文化祭2

 今週は6時間目を全て学活とし、文化祭準備に充てられる。部活、塾やバイトの無い者は残ってでもこなすのであった。

 さらに、学級委員船越さんはたった一日で脚本を書き上げてきたのだった。


「さっ、みんなが切り貼りしてる間にこれ読んで。後でみんなの前でやってみて変更箇所は変更しましょう」

「あ、はい」「「はい」」


 きっと船越学級委員は将来有望な社会人である。


 三人で椅子を向かい合わせに座る。


「ね、ひとつだけ聞いていいかな。二人は幼馴染なんでしょ。仲はいいだろうけどそれだけかな?」


「そーだけど」


「じゃ天音ちゃん 水木幸太郎を好きとかありえないんだね!」


「まあ、あんたよりは好きだけど」


「「……」」


 残念な人と嬉しい人の沈黙である。


「ほらっ最初のセリフこーちゃんだよ」

「あ、はい。じゃいきます」「はい」


『今日は私のバースデーなの お花を摘んでお部屋にかざろうかしら』

「キャハハハハハハ」

 ほぼボー読みでも笑えるのであった。


『ひゃーはっはつ この針に姫が触れれば私ののぞみ通りだわさ ひゃーはっはつ』

「ちょっと、吉高君うますぎ」

「そう?それは光栄です」


 それが例え魔女役のだみ声を褒められたとしても天音になら嬉しい限りの吉高玲司である。




 キーンコーンカーンコーン




「では用事ない人だけ残ってくださーい!」

 船越学級委員が叫ぶ。クラスの大半は居なくなったのであった。


「こーちゃんはバイト?」

「うん」

「天音は?」

「残る。じゃあねっまた明日ーっ」

「お また明日」


 幸太郎は後ろ髪を引かれる。楽しそうな放課後のひととき。共同作業に笑いが絶えない青い春の教室。

 天音と吉高玲司を残して行くなど無念である。しかしバイトはバイト。無遅刻無欠勤は当たり前である。




「ちょっと誰かイバラ描くの手伝って〜」

「はいよっ」


「天音〜終わった?」

 吉高玲司はその声の方をギラリと睨む。まだ片割れが残っていたのだ。

 隣のクラスの勝太郎であった。


「そろそろかな。あっ入っちゃだめ」

「ああ じゃ待っとくわ」

「はい〜」


 結局天音は勝太郎と帰る。


「こうが姫なんだって?」

「うん」

「ウケる。で、天音が王子?」

「うん」

「え、眠り姫ってさ……ラストキスじゃないの?」

「ねっムリ姫だから、どうかな〜。あらすじは企業秘密らしいわ」

「え?ダメだからな。絶対マジキスは駄目だからな」

「はあ?するわけないでしょ」




「え!?こーちゃん」


 バイトへ行ったはずの幸太郎がいる。

 寝間着姿の満面の笑みのお婆さんを背負って、天音たちの前を通過したのだ。


「あ、あれ家の隣の隣のおばあちゃんだわ。また迷子だったんじゃない。毎回こうが見つけるんだ」


「はあ……ほんと人がいいんだね。」


 お婆さんを家に届け、また走って幸太郎が通過する。

 リュックに腕を通しながら猛ダッシュである。


「こーちゃん!」

「遅刻しそ。じゃあねー!」

「気を付けてー!ひかれないでよっ」

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