まだ残っている建物が頼りなさげに建っていた。


 五大神のほうに視線を戻すと、俺の方を見て神々が何やら話しているのが見えた。


「ふむ。あいつがこの国最強の冒険者か」

「思ったより強いねー」

「しかし、どこかギリギリで戦っている感じがありますわ。手加減なのか、それとも……」

「私の分析だと、彼……リアムは魔力切れが近いのかと。どれだけ努力しようと、人は人。結局こうなるのです」

「いや、あいつなら見せてくれるぞ。俺たちが見たかったものを」


 五大神は口々に言う。

 そんなに俺は珍しいものなのか?

 そう思わずにはいられなかった。


 五大神は話し合いが終わったかのように頷き合い、また五人で横一列に並んだ。その中から、天候神が前に歩み出る。と同時に、天候神は俺の方に右手を突き出した。

 俺はその動作を見て、反射的に身構える。天候神は魔法陣を描き、そしてニヤリと不敵に笑った。


「では、まず我と手合わせ願おうか。『半減速ハーフ雷槍サンダースピア』」

「っ……!」

一際大きな爆音が響いた。


【ステラside】


「と言ってもよぉ、作戦も無しに凸るのは、やっぱ無謀じゃねぇか?」


 五大神対リアム戦の始まる少し前のギルドにて、冒険者の一人が私に言った。周りの冒険者たちも、うんうんと頷いている。さて、どうしたものか……。


 私たちはつい先程団結し、とても活力に満ちていた。今すぐにでもリアムさんに加勢したいし、きっとその方が良いだろうと誰もが思っていた。


しかし。


 彼が言うように、作戦も無しに行ったところで無謀だし、なんの意味も無くなってしまう。


「確かにそうなんだけど……」


 私はその言葉を肯定し、もごもごと口ごもる。活力に満ち溢れていたギルド内に、ゆっくりともやが蔓延していく。


 どう隊列を組むのが良いのか、具体的な指揮はどうするのか、そもそも戦力になれるのか——……。


 時間は無いが、それに対し考えなければいけないことが多すぎる。


「ステラさんどうするんすかー?」

「職業の組み合わせも考えたほうが良いと思いまーす!」

「そんな時間無いってば!」

「そもそも相手の情報全く無くない!?」


 皆も意見を出してくれてはいるが、どれも断片的で決定打に欠けてしまっている。

 時間をとれば作戦が、作戦をとれば時間が。重要な二つを天秤にかけられ、私たちは焦っていた。


 そんな焦りからか。無理だとわかっていても、私はつい考えてしまった。


 あぁ、こういうときリリーさんが居れば——……


「お、お待たせしましたー!!!」

「っリリーさん!?」


 考えていたことが現実に起きて、思わず驚きの声が出る。バンッとギルドのドアを開け、なんと、リリーさんが入ってきたのだ。

 幸運としか言いようが無かった。国民の説得などを含めるともう少し時間を要するはずだったのに、そのリリーさんがここに居る。


 私が驚いてフリーズしていると、


「すみません、なかなか来られなくて……」


 リリーさんはそう口にしつつ、申し訳無さそうに私の方に駆け寄ってきた。その言葉にフリーズから脱した私は、


「あ、ううん、大丈夫。予定より早いし」

と、少し早口に答え、次いで気になったことを質問をした。


「でも、リリーさん。この国の人たち、そんなにすぐ受け入れてくれたの……?」


 リリーさんは「あぁ」と小さく漏らして


「最初は少し戸惑っていましたが、割とすんなり受け入れてくれました! ……それで、今はどんな状況ですか?」


私の質問に微笑みつつ答え、現在の状況を質問した。私もそうだったと思い、


「冒険者の説得は終わったところ。あとは敵の作戦を考えて情報を伝えたら戦える状態。でも、それが上手く行ってないんだよね……」


と、端的に状況を説明した。

 私の話を聞いているときのリリーさんは真剣そのもので、一語一句聞き逃さまいというような視線を私に向けていた。たまにリリーさんが見せる冷静さには、本当に驚かされる。


「なるほど……」


 私の話を聞き終えたリリーさんは、少し俯き思案顔になった。


 何を考えているかなんてわからないけれど、なんとなく、ものすごい速さで頭を働かせているような、そんな気がした。


 わずか十秒後、リリーさんはパッと顔を上げて、作戦作りに励んでいた冒険者に向けて言った。


「作戦がまとまりました! 今からご説明します!」


 思考速度や情報処理能力といった「頭の良さ」は、戦力とは関係ない。しかし、そういった「頭の良さ」こそが本当の強さなのではないか、そう思わざるを得ない速さだった。


 そして、歴代最弱と言われる聖女が、リリーさんが強いと思う理由。


(それは、リリーさんの、こういうところにあるんだろうな……。)


 私は誰にも気づかれないくらい薄らと、とてもほんのりとした笑みを浮かべた。

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