第20話【聖愛大戦:開戦】
創造神を別次元に吹き飛ばし、私たちは現在四人となった五大神と対峙した。
生誕神アルティーユが、ステラさんを見てふわりと笑う。
「絶対効果付きとはいえ、フィリアを拘束するなんてすごいことですよ。称賛に値します」
ステラさんは神々の行動を警戒したように、返答する。
「ありがとう。……あなたも倒すから覚悟しておいて」
「ええ、楽しみにしておきますね」
穏やかにステラさんの言葉を受け流し、微笑を絶やさずアルティーユが続けた。
「これまでは遊戯のつもりで応戦していましたが、あなた方は思いの外本気で守ろうとしている。これまでどおり遊戯のつもりでいると、足元をすくわれる可能性もあるでしょう。だから問います」
静謐なオーラを纏い、生誕神は問いかける。
「戦う者は、これで全員ですか?」
究極の問いかけ。ステラさんは生誕神をしっかりと見据え、答えた。
「うん、これで全員だよ」
その回答に生誕神は軽く頷き、先程よりも柔らかく笑った。
「……そうですか。では、この戦いを「聖愛大戦」と称します。先程は私たちの一方的な開戦でしたが、これは我ら両者の開戦です。私たちの「聖」とあなた方の「愛」を交えましょう。……ディアル? 合図を」
歌うように言葉を紡いだ後、生誕神はディアルの後ろに下がった。後ろに控えていた破壊神が、空に向けて右手を伸ばした。
「……ああ。この国に生きる冒険者よ、たった今戦いの火蓋は切って落とされた! 誇りにかけて、守り戦え!」
先程とは違う笑みを零し、ディアルは宣言する。
「聖愛大戦、開戦だ!!」
ディアルの右手に創られた魔法陣から、ぶわっと闇の粒子が溢れ出した。おびただしい量の闇の粒子は、大空へぐんぐん上昇しそのあと霧散した。否、結界となってこの国を囲ったのだ。
「結界……」
私は若干黒ずんだ空を見上げ、ぽつりとそう呟いた。
この結界は恐らく、他国から援軍を呼ばせないためのものだろう。解除するべきなのかもしれないが、他国に被害が及ぶことも考慮すると、迂闊な行動はとれない。
圧倒的な力を持つ神だからこそできる結界の張り方だ。
私は状況を整理しつつ、リアムさんの元に走り出した。
「各部隊、戦闘準備! 危険だと感じた場合、直ちに撤退、治療を受けてください! 何かあれば報告を! 私はリアムさんの治療にあたります!」
「「「了解!」」」
「ふはははは!!! 聖愛大戦……勝たせてもらうぞ! 『多重起動・
「「「それはこっちのセリフだ!『
私は二つの技が相殺される音を聞きつつ、リアムさんを抱え教会に
✞✞✞
無数の魔力の粒子に包まれ、無事教会に到着した。抱きかかえているリアムさんは相変わらず意識が無いようで、全く反応を示さない。
「よいしょっと……」
優しくリアムさんを床に置き、さっと外傷を確認する。
見た限り出血は無いようだが、先程の様子からすると、骨にヒビが入っている確率が高いだろう。内臓損傷は無いだろうか。
そんなことを考えつつ、魔法陣を構築していく。が、
「『
治癒魔法陣を作ってみても、何故かしっくりこなかった。
色々な種類の魔法陣を創ってみても、これじゃないという違和感が拭えない。
違和感の正体を探るため、もう一度リアムさんに必要な治療を考えることにした。
外傷はほぼないから
少しして、私は決断した。
「よし、これで行こう……!」
あまり悩んでいる時間は無い。急いで創っていた魔法陣を書き換え、新しい術式を書き込んだ。欠陥がないことを確認し、言葉を選んで詠唱を開始する。
「……『我はそなたを救いし者。そなたの精神と肉体を癒し、強き加護を与えよう。術者の愛と想いが紡ぐ魔法に、永遠の名を与えます。
肉体と精神。
今のリアムさんの場合、どちらかが欠けてしまっては目覚めることはない。だから私は、それに適応する魔法を創り出し、施すことにした。
まだ無駄の多い魔法だとは思うが、一応、魔法として成立したようだ。緑色の魔法陣からたくさんの光が溢れ出し、魔法の対象であるリアムさんを優しく包み込んでいく。
成功だ。
「良かったぁ……」
魔法を創っただけではなく、成功した。そのことにほっと胸を撫で下ろし、つい安堵の声が漏れる。私の戦力、年齢での魔法創造・行使は、八割という高確率で失敗するものだからだ。
私はリアムさんを癒していく光を見つめながら、しかし、なぜ……? という疑問の答えを探し始めた。
術者の愛や強い想いが効果を高める魔法として創ったからだろうか。それとも、既存の術式に書き加える形で創ったからだろうか。考えても要因はわからなかった。
が、リアムさんの周りを飛び交う光を見ていると、「今はその事実だけでもいいか」と思えてきた。
……後はリアムさんが起きるのを待つだけだ。その間に状況の整理をしておこう。
私がそう思い記憶を巡らせようとした、その瞬間、
「…………ん……」
目の前から小さな声が聞こえた。それはとても弱々しく、彼の遠ざかっていた意識が帰還したのを告げた。
声の主は、たった今治療を終えたばかりのリアムさんだ。
「っ……リアムさん……!」
私はリアムさんの声に反応し、ばっと前に体を傾けた。驚きと喜びが入り混じった複雑な心境で、リアムさんを覗き込む。
「…………リリー、さん……?」
リアムさんはぼんやりとした目つきで、譫言のように私の名前を呼んだ。
意識が完全に覚醒したわけでは無さそうだ。
リアムさんは、ゆっくりと続ける。
「俺……たしか……あいつに…………」
言わんとしていることはわかった。私は優しく微笑み答えを告げる。
「皆さんが守ってくださったんですよ」
リアムさんの緑色の瞳に、弱々しいが、光が灯った。意識が覚醒し始めたのだ。
リアムさんは、更に続ける。
「治療は、リリーさんが……?」
「はい」
「そっか……」
瞳の中の光が少し強くなる。揺らいでいた光が焦点を結んだように静止した。
「ありがとう」
リアムさんはたった一言そう言って、そしてゆっくり上体を起こした。不調が無いことを確認するように、腕を軽く動かし立ち上がる。
「……不調は無いですか……?」
異常な回復力だっただけに、不調があるのではと心配になる。
リアムさんはこちらを振り向き、
「うん。俺……行かなきゃ」
と、少しズレた返答をした。
「行かなきゃ」というその言葉に自責の念と義務感のようなものを感じ、いつかの自分と交錯した。
「リアムさん」
伝えなければいけない。自分でも驚くぐらい、冷静な声が出た。
「……何?」
「リアムさんは、一人じゃありません。絶対に勝ちましょう……!」
リアムさんは少し驚いたように私を見つめ、そしてフッと笑った。
「ありがとう。もう、負けないから」
「ありがとう」それは先程よりも優しく響き、教会から出ていく私たちの背中を押した。
聖と愛……私たちと神々の、
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