終わりはスタート

「おっデート中やったんや……わるいな」

 とイケメンが私服で佇む。全く悪かったとは思っていなさそうである。


「ごめんね。これ急ぎだったんだね」

「別に急いでない」

「え?」

「邪魔しに来た」

「……もう またあ。」


「上手く行きそう?楽しい?」

「うん」

「へえ。どこが良いんやろなあ。」

「ははは」

「なあ、天音。もしさ俺に先に会ってたら違った?俺が幼馴染やったら?」


 幼馴染度を争うのであれば幼稚園児あたりからやり直さなければならないのでは。


「さあ。幼馴染だからじゃないんだよね。こーちゃんは特別なんだ」

「ふうんっ。特別か……いいなあ。じゃ、行くわ。また明日〜」



 ユージに手を振り、振り返った天音は悲鳴を上げる。

「ぎゃあっ」


 気配を完全に消し去った幸太郎がすぐ背後にいたのである。いつからそこに居たのだろうか……。


「ちょっと長いから来た」

「あ、もう行ったよ」

「知ってる」

「なに?こーちゃん怒ってるの?」

「別に。怒ってない。心配しただけ……」

「ふうん。大丈夫だよ。私はこーちゃん以外にフラフラしないっ。」


 そうだ、あの数股かける元カノとは違うのである。


 道端でご近所の塀にもたれたまま話す二人。


「こーちゃんはさ、杏里と付き合ったあとから、その……なんていうの。私を気になった?」


 そうである。ずっと気になっているが天音が突っぱねて逃げてきたのだ。付添人だからと。


「ああ、それは……多分 天音が俺にとっては初恋の人だ」

「…………」


 頬を赤らめ俯く天音。聞いておいて照れくさいのだ。


「なんでユージ君にニセ彼氏頼んだんだっけ?遠ざけたかった奴らがいたからって、それに俺入ってた?」


 入っていた。入っていたどころか、幸太郎を遠ざける為だけに存在したようなニセ彼氏であったのだ。

 天音はどう答えるか迷いつつ飛び出た返事は


「うん。入ってた。一番に入ってた。」

「え」

「杏里が居るのに……優しくて、こーちゃんに構われるたびに胸が痛くてさ……だから近づけないようにユージに助けてもらった。」


 何やら胸に熱いものが込み上がったのか、切なそうな顔をし、幸太郎は天音を抱きしめた。


「これからは、全部俺が助ける。天音のことは俺に任せろ。」

「こーちゃん」

「ん?」

「自分を一番に大切にしてよ」

「ん……二番かな一番は天音だ」

「ふふ」


 天音は幸太郎がやり直す前に事故にあって亡くなったのが気になる。またそうならないように、側に付いているつもりである。


 恋人に付添人の精神で寄り添うのも愛の形かもしれない。自分が側に寄り添うことで、相手が幸せならこの上ない喜びかもしれない。


「こーちゃん バイト!」

「あっ」


 二人はこれから先、普通のカップル同様喧嘩もしたり、あの友人達と戯れながら日々を過ごしていくのだろう。



 ☆☆☆

 そのころあちらの世界では


 管理人達は見守っていた。


「あ、天音ちゃん付添人終わってもやっぱり水木幸太郎にへばりつくんですね」

「まあ……好きなんでしょうね。」


「彼女の記憶どうします?」

「付添人の?」

「ああ」

「消しちゃおっか。付添人の記憶のまま、この先の長い人生歩ますのは可愛そうでしょう。ほら、今まで他の人も皆消してきたんだし。」


「そうですね。消したら普通に幼少期からの記憶でなんら他の人間と変わりませんからね。記憶はしっかりインプット済みですし」

「じゃ、やるか」

「あ、間違っても、記憶全部は消さないでくださいよ」

「はいはい」

「あ」

「なんだ?」


「もし、付添人の記憶消したら水木幸太郎への愛情消えませんかね……」

「さあ……それは……知らん」

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