第24話【無意味な戦い/ステラside】

 開戦から約二時間が経った今も、相変わらず戦いは拮抗していた。


「皆、攻めになったよ! この状態を維持し……わっ!?」

「『紅蓮炎舞』! ステラさん気をつけて! ディアルはリーダーわたしたちを狙ってるのよ!」

「はい! 『抵抗射撃カウンターショット』!」


 技と技とがぶつかり合い、力と力が火花を散らす。戦況は、先程までとはかなり変わっていた。


 何度も攻撃のチャンスが訪れる。が、決定打を打ち込むよりも速く、神々が技を放ってくる。守りに転ずるもカバーしきれない部分が出てくる。


 神々の団結により、わたしたちはゆっくりと押され始めていた。


「っ……きりが無いっ……」

「『終焉毒素ウルフズベイン』。……このままじゃ押し負けるぞ」

「『標的集中ターゲッター』! 体力的にも限界だぞ!?」

「うんっ、でもどうすれば!」


 目まぐるしく攻守が入れ代わり、わかっていても翻弄されてしまう。何時間もずっと戦い続けていれば、やがて限界を迎える者が出てくるだろう。だからといって、休憩なんてものができるわけが無い。短期決戦も望めない。


 ……状況はかなり厳しさを増していた。


「『突風波動ウィンディショット』! あははははっ! あっれれぇ〜〜? 元気無くなってきたねー!!!」

「おい、煽るな『炎熱弾丸フレアショット』」

「えー、やだー! だって、面白いんだもーん!」

「ったく……」


 対して、神々は雑談ができるほどに余裕だった。


 いくら人を集め、戦術を練り、こうして団結したとしても、地力の差を埋めることはできなかったのだ。


 そもそも、勝てる見込みすら……。


「……だが、あいつらにはまだ何か、策があるんじゃないのか?」


 ディアルが期待を込めるように言った。


「『神聖炎熱ホーリーフレア』。……そうですね。相手を欺く手段を持つのは、戦うものとして当然ですから」


 アルティーユも同調する。


 当然だという発言は、悠久の時を生きてきた神という存在の大きさと、その戦闘技術の高さを物語っていた。五大神は、シャミス軍の秘策を警戒しているようだった。


 そこに、ガルドがふらりと現れる。


「なぁ、どうするのだ? 我々がここで戦闘を始めてからもう一時間半経つが……。ここを抑えて、滅ぼすのか?」


「『闇魔砲ディアングル』……ガルド! 貴様、一体今までどこに……!」


 ディアルが「どこをフラフラしていたのか」と言いたげに、ガルドを振り向いた。


「む、ちょっとな。……どうするのだ? 我等のリーダーはお前だ、ディアル」


 ガルドは少し言葉を濁し、ディアルに決断を急がせた。

 

 ガルドは特別飽き性という訳でも無く、普段は急かすことなどしない。


 そんな彼が……凛とした光を宿す彼が何を言いたいのかを察したように、生誕神が言葉を発した。


「……無意味だと言いたいのですか? この戦いが」


「うむ、そうだ」


 アルティーユは深くため息をついて、ゆっくりとガルドを見つめ返した。


「全力で望まない戦いは無意味だと、そう言いたいのですね。目的を遂行するためには、必要ないと」


「何なに? 何の話??」

「あなたは彼らの相手をしてなさい」

「はーい……」


 デディケイトが話に乱入してきたが、冒険者との相手を任せ、話を進めていく。

 デディケイトなら、重力操作で邪魔をしようとするものを制圧できる。

 一人で充分だった。


「遊戯のつもりでは無いのはわかる。が、何を目的としているのだ?」


 ガルドは核心に迫る質問を投げかける。


「…………」


 アルティーユとディアルは少しだけ俯き、その質問に対する回答を渋った。


 否、笑いを堪えていた。


 が、愉快で仕方がないといったように、戦闘中にも関わらず声をあげて笑った。


「ふはははははははは! 何を言い出すかと思えば、そんなことか!!」

「ふふふふっ! ガルド……さては貴方、をしてたとき、寝てました?」

「む!? な、なぜそれを……!?」


 核心に迫る質問……のはずだった。


 ガルドは頭が冴えているわけでも何でもなく、作戦の内容の確認に来たのだった。ひとしきり笑い落ち着いた二人はガルドを見て、幼子を見るような優しい目をした。


「寝ていたとはな……くくっ……いや、でもそうだな。本気で臨まなければ、決着は永遠に訪れないな」

「あの状況で寝るなんて……まったく。……それでガルド、貴方が言いたかったのは決着がつかない戦いは止めた方が良いということ。そうですね?」


 散々笑われたが、ガルドが言いたいことは伝わったようだ。ガルドは少し赤面して「う、うむ……」と答えた。アルティーユはにこりと笑い、後方にいるデディケイトを呼んだ。


「デディケイト! こちらに来てください」


「ん? 今、忙しいんだけ……どっ!『重力混沌カオスグラビティ』! ……はーい!」


 デディケイトがこちらにやってくる。


「何ー?」

「決着をつけるために、動くことになりました」

「ふおー! 了解!!」

「ガルドが用意をしたようだ。……そうだよな?」

「うむ。動作確認なども終わっている。あとは、起動するだけだ」

「へー!! すごいじゃん、ガルド!!」


デディケイトは目を輝かせて話を聞いている。


「つまり、本気でバトルするってことだよね?めっちゃ楽しそう!!」

「うむ。本気だ。間違えるなよ。……では、起動するぞ?」

「おっけー!」

「はい」

「ああ」


 四人での情報共有ができたところで、天候神が片手を上げた。


「『雷電空間サンダーフィールド』!」


 途端、とてつもない量の雷雲が、シャミスの上空に集っていった。その雲はグルグルと渦を巻き、戦場の上を駆け巡る。わずか数秒足らずで電気が溜まり、バリバリと雷がなり始めた。


「な、なんだ!?」

「雷……天候神のだ!!結界を!!」

「「「『帯電防御サンダーガード!!』」」」


 急な天候の変化にどよめくシャミス軍。結界を張ったようだが、これは防げない。バリッバリバリバリ!!!!一際大きな雷鳴と共に、複数箇所に雷が落ちた。


「……っああああああああっ!!!!」


 これが、天候神の……操空だ。


《開戦から約二時間》

死者:?名

重症者:?名

現在の戦況:???





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