文化祭3(当日)
「あのさ船越さん、うちら十時 十三時 十五時て三回もやるの?」
「そうよ。観客が居ればね」
上演時間以外暇な二年三組は他のクラスを回るのだった。隣のクラス四組に幸太郎と天音は行く。
『オカマBarつばさ』
「何これ オカマバーて、つばさ?」と入り口ドア上部にキラキラを沢山施し、書かれたダンボールの看板を見上げる天音。
「つばさ…… あ、四組の村上先生の名前、つばさだ」
「え こーちゃん 入る?これ」
「やっぱ、後にしよ」
「うん。十時の部終わってからね」
三組に戻り、衣装を着る三人。
すると、天音の男装王子にキャーキャー声である。色素の薄い美少女に、ぴったりマッチした銀髪王子であった。
対する姫は……期待通りのキモさであった。
金髪のクリクリ安いパサパサウィッグが、出来損ないのドラァグクイーンのような雰囲気である。
ピンクのオーガンジー調のドレス裾からのぞくスネ毛が絶妙であった。
魔女は、意外に普通である。このような状況ではキモいもの勝ちである。
「それでは、『ね ムリ姫』始まりま〜す」
『今日は私のバースデーなの お花を摘んでお部屋にかざろうかしら』
観客席では既に笑いが起こる。チャラランランラン♪幸太郎はスキップする。
『ひゃーはっはつ この針に姫が触れれば私ののぞみ通りだわさ ひゃーはっはつ』
『痛いっ』
迫真の演技でぶっ倒れる幸太郎を、机をつなげその上へ持ち上げようとする男子達がなかなか持ち上がらないのが、また笑いを引き起こすのだった。
あくまで真面目な船越学級委員だけは、焦りを顔に出している。
ようやく、眠った姫に天音王子が茨の森を掻き分けて救いに来る。
『美しいオーロラ姫とやらはここか?』
『オーなんと美しい金色の髪、その美しくなめらかな肌、果実のように赤い唇』
眠る幸太郎も、笑いをこらえていた。
『今 愛のキスを 君に捧ぐ』
観客は天音王子にみとれていた。
天音はゆっくりと幸太郎の顔に手を添える。
そしてキスするフリをする。
が、天音は簡易机ベッドについた手を滑らせたのだ。
プチゅっ
「キャーキャーッ」「ギャーっ」
そこら中で歓声か悲鳴かが湧くが、役者達はやり切るしかない。船橋学級委員はゆっくり頷いている、やり切れと言っているのだろう。
王子のキスで目覚める姫
『あなたはどなた?』
『わあ 君は本当に姫なのか?その目は開いているのか?細すぎやしないか?ごめん。無理っ!!』
そして逃げ回る王子を追い回す姫
『王子様ーチューしたでしょー』
観客は笑うが、笑えないのは幸太郎である。
心臓が飛び出そうなままピンクの姫は終演のお辞儀をした。
「こーちゃん ごめんっ。すべった」
ごめんと言われても、ありがとうと返したいくらいに幸太郎は幸せを感じたのだった。
そして、周りからは突き刺すナイフのような視線が姫に向けられる。
「隣行こう」
場が持たない幸太郎はオカマバーに助けを求めることにした。
ガラガラガラ
「いらっしゃあーいっ。ようこそバーつばさへ」と張り切るのは生徒を差し置き入口に立つ村上先生 35歳独身は女装していた。完璧な女装である。使い古したハイヒールも妙にぴったりフィットしている事から誰しもが、ガチの趣味であろうと察した。
「いらっしゃいませ」
と男子の制服を着て注文を聞きにきたのは杏里だ。
何故かカチューシャは猫耳である。
「なんで猫?かわゆいね杏里っ」
「ありがと。二人!衣装のまま?やばっ」と杏里も幸太郎を見て笑うが、二人の客の表情はひきつっている。
「いらっしゃあいっ 初めましてっ。しょうこよ」
「しょーたろ……なかなか酷いな」
「あらそう?なかなか好評よ。あたし。天音王子カッコ良すぎ〜そして、こう姫っキモすぎ〜っ。」
「まさか、それは母さんの……」
「そうよ。我らのおかんのボディコンよ」
ピチピチツルピカレザーワンピである。胸もティッシュ詰めて膨らみを演出している。
もう、店員も客もコスプレが過ぎて酷い絵である。
35歳の村上先生がそれをまた数段酷く引き上げる。
文化祭とは一体全体そもそもの目的はなんであろう。
「ほーらっオカマバー来たんだから。恋バナよっ恋バナっ。」
さっきの衝撃に耐えきれず助けを求めたのに、目の前のオカマはそれを刺激しようとしている。
「こうは居ないのかしら〜好きな人とかあ。普段聞かないけどーオカマのあたしなら聞いてもいいわよねっ」
「そういう しょうこさんは?」と天音は適当に話に入ることにした。
だが返される返事はこの場をかき乱すことになる。
「あたし?あたしは……そうねえ 目の前にいる王子にぞっこんよ」
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