第28話【再燃する戦い/リアムside】

「ああああああああっ!!! 何だよこれ、痺れっ……あ、いてぇ!?」


 デディケイトが後ろに倒れ込み、ジタバタと思い切り暴れだす。


 しかし、どれだけ暴れてもがこうとも、天候神の権能を有した『神雷射撃ガルダーショット』はデディケイトを捉え離さない。


 左胸に深く突き刺さった矢。それはバチバチと紫電を散らし、デディケイトの身体を蝕んでいく。流石にまずいと思ったか、生誕神、破壊神、天候神が駆け寄り、デディケイトの治療を試みる。


 周囲を見渡すと、冒険者の皆は五大神の様子を伺い、臨戦態勢で五大神を見つめていた。


 ……今のうちに、休憩所に関する指示をするべきか。


 そう考え、魔法陣を構築する。


「『伝達』〜リリーさん以外のリーダーは、端の村にある休憩所に行って。そして、各部隊から五人ずつも。長期戦になるから、交代で戦う〜」


 五大神の様子に気をつけつつ、悟られないように魔法陣を飛ばす。


 魔法陣が無数に分散され、俺以外の全員の元に飛んでいった。数秒後、俺の伝言は全員に届いたようで、彼らは視線を通わせ部隊ごとの輪をつくった。


 戦力的なバランス、残りの体力、残りの魔力……。


 様々な要素が複雑に絡み合ってはいるが、休む五人はすぐに決まった。時間をかけることが命取りだと思ったのかもしれない。

 次々と、伝達魔法に同封してあった地図を元に、冒険者が転移ワープしていく。


 伝言を聞き、休む者を決め、転移ワープする。僅か数分の出来事だった。


 ……もっと時間がかかるかと心配していたが、杞憂だったようだ。


 冒険者の休憩所への移動が終わったことに安心し神々の方を振り向くと、こちらを見ていたデディケイトと視線が合った。治療はまだ受けてないようで、胸元から燃えるように赤い血が滴り落ちていた。


「……っ……リアム……覚えてろよっ……!」


 デディケイトが、言葉を発した。


 憎しみ……ではないな、でも、怒りでもない。


 デディケイトは、苦しさの中に別の感情を込めて言葉を発していた。


 が、俺はその感情の正体を探るより早く、言葉を発したことに驚いた。


 俺が放った『神雷射撃ガルダーショット』は、人間なら即死の危険な攻撃だ。当然、喋ることなど出来やしない。しかし、さすが神と言うべきか、デディケイトは心臓に強大な電気を受けたにも関わらず言葉を発し、必死に俺を睨みつけていたのだ。


 俺はその視線を受け流し、ふいと横に視線をずらした。


 生誕神と天候神が術式解析を行っていた。表示されている画面を見る限り、ほとんどの解析が終わっているようで、解析魔法陣の光が強さを増していた。


 もうじき『神雷射撃ガルダーショット』の効果を解除することも出来るようになるのだろう。デディケイトの能力は厄介だ。戦闘不能にするべきか――……。


「……落ち着きなさい、デディケイト。それじゃあ何もできないでしょう」


 矢を創ろうと思って構えたとき、アルティーユがため息まじりにそう言った。アルティーユは緑色の魔法陣を構築しながら、デディケイトと何か会話をしている。


 アルティーユが創っている魔法陣は、神雷射撃ガルダーショットの効果を打ち消すものと傷の治癒を行う物の二重魔法陣だった。


 ……回復させる気か。


 俺は無詠唱で矢を打ち込み、魔法陣を破壊した。パァンという音と共に、魔力の粒子が散っていく。アルティーユがゆっくりとこちらを見た。


「……そうでしたね。貴方がいる限り、防御に徹することは不可能でした。……デディケイト? 自力でなんとかしてください」

「っ、わかっ……た……」


 アルティーユが一歩前に出て、デディケイトを守るように立ち塞がった。デディケイトはアルティーユの言葉にゆっくりと頷き、別次元に転移ワープする魔法陣を創り始めた。手負いということもあり、魔法陣の構築は遅遅として進まない。


 また後で戦うことになってしまうし、あいつを逃がすのは賢明では無いな。


 俺はそう判断し、転移を阻止する矢を創り始めた。しかし、それと同時にディアルとガルドが俺たちを標準とした魔法陣を創り始めた。


 デディケイトを逃したい神々と、逃したくない俺。……分が悪い。


 即座に矢を破棄し、様子を伺っていた皆の方を振り向いた。


「……来る。残りは三人、デディケイトが戻ってくるまでに倒したい。各部隊、戦闘準備!」

「「「了解!!」」」


 冒険者たちが再び戦闘態勢に入る。時刻は九時半、開戦から約二時間……。

戦いが、再燃していく。


「リアムよ、先程よりも楽しませてくれそうだな! 我等の本気、その身を以て知るがいい……。『万物炎熱破壊オールカタストロフィア』!」

「先程の権能制御は見事だったぞ! この戦、実に面白い。『殲滅雷電』!」


 再び暗雲が空を覆い、空気が熱を帯びていく。デディケイトの転移ワープが完了し、生誕神がこちらを見た。炎と雷の広範囲攻撃。俺は皆に声をかけつつ魔法陣を描いた。


「皆を守りきれる保証は無い! 絶対に生きて! 『多重属性結界アトリビューツシールド』!」


 魔法陣から、淡い水色の光が溢れ出す。それは結界となり、俺たちを守るように広がった。あの威力を防げるのは、恐らくこの結界だけだろう。紅蓮の炎と白き稲妻が迫る。


 全員を守れるのは、これが最後だ。


 ゴオオオオオオという音と共に、視界が白く染まっていった。


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