第10話【ステラ・ルーカス:開戦】
冒険者は普通、別の仕事と掛け持ちして冒険者をやっている。冒険者の任務は天候や時間帯によって異なり、毎日の仕事量がまばらだからだ。もちろんそれは私も一緒で、私は宝石鑑定士の仕事の傍らで冒険者をしている。
時刻は午前六時半。今日はちょうどお休みの日で任務は九時半からだから、私はのんびりと朝食を食べていた。今日のメニューはパンとスープ、それに焼いたソーセージだ。
手抜きだと思われるかもしれないが、私たちはいつもそんな感じ。
「んー……、調和がますます使いづらくなっているような……」
パンをもぐもぐしつつ、魔力の流れやステータスを確認。
今日はいつもよりかなり流れが悪い。以前までの半分も力を使えなくなっているから、かなり調和が取れていないということだろうか。
嫌な予感がするな……。
そう思って再びパンを口に入れたそのときだった。
「我等はこの世界を護りし五大神!」
「っ!? げほっげほっ……」
唐突だった。ぞくっとするような不快感と共に直感で身の危険を感じ、かなりむせた。
……これはやばい。私でも敵わないような強大な力が、シャミス一帯を覆っているのがわかった。
「リ、リアムさん!!」
慌てて席を立ちリアムさんを呼んだ。が、リアムさんは朝から装備の調整で不在だった。
すぐに夫を頼ってしまう自分の不甲斐なさを感じつつ、急いで冷静になる。
私は圧倒的な強さを持っているわけじゃない。でも、私は……
壁に貼ってある賞状を見る。
『シャミス戦力ランキング第八位 ステラ・ルーカス様』
私は、シャミスの上位八人に入る戦力を持っている。そして、上の六人が来るかはわからないし、もしもこの国に危険が迫っているなら、守らなければいけない人が大勢いる。
リアムさんには頼れない。
覚悟を決め、装備を整えた。
……私が、やらなきゃ!
「ミルキー! 私を王都まで連れてって!!」
家から飛び出し、愛馬ミルキーを召喚した。そして颯爽とミルキーに跨り、王都レイクティアを目指した。
……なぜ、そこを目的地にしたのかはわからない。しかし、人が多くいる場所に自分が必要だと思ったのかもしれない。
穏やかな秋風が私の横を吹き抜けて、静かな街に馬の駆ける音だけが響いた。
この美しい世界を守らなきゃ、いつもどおりの朝を、守らなきゃ──!
本当に身の危険が迫っているかもわからないのに、ただひたすらに、私は愛馬を走らせた。冒険者としての勘だろうか。それとも、こうなることがわかっていたのだろうか——……。
「この世の光を信じし者よ、審判の時だ!」
「っ! そんなこと、させないからっ! ミルキー、最高速度でお願い!」
再びあの声が聞こえてきた。
徐々に魔力が強まっていくのを感じ、焦燥に駆られる。
はやく、早く、速く!!
一刻も早く、王都に行かねば。その思いが私を支配し、それに呼応するかのように愛馬は駆けた。そのとき、私の脳裏に浮かんだのは、愛する人と、大切なあの子のこと。
リアムさん、私に力を貸して!
リリーさん、どうか……無事でいて!
王都の城が見えてきた。無事間に合ったという安堵と共に、五人の神がいる上空を見上げた。
ぽつりと、無意識に言葉が零れた。
「あれが、五大神……。あの禍々しい魔力を一体どこに……」
無垢な子供のようだなと自分でも思った。
本当はわかっていた。あれは、全てを焼き尽くしてしまう物だってこと、そして私たちへの最初の攻撃だってこと。
でも、心のどこかでは信じたかったのかもしれない。
大丈夫だ、そんなことは無いと。
「開戦だ。
淡い期待は、無情にも打ち砕かれた。
「やっぱりね」という自分と、「そんな」という自分の心がせめぎ合った。
私は王都に行くまでの間、戦いが始まるという絶望に染まってどこまでも堕ちていくのかなと、何度も思った。でも、私には守らなければいけないものがある。戦いが始まるからといって、絶望している暇は無い。
再び、二人の顔が脳裏をよぎった。少し照れたような優しい笑顔、今にも壊れてしまいそうな儚い笑顔。
「私は——……あの笑顔を守ってみせる!」
こちらに向かって放たれる魔砲に標準を合わせ、矢を放った。
「『
私の矢はキラキラと月光のような輝きを放ち魔砲に迫る。星座を描くように命中した矢は、ズッ、ガガガ……という音を立てながら迫りくる魔砲を崩していくが、魔力の粒子に還っていく魔砲は全体の二、三割ほど。威力を幾ばくか削ったものの、焦土になることは免れられない威力を保っていた。
力不足だ……。
私はギュッと目をつぶって、祈るように呟いた。
「っ……リアムさん、リリーさん……生きててっ……!」
『レイクティアは、焦土と化し……ザッ……ザザッ……』
ステラ・ルーカス:開戦
死者:?名
重症者:?
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