第30話【踊っているのは/リアムside】
「『世界よ呼応し力を示せ。……
自らに、戦力を一・五倍にする加護をかける。それと同時に矢の創造。魔法陣から溢れ出る金色の光が俺を包み、ぐんぐん力を増幅させていく。
攻撃力、防御力、干渉領域……。
各種ステータスがみるみる上がっていき、ほんの一秒足らずで俺の戦力は93万にまで増幅した。
全身から、煌々とした紅のオーラが溢れ出す。それは、この力の強大さを物語るかのようにきらめき、俺を護る結界を構築した。
アルティーユを見据える。
この力で、まずは厄介な回復役である生誕神を倒したい。
「『
「『
視認できない矢を放った。俺には見えるが相手には見えない、光の屈折を利用した矢だ。それはひゅっと風を切り迫る。
しかし、アルティーユは無造作に
……読まれたか。
詠唱するのは賢明ではなかったなと、今更思う。
が、しかし。それは読まれた。技名の詠唱を行ったからだ。
技の詠唱は技の威力を高めるというメリットを持っているのだが、相手に何の技なのか知られてしまうというデメリットも持ち合わせている。相手に何の技か知られるということは当然、対応も幾ばくか容易になるということ。
アルティーユは俺の詠唱から技を察し、即座にそれに対応したのだ。
「私を優先的に倒そうと? ……まぁ、当然のことですが……」
アルティーユが、ふわりと矢を回避し言葉を紡いだ。そして、穏やかな、諭すような微笑を堪えながら俺を見つめる。
避けられた矢ははるか彼方に飛んでいき、ふっと空中で霧散した。
「射手の強みはその機動力。ですが、その機動力……速さを上回ることが出来てしまえば、攻略するのはどうってことありません」
空中で静止し俺を見下ろす格好で、アルティーユは尚も穏やかに続ける。
「射手の強みはその機動力」
生誕神が発したその言葉が、生誕神との戦いの難しさと、自分の職業の特徴を再認識させた。
……その通りだ。俺たち射手は、速さが全て。
どれだけ高威力の矢であろうと、遅い矢は絶対に当たらない。言い換えれば、矢を視認し避けることが出来てしまえば、俺たち射手は脅威ではなくなる。
なら……
「『
三倍なら、どうだ。
ガシュッという音を立て、速く鋭い矢が飛来する。アルティーユは少し驚いたように目を見開くも、その顔はすぐに微笑に戻った。
「先程よりも速いですね。でも……」
目標まであと三リーテル。アルティーユは一旦言葉を区切り、ほんの少しだけ
左にズレた。余裕を持った移動。
「視えている時点で、私に当たることはありません」
微笑と共に、また矢は霧散した。
「……」
これも、視えているのか……。
三倍速であれば当たるだろうと思っていたのだが、余裕を持って回避されてしまった。
恐るべき動体視力と、反射神経。さらに
防御力に特化した神というわけか。
これはなかなか長期戦になるなと、心のどこかでそう思う。
次の一手を考えている間も、可能な限り周囲を見渡し情報を整理する。
アルティーユは攻撃を仕掛けてこない。先程から回復ばかり請け負っているし、攻撃に転ずることは無いと考えて良いだろう。もし、仮にあったとしても、大体が対処可能な威力。
ディアルとガルドは冒険者の殲滅に取りかかっている。が、リリーさんの結界や各冒険者の攻防で拮抗している。
アルティーユを倒せば優位に立てる。だから、それまでは持久戦。
俺は連戦になってしまうが、もし今のメンバーの体力や魔力残量が減ってきて戦闘できなくなったとしても、避難所で休んでいる仲間たちがいる。
……全て、俺の作戦通りだ。
ふいに。
「私の
周囲の喧騒に混じり、酷く冷静な声が聞こえた。
見上げると、アルティーユが俺へなのか独り言なのか怪しい声音で声を発していた。
アルティーユがこちらを向く。
「だから、先に私を倒そうとお考えなのでしょう」
……俺に対してか。
俺はこちらを見るアルティーユを見つめ返し、無言で次の言葉を待った。
待たずとも、俺の心を見透かすように言葉は続いた。
「『聖女に防御の全てを任せ、俺が攻撃に回れば良い』そんな風に考えていらっしゃるのでしょう」
アルティーユは困っているような、なんとも言えない含みのある顔をした。
遠くで少しだけ、戦場の声が聞こえる。
ザワザワと確信に近い予感がした。裏付ける一言。
「それもこれも全て……私たちの手の内です。……考えなさい、リアム・ルーカス。でなければ、三十分後、ここに立っているのは――」
声が、遠ざかっていった。刹那、周囲の喧騒が、嘘のように止んだ。
……いや、聞こえなかった。
紅蓮の炎に照らされて、美しく佇む生誕神。誰も干渉してこない静寂な世界で、かの輪廻の神は宣告する。それは……
「貴方だけです」
とても残酷な、そして信用に値する、未来の生者の数だった。
《開戦から約二時間》
死者:十七名
重症者:ゼロ
目標:残り三名
戦況:
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