第18話【役者は出揃った/リアムside】
ドタドタと遠くから足音が聞こえる。
こんなに多くの足音……一体誰だ……?
一瞬幻聴かと疑ったが、どうやら幻聴では無さそうだ。思考力も低下しているのか、足音の正体に辿り着けない。しかし——……
「……何ですの? あれは……この国の冒険者!?」
「む!? なぜだ、臆して戦力外になるはずだろう!?」
「裏で説得したものがいるようですね」
「あははっ! そう来なくっちゃ!!」
「やはり見せてくれるか、この国の者共よ!!」
五大神が、こちらにやってくる集団を見て答えを示した。
この国の、冒険者……?
その言葉で、
『冒険者を全員ここに呼んで!』
止まっていた歯車が動き出すような、そんな感覚を覚えた。
……いつからだろう。説得に時間がかかると、きっと戦ってくれないと、自分一人で戦う気でいた。俺一人しか居ないと思っていた。
でも、そうだ。冒険者を集めてと言ったのは、俺だった。
俺にかかる重圧が変わる気配は全く無い。だが、それでも俺は戦えると思えるようになっていた。
バラバラだった思考が一つになっていく。
俺は、俺には——
「リアムさん!!」
「っ……ステラ……!」
愛する者がいるから、大切な仲間がいるから、守りたいものがあるから。だから、敵わない相手であっても、戦おうと思えたんだ。俺が本当に怖いのは、大切なものを失うこと。だから——……。
六十倍となった重力に負けないように、丁寧に魔力を集わせていく。
「……『大地震撼……」
(
あと少しで詠唱が終わるといったその時、遠くに小さな影が見えた。それは俺の十メートルほど前に現れ、ちょこちょこと俺の方に近づいてくる。
鼠だった。
俺との距離は、あと五リーテルくらいだろうか。ふいに、まっすぐ駆け寄ってきた鼠が消えた。
否、潰れたのだ。
「っ!?」
今までの光景が走馬灯のように高速で流れた。
デディケイトが作った魔法陣、六十倍という言葉、重力の影響下に無い民家。そして、潰れた鼠……。高速で流れる記憶の中で、ぶくりと一つの可能性が浮上した。
嘘、だろ……?
その可能性は、残酷にも同様にこちらに駆け寄ってくる冒険者の生死を分かつものだった。
無関係だった今までの記憶が線を結ぶ。
今までは、重力の対象は俺だけだと思っていた。俺の周囲には別の可能性を示すものが無かったからだ。
そもそも、別の可能性なんて考えもしなかった。
しかし、たった今、別の可能性が浮上した。
……もしも。もしもあの魔法陣が、俺を対象とするものでは無く生物を対象とするものだったら……?
「リアムさん! 何ぶっ倒れてんだよっ!」
「治療するわ!」
「まだ戦えるだろ!!?」
「俺たちは、全員でリアムさんを援護するからよぉ!!」
彼我距離およそ二十リーテル。冒険者たちが、俺に声援を送りながら駆け寄ってくる。治療魔法を展開している者もいる。
……その行為は、本来ならきっと正しいのだろう。俺を援護してくれるのはありがたいし、治療だって必要だ。
……でも違う。違うんだ。俺は倒れているんじゃない。押さえつけられているんだ。
先頭の冒険者十六人と俺の距離は、現在十七リーテル。
早く、一刻も早く伝えなければ。頭でそう思っても、重力六十倍の空間で声を出すのは難しい。うめき声が勝ってしまうし、気道が圧迫されていて、酸素の供給が非常に少ないからだ。
だが、このときだけは、痛みや体にかかっている負荷など関係なかった。
「く、来るなぁぁぁぁぁっ!!!」
冒険者たちが驚いたような顔をした。残り十四リーテル。
「はあぁ!!? 一人じゃ戦わせねぇよっ!!」
「違う! そうじゃないっ……!」
「そうじゃないって何だよ!!?」
なんとか事情を伝えようと声をあげる。が、重力六十倍の世界で大声を出したせいで、急に頭がクラクラしてきた。息が苦しい。残り十メートル。
「俺はっ……倒れてるんじゃ、な……くて……」
あ、やばい。意識が……薄れて…………
「っ!? 待って、止まって!!!」
「うあああああああああっっっっ!!!?」
それ以上は言葉にできなかった。
《開戦から約一時間》
死者:?名
重症者:一名
戦況:やや劣勢
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます