第26話【変換恩恵《ベネフィーション》】

 リアムさんは、何を根拠に「大丈夫」と言ったのだろう。私にそんな強い心は無い。しかし、私はリアムさんのその言葉に、リアムさんの「想い」を見つけた。


 覚悟は決まった。


「……わかりました。やります……!」


 リアムさんの目を見つめ、はっきりと言う。


 リアムさんにはどう映ったのだろう。リアムさんは、少し驚いたように目を見開き、「頑張って」とだけ言って、向こう側に戻って行った。


 さて、私は魔法を創る作業に戻らなければならない。


 ……今なら良い魔法が創れる。私は何となくそう感じていた。


 魔法を起動するための言葉選びセレクトの工程を終え、魔法を創るための詠唱、創造詠唱ファースト・チャントの工程に移る。


 二つの魔法陣が浮かび上がる。二つの魔法陣の色は、黄色と青。この二つは、物質変換魔法に見られる顕著な特徴……制約と、変換を象徴する魔法陣だ。


「……『我は恵みをもたらす救済者メシア。我の心が折れるまで、この供給は止まらない。』」


 魔法陣を十字に交差させ、青色の魔法陣に制約を描いていく。


「『失われし魔力は癒えずとも、心が折れぬまでは滅ぼせぬ。恵みを与える救済の魔法に、永遠の名を与えよう。』」


 黄色と青。制約と変換が、一つの魔法として形を成す。


「『変換恩恵ベネフィーション』」


 魔法陣が、ゆっくりと起動を始めた。


 交差した制約と変換は回転を始め、やがて、一つの魔法陣となった。一つになりミントグリーンとなった魔法陣は、魔力の粒子を撒き散らしながら速度を上げていき、徐々に一つの球体のようになっていく。


 白い光が止めどなく溢れてきた。その光は瞬時に変換され、様々な形を形成していく。


「成功だ……!」


 変換恩恵ベネフィーション


 たった今創られたそれは、魔力変換率九十五パーセントという高変換率で成功した。食料や水が、魔法陣の横に置いてある木箱の中に現れる。魔法陣に再び触れることで、再供給される仕組みだ。


 これで、休憩所はとりあえず安泰ということになる。


 それに思い至ったときに、わたしは胸の前で拳を握った。


 私の心が折れなければ、この供給は止まらない。

 

 私は、絶対に供給を止めない……!


「お、おい、水と食料が出てきたぞ!!?」

「本当だ、いつの間に!!?」


 向こう側で作業をしていた人々がわらわらと集まり、わっと驚きの声をあげた。その声を聞きつけ、室内で作業をしていた人々もやってくる。


 あっという間に、魔法陣を中心に人だかりが出来た。


「リリーさん、成功したんだね」


 リアムさんが私に話しかけてくる。


「はい……! リアムさんのお陰です。ありがとうございました……!」


 私はちょこんと頭を下げてお礼を言う。リアムさんは、


「違うよ。リリーさんの才能だ」


 とだけ言い、人だかりの方を振り向いた。


「皆、協力ありがとう。直に、皆が休憩しに来ると思う。戦いがいつまで続くかわからないから、全員、しっかり休ませてあげて」


 リアムさんは避難している国民に向けてそう言い、魔法陣を描いた。


「……じゃあ、俺とリリーさんはこれで」


 私たちは戦場に最も近い転移拠点ワープポイント転移ワープした。


✞✞✞


 最寄りの転移拠点ワープポイントに到着。転移を阻害する結界も無く、問題なく転移ワープすることができた。ここから戦場までは、歩いても数分。急いで走って戦場に向かう。


 もう少しで到着するというとき、急に天候が荒れ始めた。青空が広がっていたシャミス上空は、あっという間に暗雲に包まれ、ついに雷鳴まで聞こえるようになった。


「リリーさん、これって……」


 リアムさんは異変を察知したようだ。走りながら空を見上げ、後ろに居る私に問いかける。


「はい、天候神ガルドの権能……「操空」です」


 私は頷きつつ、リアムさんの問いかけを肯定する。この荒れ具合だと、もうじき雷が落ちてくるだろう。戦場はもう近い。


 よく耳を澄ますと、『帯電防御サンダーガード』という言葉が聞こえた。


帯電防御サンダーガード』は、電気が流れるのを魔力で防ぐ魔法だが、権能を用いた雷、恐らくそれでは防げない。


 ……私たちには防げない。


「『鼓動雷電サンダーパルス』!」


 バリッバリバリバリ!!!!


 一際大きな雷鳴と共に、複数箇所に雷が落ちるのが見えた。リアムさんが詠唱と共に片手を上に向けた。


「……っああああああああっ!!!!」


《開戦から約二時間》

死者:?名

重症者:?名

戦況:???


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