第32話【禁忌の力/リリーside】

 純白の光が辺りを照らした。


 どこまでも白く眩い光は、私が「代償」を使ったことで生まれた「代償の光」。それは優しく美しく、私たちの元に降り注いでいく。


 刹那、タッと軽い足音が聞こえた。彼は、私たちの方に急いで駆けてきたらしく、キュッと急ブレーキをかけて立ち止まった。


「リリーさん!」


 言うまでもない……リアムさんだ。


「リアムさん……!」


 私がリアムさんの名を呼ぶと、リアムさんは頭上にある純白の光を見つめて言った。


「これ、もしかして……」

「はい」


 その後に続く言葉はわかった。私は頷き、同様に頭上の光を見つめ答える。


「「代償の光」……私が使った力です」


 ゆっくりと降り注いでいたその光は、だんだんと、持ち主を求めるかのように彷徨さまよい始めた。


 与える力が纏まったのだ。あとは、これを使うだけ。


 私は光を見つめるリアムさんの横で、ゆっくりと両手を上に掲げた。杖をクルリと一回転。代償の光が、描いておいた無効魔法陣ゼロサークルを書き換えていく。


 ……光が、何の力を与えるのかを教えてくれる。


 ドクン、と「代償」が呼応した。


 ……代償が与えるこの力は……


「最上級治癒魔法……『聖域治癒サンクチュアリヒール』!」


 皆を治癒する力……!


 私は遠くにいる人々にも届くようにと、なるべく広範囲にその力を振るった。途端、魔法陣から溢れ出る新緑の光が、あたり一帯を包み込んでいった。


 あまりの痛みに悲鳴をあげる人、地べたで必死にもがく人……


 そんな多くの人々を、新緑の光は例外無く照らした。


「っ……! 傷が、塞がっていく!」

「どういうことだ!!? 腕が戻った!」

「これなら、また戦える……!」


 一度ひとたびそれに照らされれば、人々は驚き声をあげた。


 それは、正に奇跡の所業。


 私が使った『聖域治癒サンクチュアリヒール』は、魔法という言葉じゃ表せない、神の力と呼ばれる魔法だった。


なぜ、これが神の力と呼ばれるのか。それは、魔法総記に書いてある――。


ーーーーーーー

魔法総記:治癒属性魔法一覧


聖域治癒サンクチュアリヒール

属性:治癒 難易度:SS 消費魔力:不明 魔法陣:不明

詠唱:技名詠唱のみ有効

効能:指定範囲内の味方の一斉治癒。欠損した部位を元に戻すことが出来ると言わ

   れている。詳細は不明。

起動条件:魔法陣が正しく描かれていること。必要量の魔力があること。

     この魔法を

詳細:この魔法が使われた記録は残っていない。が、唯一逸話として語り継がれて

   いるこの魔法の使用事例をここに遺しておこう。


 遥か遠い昔……といっても五百年前のこと。魔族と人々とが争う、光魔大戦と呼ばれる戦いがあった。その戦いで、人間側がたった1度だけ使った奇跡。それが『聖域治癒サンクチュアリヒール』である。


 それを使用した人間は、まだ年端もいかぬ少女だったと言われている。彼女は戦いの最中、それほど強大な技を放ったわけでもなく、どちらかというと弱い部類に入る戦力だった。しかし、そんな彼女はふいに叫んだ。


 「聖域治癒サンクチュアリヒール」と。


 刹那、新緑の光が辺り一帯を包み込んだ。その技により人間側は完全に傷を癒し、再び戦場に駆けて行った。


 この話には続きがある。読みたいものは、この本に魔力を注ぐがよい。


 ♤♤♤♤♠♤♤♤♤♠♤♤♤♤♠♤♤♤♤♠♤♤♤♤


 注いだ者がいたか。では、続きだ。


 その奇跡のお陰もあって、光魔大戦は人間側が勝利を収めた。が、しかし。『聖域治癒サンクチュアリヒール』を使ったその少女は、技の起動から半日ほどした時、突然、前触れも無く亡くなったという。


 ……彼女の最期の言葉はこうだ。


「神の力を使ったのだから、当然のことです。『聖域治癒サンクチュアリヒール』は、人々が触れてはいけない力だった。この力は、魔法じゃない。神だけが使える神の力だったんです。……私は、あってはならない禁忌を犯した。もう、取り返しはつきません。……だから、もう二度と。もう二度と、この力を誰かに使わせないでください。『これは禁忌の技だから』と」


「それでももし、この力を再び使うものが現れたのなら――……」


「死力を尽くして、止めてください」


 ここまで読んだあなたには言おう。忠告だ。

 絶対にそれを使わせるな。それは、命で命を救う禁術なのだ。

                     ――ジェネシス・バーン

✞✞✞


 なぜ、それが神の力と呼ばれるのか。それは、確かに魔法総記に記されていた。


 が、しかし。一体、それを読んだものが、今までに何人居ただろう。


 この書物は、「分析魔法を使えば必要ない」と、図書館の一番上に追いやらてしまっていた。


 つまり……


 知るべきだった情報は置き去りに、禁術の使用者が現れてしまったということだ。


 ……愚かな。極めて愚かな過ちを、人々は犯していたことになる。


✞✞✞


 そして、人々は……否、私たちは、そのことを知らない。


 もう手遅れだ。


 『聖域治癒サンクチュアリヒール』は既に起動を終え、ここに居る冒険者を癒し終えていた。


「リリーちゃん! ありがとう!!」

「すげぇ、完全復活だぜ!」

「はい……! 良かったです……!」


 私たちは傷が癒えたことにより、無垢な子供のように笑い喜んだ。その力の恐ろしい秘密も知らずに――……


「もう一度、戦える?」


 リアムさんがそう問うと、


「おう!」

「もちろん!」


 彼らははっきりと返事をした。リアムさんは続ける。


「『多重属性結界アトリビューツシールド』は張ったままにしておくから、生誕神の『絶対防御パーフェクトシールド』を破る手伝いをして欲しい」


「了解!」

「任せろ!」


 力を合わせ、もう一度。


の、過酷な持久戦が始まっ――


「リアムさんたちいいいいいいぃぃぃ!」


「!?」


「休んでいられる状況じゃないでしょ!? 休憩組一同、戻ってきたよ!!」









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る