第27話【戻ってきた英雄/リアムside】

「っああああああああっ!!!!」


 落雷の代わりに、空にあった全ての電気が俺の右手に流れ込んでくる。


 『鼓動雷電サンダーパルス』、それは意図的に電気が集まりやすい環境を作り出す魔法。最大出力で行使することで、落雷を防ごうと思ったのだ。


 溢れ出る膨大な量の電気を必死に抑えつける。ここで制御出来なければ、またさっきの状況に逆戻りしてしまう。

 バチバチとした痛みと痺れが伴うが、一点に集約させるイメージで、しっかりと電気を抑えつけていく。十秒ほど後。俺の右手にあった電気が静まった。


「……はぁ……はぁ……」


 軽く息を切らしつつ、制御できたことに安堵する。死傷者は、ゼロ。天候神の権能により創られた雷は、俺の右手に僅かな痺れを伴わせて、消滅した。


「っ……??」


 冒険者の皆が、恐る恐る空を見上げた。空は晴天ではなく曇っているが、雷鳴は聞こえず、誰も雷に打たれていない。


「止んだ……? おい、止んだぞ!! 何だかよくわからねぇが、天候神の魔法は起動してねぇ!!」


 その一言で、わああああっと歓喜の声があがった。ここにいるのは、常に危険と隣合わせの冒険者だ。落雷の瞬間、皆、死を悟っていたのだろう。


 ここが戦場だということも忘れ、とても嬉しそうに、人々は歓喜した。


「……っ!?」

「え、え!!?」

「そんな……」

「む!?」


 そんな中、俺を見つめる視線が四つあった。……言うまでもなく、五大神だ。


 彼らは驚愕に目を見開き、俺を見つめて呆然としていた。破壊神ディアルが、俺を見つめて言葉を発した。


「……なぜお前がいる、リアム・ルーカス! お前は確か……戦闘不能になったはずでは無いのか!!?」


 それは、五大神全員の胸中を代弁したように、ひたすら驚愕に満ちていた。


 側にいたリリーさんが、ちらりと俺を見る。俺は軽く頷き、ディアルを見つめ返した。


「……確かにそうだ。俺は、一度、お前たちに負けた」


 若干の痺れが残る右手を、五大神の方に向けてかざす。


「でも、俺には仲間がいる」


 歓喜していた冒険者たちが俺を見つけ、そして戦闘態勢に戻っていく。「戻ってきたか」そういうように再び陣形を作り、俺の周りに集まってきた。


「そして、守りたい人がたくさんいる」


 ステラが俺を見つけ、こちらに駆け寄ってくるのが視界に入った。遠くで平和を望む国民の、必死な顔を思い出す。リリーさんが寄り添うように加護をかけた。


「……だから、何度戦闘不能になっても、必ずここに戻ってくる」


 シャミスの冒険者が俺の周りに集まり、共通の敵を見つめた。


 (迷惑かけるよ)


 口には出していないけれど、リリーさんは、それが聞こえたかのように柔らかく笑った。


(一緒に戦って)


 ずっと言えないままだったけど、彼らにそれは届いただろうか。


「その先にお前たちの勝利は……絶対に、無い」


 たぶん、届いたのだろう。その証拠に、俺の周りにはこんなにたくさんの仲間がいる。


 寄り添うように側に立ったステラが、俺の言葉に応えるように「当たり前だよ」と呟いた。


「覚えておけ。俺たちがずっと見据えているのは、今後も繁栄していくシャミスの、平和の未来だ!」

「ゔっ!!?」


 俺は無詠唱で、先程の電気を変換した矢『神雷射撃ガルダーショット』を放った。標準は、俺に一回目の負けを与えた神、デディケイト。


「感謝するよ、デディケイト。俺には仲間がいると教えてくれて」


✞✞✞


 英雄は戦場に戻ってきた。また、長い戦いが始まる──……




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