第33話【さようなら/リリーside】
「休んでいられる状況じゃないでしょ!? 休憩組一同、戻ってきたよ!!」
ダダダという大勢の足音と共に、ステラさんの声が響いてきた。
こちらに向かって走ってくるのは、休憩所にいた「休憩組」。遠隔で戦況を把握出来る魔法は置いておいたけれど、まさか、もう戻ってくるとは。
私は駆け寄ってくる人たちを見て、驚きと僅かな希望を感じた。そして、その感覚に合わせるように、二つの言葉が脳裏を
『短期決戦』『危機的状況』
たった二言。この破壊力。
休憩組が戻ってきたということは、この二つを指すことになる。戦力を分割しての長期戦は不可能。だから総戦力で臨む。そういうことなのだ。
「状況は!?」
「あれ……怪我人が少ない……?」
「っ! でも、あそこは……」
駆け寄ってきた休憩組の人たちは、辺りを見回し口々に言った。
戦況、負傷者、死者……。情報が彼らに流れていく。
かなり複雑な状況と言って良いだろう。有利にも見え、不利にも見え、拮抗しているようにも見える。
が、しかし。
本質を見ることの出来る彼らがそこから得られる事実はただ一つ。
「……不利、だな……」
ぽつりと誰かが言葉を零す。拮抗という名の劣勢。それが、しっかりと本質を見た者が目で見て感じる唯一の情報だった。
リアムさんが、言葉を発した。
「まず、生誕神を倒す。あの
淡々と、目標とそれへの対応策を話していく。
「俺が二人の気を引いておくから、ローザさんを軸に壊してほしい。もし厳しければ――っ!?」
作戦の説明はあともう少しだった。
にも関わらず、その後の言葉は紡がれなかった。……否、紡げなかった。リアムさんは、驚愕したように目を見開いて硬直してしまったからだ。
そして、その驚愕の原因は、私だった。私の背後に、ぽっかりと黒い空間が姿を現したのだ。
「っ!?」
「何だそりゃ!?」
「え!?」
私もそれに気づき後ろを振り返る。冒険者の皆も驚愕の表情を浮かべる。淀んだ闇のようなソレが、ズズ、と低い音を響かせた。
刹那。
「っ……、えっ、わ!?」
ものすごい勢いの引力が、黒い空間を見つめていた私を襲った。あまりに突然の出来事で、思わず驚きと焦りの声が出た。もちろん私は必死で抵抗する。
グ、と力を入れそれに抗う。本当に必死だった。
……この先に行ったら、とてつもなく危険なことが待っている気がしたから。
しかし、抵抗虚しく、私の身体はズルズルとその空間に引き込まれていく。
そして、その予感を裏付けるように、引力の影響を受けているのは私だけでは無いことがわかった。五大神が視界に入る。
「む!? なんだこれは!」
「おい、こんな技……あいつらに使えんのか!?」
「っ――! こ、この力……」
三人は今まさに、私と同様の空間に引きずり込まれようとしていた。同じく、淀んだ闇のようなソレに。
「くっ……『
「『
「『戦う天使よ、生誕なさい』……!」
神々が、この引力には抗えないと思ったのか、最後の魔法や権能を行使した。
ぞろぞろと、それによって生み出された騎士や天使がザッと整列する。空ではゴロゴロと雷鳴が鳴り、時折カッと光が暴れる。
そんな、神をも凌駕する異常な力が、私に遅くとも状況を察させた。
ああ、これは……
生誕神が、引力に抗い声をあげた。
「これは、聖女が使った力の……代償です!!」
……私の力の代償なんだ。
グンと私を引く力が強くなる。ふわりと身体が浮き上がった。私はもう、抵抗することが出来なかった。
それは五大神も同じ。
命を救った代償に、五大神も私も同様に、その暗い空間に引きずり込まれていく。現実空間へと続く道が、どんどん狭まって遠ざかっていく。
心のどこかで全てを諦めた自分がいる。
ああ、遠い、帰れない……。
……さようなら。
あと少しで光が消え去ろうかと言うとき、
「「リリーさん!!」」
私の命を確実に奪う空間に、二つの声が重なり響いた。互いに手を取り合って、私の方に手を伸ばして。
あ。
ホロリと一滴、涙が零れた。
リアムさんと、ステラさんだ。二度と会えないと諦めた二人が、その空間に飛び込んできた。
二人は言う。
「絶対に……」
「一人にはさせないっ……!」
強く、私の手を取って。
昔、私にしてくれたように二人は言った。
「「大丈夫……俺(私)たちがついてる!」」
私たち三人と五大神は、漆黒の闇に消えていった……。
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